番外編②あたしはなにか大きな勘違いをしていたのかもしれない
これからあたしは家の手伝いをする。
『弥生日和』、ここはあたしの両親が営む店で朝から夕方にかけては甘味処、夜は和食の定食屋に変貌する二つの顔を持つ店なのだ! そしてあたしは看板娘!
手伝えばちゃんとお金も貰えるし去年から相沢っちもここでバイトをし始めたから話し相手にも困る事も減ってなんだかんだ楽しくやれている。
おっと、店のドアが開いた。お客さんだ! お、クラスメイトで最近仲良くなったあやちん、ってことはいつもどおり姫ちんとはるちん……って、まさかの椎名っち?!
一体なんでなの? だってあやちんはあの二岡くんの彼女のはずでしょ?! それが別の男と二人でって! いやいやでもまさかあのあやちんが浮気なんてするわけもないし……。
と、とりあえず椎名っちには忠告だけでもしておかなきゃ!
だって椎名っち可愛そうじゃん! 二岡くんの彼女に手を出してるなんて広まればクラスから浮いた存在になってハブられて白い目で見られ陰口も叩かれて……。最悪の場合危害だって加えられかねないわけだし!
でもでも、転校してきたばっかの椎名っちにそんな事情なんてわかるわけもないし、だからあたしが伝えなければ!
あたしはテーブルにお茶を置きメニューを渡す。
いまだ! あやちんがメニューに夢中になっている隙に!
「どうゆうこと? 二岡くんの彼女だよ? 危ない橋渡りすぎ」
あたしはこの一瞬の間に出来るだけ多くの情報を詰め込んだ言葉を椎名っちに耳打ちする。
「はぁ……。決まったら呼べばいいのか?」
え、えぇー! なんでため息?! あ、あたしなんかまずったかなぁ? と、とりあえず変な空気にならないようにしないと。
「うん。あやちんはたまに来てくれるからおすすめとか教えてもらいなよ」
「はい! 任せてください!」
ど、どうしてあやちんまでそんなにノリノリなの?!
あたしはどうしていいか分からずに逃げるように厨房に引き上げてしまう。
「はぁ……」
「どうした? 頭なんか抱えて」
相沢っちがあたしの様子に気づいて声をかけてくる。
「それが、今椎名っちが来てるんだけどね」
「えっ?! 本当か? あいつ嗅覚鋭いな。場所までは言ってないのに」
「そうゆう問題じゃないよ! あやちんと来てるんだよ! あやちんと!」
「あやちんって杠葉のことか? それがどうした?」
「それがどうしたって、おかしいと思わないの?! っていうかこのままじゃ椎名っちが危ないよ?!」
相沢っちはあたしの力説にも顔色一つ変えずに注文されたパフェとぜんざいを作りながら口を動かす。
「何もおかしいことなんてないだろ。目に映っていることが真実なんだからよ」
「目に映っていること?」
「そう。で、目に映ってこなかったものは逆に真実じゃねーわな。ま、俺もちょっと前まではお前と同じ考えだったけどよ」
「どうゆうこと? よくわかんないよ」
「椎名と杠葉は友達だろ? なら別に一緒にここに来ても別におかしくねーってこと」
「だから、それが危ないんじゃん!」
あたしは二岡くんは凄いと思うし尊敬だってしている。あたしだけじゃなく花櫻学園全体でそういう雰囲気になっている。今まで事例がないから確証はないけど二岡くん絶対の学園でそれに反するものは学園中から強く非難されるに決まってる!
「はぁ……。あいつがもし危険な目に合えば俺はあいつの味方になる。ま、昔からそれは変わんねーけどな。春田はどうなんだ?」
「あたしは……」
あたしだってそうなれば椎名っちの味方をしたいよ。だって友達だもん!
でも、だからといって同じ目にあうのはやっぱり怖い。
「わ、わかんない……」
「そうか。まぁ、あの学校じゃそれも仕方ねーよ」
相沢っちは一定の理解を示してくれる。あたしにとってそれは有難い。仮に椎名っちの味方をできなくてもあたしに非はないと言ってくれている気がするから。
「うしっ! 出来た。ほれ、これ運んでくれ」
「あ、うん」
あたしは出来上がったパフェとぜんざいをお盆に乗せ配膳に向かう。厨房から店内に出る瞬間、相沢っちがあたしの背に向かって声を投げかけた。
「春田、杠葉と二岡が一緒にここに来たこと、一回でもあったか?」
相沢っちのその言葉はあたしの心に突き刺さった。どれだけ記憶を辿っても見つからない。それだけじゃない。他の場所で見かけたこともなければ噂で聞いたこともない。
そう、いつも一緒にいたのは姫ちんとはるちんじゃん……。
「相沢っち! これ、運んでくるね!」
あたしは何か大きな勘違いをしていたのかもしれない。
次回更新から第二章に入っていきます。
引き続きよろしくお願い致します。




