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22 チラつく影

5000pvに到達することが出来ました。読者の皆様ありがとうございます。

 夕食後、有紗を外に連れ出した。夜だから外は既に暗いが、所々にある照明が辺りを照らしている。


 「「ごめん……!」」


 俺が謝ると同時に有紗も謝ってくるけど、いやいや、おかしいだろ。


 「ちょ、ちょっと待て。なんで有紗が謝る? 悪いの俺じゃん?」

 「わ、私も悪いのよっ……!」


 思い当たる節は全く無いが、何故か有紗も悪いらしい。


 「ど、どゆこと……?」

 「わ、私はあんたがあの子に騙されないようにって、それを阻止するために動いてた。でも、あんたはそもそも絶対に騙されない。……だったら私がやらなきゃいけなかったことは最初からそんなことじゃなくて、橘さんがチラ子じゃないって確信して傷ついたあんたを元に戻してあげることだった。……できなくてごめんっ!」


 頭を下げる有紗だが、そんなことをされても困ってしまう。手を差し伸べてくれていた有紗を突っぱねたのは、他ならぬ俺なのだから……。


 「元に戻そうとしてくれてただろ? 電話もそうだし、わざわざ部屋の前まで来てくれたわけだから。それなのに俺は……」

 「――ち、違うわよっ……! 私はそのことを何も考えずに部屋の前まで行ったから、あんなことしか言えなかったわけでっ……!」

 「違わなくねえよ。じゃなきゃ、電話なんか掛けてこないし部屋まで来たりしないだろ? だから、ありがとう」


 あの日から、ずっとチラ子のことだけを追い続けていた。

 それだけしかせずに生きてきた。


 だから気付いてなんかいなかった。俺のことをちゃんと見てくれている存在に――。


 陽歌然り、杠葉さん然り、それに、有紗だってそうだ。


 「あ、ありがとうって? 私は何もできなかったのよ……?」

 「そんなことねーよ。気付けたから……。俺を見てくれてるんだって」


 俺がそう言うと、有紗の表情が急に顔を真っ赤になってしまった。


 「そう言ってもらえると気が楽になるけど……。あんた、かなり恥ずかしいこと言ってる自覚ある……?」

 「ん……? ……あ。やっぱり今の、聞かなかったことにしてもらえます?」


 やってしまった。良かれと思って伝えたことだったが、よくよく考えてみたらめっちゃ恥ずかしい。


 「嫌よっ! 忘れないからっ! はるちゃんにも伝えないとっ……!」

 「――そ、それだけはやめてくれっ! また何を言い出すかわからんじゃん?! 何でもするからお願いしますっ!」


 想像するだけで怖いぞそれは……。

 正攻法で貶してくるか、それとも予想の斜め上から攻めてくるか。

 何にしても嫌だ……。


 「冗談よ! 内緒にしといてあげる」


 有紗はそう言って悪戯に微笑んだ。


 「あ、あとそれとよ、ごめんな……。あんな態度で――」

 「――ストップッ! 謝らないで。私はありがとうって言ってもらえた。それだけで充分だから」


 先程の悪戯な笑みとは正反対に、有紗は優しく微笑んでくれた。

 凝視することができない。とにかくひたすら可愛くて、目の保養どころか逆に目が潰れそう。


 「まぁ、そう言うならそれでいっか」

 「ちょっと、何で私から目を逸らすのかしら? またブスとか思ってるんじゃないでしょうね? 私は世間一般に見て超美少女なのよ?!」

 「いつの話してんだよ?! そもそもあの時も、ブスとか言った覚え無いからな?! 普通に常日頃から超美少女だと思ってますよ!」

 「それなら良いわ! 全て許してあげる」


 有紗は可愛いと言われても恥じらうどころか誇らしげにする奴だから、俺もそれを面と向かって言うことを躊躇(ためら)わなくて良い。

 というか、これはただの願望だが、一回くらいは可愛いと言われて恥じらう姿を見てみたい。


 と、思ったけどよくよく思い返してみればまだ春休みだったあの日、買い物に付き合わされた帰りに見たことがありました。

 今となっては良い思い出ですね。


 「あ、それとさ、結局何で俺と橘の接触を邪魔してたわけ? やっぱチラ子知ってる感じ?」

 「――だからっ! 知らないわよっ! 私はただっ! 橘さんがあんたに自分がチラ子だって言う瞬間を見ててっ! 何となく違う気がしただけよっ……!」


 有紗は過去最高に凄い勢いでそう言ってきた。


 何故そんなに必死に否定を……?

