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17 生じたズレ

 杠葉さんの決意表明も無事終わると、日差しが直に襲ってくる屋上の気温に意識が向かう。


 「うっ、そういえばちょっと暑くね? 今更になって痛感してるんだが……」

 「そうだねぇ、私もちょっと汗かいちゃったかも」


 陽歌はブレザーを脱ぎ胸の辺りをパタパタとさせる。


 「……え? ――きゃっ! 見ないでヘンタイ!」


 陽歌は俺に脱いだブレザーを押しつけ視界を遮断してくる。


 「――ホガッ! お、おい! ぐるじい! ……って、あれ?」

 「――はっ! ご、ごめん佑くん。でもヘンタイは本当のことだからこれだけは言わせて。ヘンタイ」

 「いやこれだけは言わせてじゃねーよその前に言ってんだろが。……じゃなくて、肩が大丈夫ぽかった」

 「え……? あっ! 私、もしかしてブレザー結構グイグイ押しつけちゃってた?」

 「おう、普通に呼吸困難に陥りそうだったぞ。けど肩は意外と大丈夫……? なのか?」

 「なんで疑問形?! ごめんね佑くん、痛いの痛いの飛んでけー」

 「いや、どんな軽い痛みだよそんなんで飛んでかねーよ。……ふぅ、とりあえず今のでは痛みは特になかったわ」

 「はぁー、よかったぁ。私のせいで悪化しちゃったらどうしようかと思ったよ。あ、でも佑くん、今ので大丈夫でも本当に大丈夫な保証はないんだからちゃんとリハビリ通わなきゃダメだよ」


 陽歌は人差し指を立てて俺に助言してくる。


 そんなことを言われなくてもわかってるんだがな。


 「お取り込み中ちょっといいかしら?」

 「ん……?」


 声の先に目を移すと、有紗と杠葉さんがすぐ側に立っていた。


 「なんだか話し声が聞こえると思って近づいてみれば……、なんであんたがここにいんのよ! もしかしてずっと聞いてたわけ?!」


 有紗は顔を真っ赤にして声を荒げる。


 「有紗さん、落ち着いてください。私が近くで見守っててほしいってお願いしたんです。先に言ってなくてごめんなさい」

 「えっ?! そうだったの?! まあ綾女の頼みなら普通の男だったら聞くわよね。納得」


 えぇ……。そんな簡単に納得するんだ。俺的にも楽でいいけどさ、今回の件はともかくとして、もうちょっと疑うことを覚えた方がいいと思いますよ。


 「ごめんね有紗ちゃん。盗み聞きみたいになっちゃって」

 「はるちゃんは別にいいのよ! 私たち三人は固い友情で結ばれてるからね」

 「なに? その、俺を除け者にする感じ」

 「人聞きが悪いわね、私としてはあんたも立派な友達だと思ってるわよ?」


 面と向かって言われると流石に照れてしまう。だが友達と認められることは嫌ではなくむしろ嬉しい。


 「お、おう。ありがとう」

 「あらぁ? 顔が赤いわよ? もしかして、照れてる?! あんたって意外と素直に表情に出るわよねー」

 「それも佑紀さんのいいところです! でも、意外とポーカーフェイスも上手いんですよ有紗さん。今日のお昼もクラスの方々にバレないように私を呼び出したり――」

 「あー、やっぱあれはそういうことだったのね。周りは気付いてないっぽいからいいけど、同じ手がいつまでも使えるとは限らないわよ」

 「あと何個か対策は考えてあるからしばらくは大丈夫」


 同じ手が何度も通用するとは思っていない。そのために複数の対策を用意したのだ。だがそれも使い切った時、俺は一体クラス内でどういった立ち位置になっているのか、今は敢えて考えないことにしよう。


 「佑くんはこう見えて意外と頭は回るからね。勉強はできないけど」

 「最後の言葉、必要だった? たまには素直に褒めてくれてもいいんじゃない?」

 「私は決して佑くんを甘やかさないのです。何故なら甘やかせば甘やかすほど、ヘンタイになってしまうから」

 「ホント、相変わらず意味わかんねぇ……」

 「ヘ、ヘンタイ……。佑紀さん、やっぱりヘンタイさんだったんですか?!」


 ちょっと待って……? 何で杠葉さんまでそんなこと言ってくんの? しかも、やっぱりってどうゆうこと? そんな節思い浮かばないんだけど?


