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番外編①姫宮有紗は素直になりたい

 春休みも残り数日となったある日、私、姫宮有紗はとあるスーパーに来ていた。

 そこで私は偶然目撃したのだった。はるちゃんと見知らぬ男が二人で食材の買い物をしている如何にも夫婦っぽい光景を。


 は、はるちゃん?! 彼氏ができたなんて聞いてないよ?! あ、あれ……? でも確か幼馴染が帰ってきてうちの学校に転校してくるようなことを言ってた気が――。


 ま、まさか、あのいかにも、いや、どう見てもただの普通男がはるちゃんの幼馴染?!

 で、でも状況的にそれは間違いなさそうね。


 私にははるちゃんの幼馴染であろうあの男に感謝してもしきれない恩がある。

 い、一応ちゃんとお礼は言ったほうがいいわよね。

 でも、はるちゃんの前であの話はしたくないし……。


 どうにか接触できないかしら。

 しばらくまるでストーカーのように二人の後ろをつけた私に、早速あの男との接触のチャンスが訪れた。


 「ねぇあんた」


 「ん?」


 何キョロキョロしてんのよ? 目の前に超美少女の私がいるじゃない?!


 「誰かに話しかけられたような気がしたけど、ま、いっか。とりあえず陽歌を追わねーと」


 は、はあぁー?! なんであんたは目の前の私に無関心なのよ? どう考えてもあんたに話しかけたの私じゃないっ……!


 「何無視してんのよ!」

  「あのー、申し訳ないのですがどちら様でしょうか?」

 「私が誰かなんてどうだっていいでしょ! あんたこそはるちゃんとどういう関係よ!」

 「はるちゃん? 陽歌のことですかね?」

 「そうよ。で、どういった関係かしら?」


 わ、私ったら、初対面の人相手になんて口の聞き方してるのぉっ……! こ、こんなことを言うつもりじゃなかったのに……。ちゃ、ちゃんとお礼を言うのよ! 私!


 「幼馴染と言いますか、家が近所と言いますか、そんなところです」

 「ふーん、なるほどね。あんたがねぇ」

 「あのー、それを知ってどうするんですか?」

 「別に、特になんもないけど」


 わ、私のバカァー! なんもなくないじゃない! 言わなきゃいけないことがあるはずなのにどうして私はいつもこうなのよぉー!

 はっ?! ま、まずい! はるちゃんが戻ってきちゃった。

 ふ、ふんっ! きょ、今日はこの辺にしといてあげるわ!


 はぁ……。結局私は素直になれない。

 私だって昔は大人しくて素直な子だったんだ。

 髪だって金髪じゃなくて黒髪だったし気を許せる関係の人以外にはこんなに傍若無人な態度だって取ったりしなかった。


 私は変わらなきゃダメだったんだ。もう二度と同じ過ちを繰り返さないように。

 誰かが辛い思いをしていたり、一人ぼっちで誰にも相手をされてなかったりしたら私はそれを見過ごしちゃいけない。


 手を差し伸べて、助けてあげなきゃダメなんだ。

 そのためには誰にも舐められるわけにはいかない。

 だから金髪にもしたし、傍若無人な態度だって作ってみせる。


 私が素で傍若無人な態度を取っているのは綾女とはるちゃんだけ。

 その他には家族以外に誰もいない。


 そう思ってたけど、何故かさっきの男には素であんな態度を取ってしまった気がする。

 ま、気のせいよね。


 いつか私は、あの男に素直に感謝を伝えられるかな?


 それができて、ちゃんとはるちゃんにも謝ることができたなら――。

 見えない壁が、消えてくれるかな……?


 私のことをもう一度、親友って言ってくれるかな?


 私もいつか、素直になりたい。

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