 普通に言ってくれても信じますよ……?


 「お、おう……。そうか。すまんな何度も」


 有紗はコクリと頷くと、一度小さく息を吸って――。


 「あんた、さっき何でも言うこと聞くって言ったわよね? なら……、教えて? チラ子のこと」


 ――いつになく優し気な表情でそのように頼んできた。


 今まで渚沙以外に言ったことがなかった。

 けど、もう良いだろう。

 有紗の顔を見ていると、隠す必要もないと思えた。


 だから俺はゆっくりと口を開く。


 「……チラ子は俺が小学四年の頃に図書館で会った子。チラ子とはある約束をしたけど、俺は約束を守れなかったんだ。だからそのことを謝りたくてずっと探してた」


 初めて他人に対して口にすることで、心臓の鼓動が少し早くなるのを感じた。


 「……俺がテニスをやってた理由。ひたすら強くなって世界で活躍すればチラ子に会えるかもしれないと思ったから。まぁ……、それは現実的に無理って気付いたんだけど」

 「――ちょっ、ちょっと待って! まさか、諦めちゃったの……?」


 どうしてか、有紗は物凄く慌てた様子で聞いてきた。


 「諦めた……」

 「……えっ?」

 「って、思ってたけど、やっぱ諦めるのは無理」

 「――ややこしい言い方しないでよっ! ちょっと冷や冷やしたじゃないっ……!」

 「何で有紗が冷や冷やするんだよ……。ま、良いけど。……結局、チラ子を見つけて謝んないと気が済まないから、別の方法を考えることにした」

 「そう、なら良いんだけど……。もしかして、チラ子のこと……、好き?」

 「おう、チラ子のことは好きだぞ」

 「そ、そうなんだっ……!」


 有紗はやたら顔を赤くして俺から視線を逸らした。


 あ、これは別の意味で勘違いされたやつだな。


 「言っとくけど、好きは好きでも恋する好きではないぞ。友達としてだからな」

 「――それを先に言いなさいよっ! 変に勘ぐっちゃったじゃないっ……!」


 有紗はそう言った後、肩で息をしてから――。


 「……大丈夫、あんたならきっと会えるわ」


 ――これまたいつになく優し気にそう言ってくれた。


 何で今日に限っていつになく優しいのか、いや、本当はわかってる。

 元々有紗は、優しい子なんだ。


 そんなことを思っていると突然、サッと有紗の右手の小指が俺の右手の小指に絡みついてきた。


 「――いきなり何?!」

 「さぁ……? なんかいつの間にかこうしてたのよ」

 「は、はい……?」


 どうしてまたこんな状況になってるのか、全然理解が追い付かない。


 というか、また()()


 「私はあんたがチラ子に会えることを約束する。……だから、あんたは必ず見つけてね? チラ子のこと。約束よ?」


 そんなこと言われなくたってわかってる。とっくにそう決めてたから。


 「あぁ、約束する」


 チラ子は今、どこにいる?


 普通に俺の住む街か? それとも、俺の知らない遠い所か?


 花櫻学園か? それとも、他校か?


 もしかして、既に再会してたりするのか? それとも、そんなことはないのか? 


 また俺を陰から見てるのか? それとも今、俺の目の前にいるのか――?


 今朝の夢にチラ子は出てきた。今までと違うパターンの夢だった。何かの予兆かもしれない。

 橘のようにチラ子に成り済まそうとする奴も現れた。


 気のせいかもしれないが、俺にはどうにもチラ子の影がチラつき始めている気がしてならない。


 何にせよ、俺は必ずチラ子を見つけてみせる。

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