 「そうだよあやちゃん! 気をつけて! この人ヘンタイだから!」

 「いいからお前は黙っとけ! 変な誤解を生むだろ!」

 「ご、誤解だったんですね! ごめんなさい、私てっきり、昨日の未来さんとの話が本当なのかと思ってしまいまして!」


 いや昨日否定したよね? というかまだ覚えてたの? 俺はすっかり忘れてたから、蒸し返された気分だよ。


 「違うよ?! 俺別に年上に興味ないから! ――じゃなくてっ! そんなことより杠葉さんはそっち方面に染まらないでくださいお願いします!」

 「そうなんですか! 安心しました……。あ、で、でも、そっち方面って……!」


 杠葉さんは赤くなった顔を両手で覆い隠してしまう。


 「えっ?! ちょっと待てぇー! そうじゃなくて、俺をヘンタイ扱いして面白がる子にはならないでくれという意味で言ったんだけど?!」

 「――はわわわぁっ! ご、ごめんなさい早とちりしてしまいましたっ……!」

 「わ、わかってくれればもういいよ……」


 俺の言葉に杠葉さんは健気に頷いている。だから素直……、いや、何とか許せる。


 「いや、まだだよ! あやちゃん、この人のあの言葉には裏があるよ! 年上には興味ない。つまり……、年下好き! ロリコン!」

 「ホントもう、お前良い加減黙っててくんね?! いい感じに話終わりそうだったじゃん!」

 「ちょっと待って……! あんたまさか?!」


 ここまで呆れた様子で話を聞き流していた有紗が突然口を開いた。


 え……? 何? いきなり。怖いんだけど。


 「なぎちゃんは私のものよー!」

 「おい、陽歌、ロリコンは有紗じゃね?」

 「そ、そうみたいだね! もちろん佑くんもロリコンなんだけど」

 「何度も聞くけど、俺はお前にどう映ってんだ?」

 「ヘンタイ……だよ?」


 何でモジモジしながら言うの? 可愛いなちくしょー! もう俺ヘンタイでもいいや。いや……、よくない。


 「えー、とりあえず陽歌はいつもこの調子で俺を貶してくるだけだから気にしないでください。お願いします」


 俺は至って真面目に杠葉さんと有紗に頼み込む。


 「分かりました! 私は佑紀さんを信じてますから大丈夫です!」


 やっぱり大天使だなこの子。

 ただ純粋に信用されている気がする。というか、そもそも最初から信用されてはいる気がしてならない。

 それに対して有紗さんの方は……。


 「なぎちゃんを私にくれるなら信用するわ!」

 「よーし分かった! 夏休みに会わせるで手を打とう!」

 「それは前に約束したでしょ?! ちょうだいよ! ねぇ!」

 「いや流石に実の妹をあげたりはしねーよ?! あいつはムカつくけど嫌いじゃねーし」

 「もーう、わかったから絶対会わせてよね! よし! じゃあ行くわよみんな!」


 唐突に有紗は目をギラギラさせながら屋上の扉に向かって歩き出す。俺もそろそろ帰りたいと思っていたから丁度いい。


 「んじゃ帰りますか……」


 俺がそう言って立ち上がると有紗はピタッと停止して振り返る。


 「帰るってどこに?」

 「家だけど……?」

 「あんた、弥生日和に行こうって誘ってきたじゃない。ほら、みんなで行きましょ」

 「いいねー! 行こーよみんなで!」


 有紗の提案に陽歌もノリノリで走って有紗の隣に行き、二人で笑い合っている。


 うげっ……。すっかり忘れてたよ。そうでした、春田から来るよう軽い脅し文句みたいなメッセージ来たんだった……。


 「へいへい」

 「佑紀さん! 今日も行きたくなるくらい気に入ってくれたんですか?」


 杠葉さんは俺に不意に耳打ちしてくる。


 顔が近い息がかかってくすぐったい顔可愛い。


 「まぁ、気に入ったよ」

 「ふふっ! 気に入ってもらえてよかったです!」


 杠葉さんはニコッと微笑むと、先に行った有紗と陽歌を追うように小走りで屋上の扉に向かう。

 杠葉さんの表情はどこかスッキリしたように見えた。それだけ、杠葉さんにとって今日の屋上での決意表明は意味があるものだったのだ。


 屋上の扉を通り、扉が閉まるのを確認せずに歩き出す。背後から聞こえた扉が閉まる音は、ガタンッガタンッと、閉まる瞬間一度跳ね返ってから閉まる音だった。


 ちゃんと閉まっているか確認する為に屋上の扉の前まで戻ると、扉は僅かにずれていて閉まっていなかった。


 その生じた狂いを直す為にドアノブを掴み、ゆっくりと手前に引いた――。

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