0 林間学校出発の朝
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新年度が始まって一ヶ月半以上の時間が過ぎ、これまでの人生に比べて私を取り巻く環境は少しずつ変化しました。
一年生の頃までは子供の頃から何も変わらずただひたすら自分の殻の中に閉じこもっていただけ。友人と呼べる存在は有紗さんと陽歌さんの二人しかいなくて、それでも良いと思っていました。
同世代の方で私の事を理解してくれるのはこの二人だけですから……。
そう思っていたのですが、やっぱり違いました。
本当はもっと昔からわかっていたのです。
他にも私の事を理解してくれる人がいることを。
中間テストも無事終わり、今日から二泊三日で一二年生合同の林間学校が始まります。
私は当然、去年は何の役にも立ちませんでした。
ですが今年は違います。クラスの方々の役に立ちたいと思っています。それが出来れば、きっと私の事を理解してくれる人も出てくるはずですから。
幸い、今年の一学期は去年と違い学級委員という立場ですし、これは私にとってチャンスのはずです。こんな私に手を差し伸べてくれる人達の為にも、このチャンスを何とか生かしてみせます。
だから、集合場所の花櫻学園に向かう前にここでしっかりお参りしていかなくてはいけませんね。
(どうか林間学校が上手くいきますように)
お参りをすると、小さな風が私の髪を揺らしてきました。
神様が私を激励してくれているのかもしれませんね。おかげで絶対に大丈夫って思えます。
「おーい! 綾女ー!」
私を呼ぶ声が聞こえます。有紗さんの声ですね。
振り返れば階段を上がったところで有紗さんが手を振ってくれています。
思い返してみれば、私はこういう時に有紗さんに手を振り返してあげたことがない気がします。
新学期が始まったばかりの頃に佑紀さんに手を振ったことがありますが、物凄く恥ずかしかったです。
佑紀さんは優しいからお姉ちゃんにも普通に接してくださりましたが、あの時はお姉ちゃんがご迷惑をおかけして本当に申し訳なかったですね。
私が有紗さんに小さく手を振ると、有紗さんは荷物をその場に置き、笑顔でこちらに走ってきてくれています。
「おはようございます有紗さん」
「綾女ー! おはよう!」
私が朝の挨拶を有紗さんにすると有紗も挨拶を返してくれその勢いで抱きついてきました。ちょっと照れ臭いですね。
「早速一緒に買いに行った服を着てくれてるのね!」
「はい! 動きやすい服装で林間学校にピッタリです! ありがとうございます有紗さん!」
林間学校は服装自体は自由ですので、つい先日有紗さんとショッピングに出かけて新しい服を買ってきました。
お恥ずかしいことに、私はこれまで自分で服を選んだことがなかったのでどうすればいいかわからなかったのですが、有紗さんが親切にたくさんアドバイスをくれました。
おかげさまで林間学校にちょうどいい服装になっていると私でもわかります。
「あ、そうだ! 私もお参りしとかなくちゃ」
有紗さんはそう言うと、お賽銭を入れてお参りを始めました。
「これでよしっ!」
「何をお願いしたんですか?」
「林間学校が上手くいくようにってお願いしたわ!」
「私と同じですね!」
有紗さんも同じことを思ってくれていて嬉しくてつい笑みが溢れてしまいます。
「ふふっ! やっぱ気が合うわね私たち」
有紗さんも嬉しそうに笑ってくれています。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
いつもと違う大きめの鞄を手に取ると、やっぱりいつもより重いです。この重さの分だけ今日からの三日間に期待が膨らみます。
境内を歩き階段のところに来ると、丁度お姉ちゃんが階段を上がってきました。
「あ、雪葉さん! おはようございます」
「あら有紗ちゃん、おはよう。二人とも今から出発?」
「うん。ごめんねお姉ちゃん。普段なら今日は神社のお手伝いをする日なのに手伝えなくて」
「いいのよそんなこと気にしなくて。あ、それより二人とも、林間学校ちゃんと楽しんできなさいね。お土産話ちゃんと聞かせてね。約束よ」
「はい! 任せてください! とびっきりのお土産話を持って帰りますから!」
有紗さんは握り拳を作ってポンっと自分の胸の辺りを叩いています。
私も負けてられません!
「私もお姉ちゃんにすっごいお土産話を聞かせてあげるから!」
「あらあら、それは楽しみね。期待してるわね」
「じゃあ、行ってきます!」
「気をつけていってらっしゃい」
お姉ちゃんにも見送ってもらい、杠葉綾女、いざ! 参ります!
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