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9 幼馴染に感謝する

 クラス会も終わり、名残惜しさを感じつつ店の外に出ると、何故か一旦駅前まで行くとか言う話になり仕方なくついて行くと、駅前にて二岡が謎の解散式のようなものを始めた。

 

 意味がわからない。そのまま帰らせてくれよ……。

 というか、クラス会って言うよりもはや普通に六人で焼肉来たって感覚だったんだけど?

 まぁ、クラスの親睦を深めるってことでは意味はあったとは思うけどさ……。


 二岡は何やら、今日の反省とか今後のクラスの在り方を説いていらっしゃる。


 そんなん今じゃなくたっていいだろ早く帰らせろ。

 そもそも、クラス会に反省もクソもあるかよ。学校行事とかだったら、反省するのもちょっとはわかるけどさ。

 

 心の叫びが届いたのかやっと謎の解散式は終了する。


 「はぁ……! やっと帰れる。……ん?」


 二岡が杠葉さんの方に近づいていく。

 杠葉さんの隣には有紗もいるが、何事も起こらないことを願おう。


 「綾女、送ってくよ」

 「いえ、あの、私は……」


 まただ。どう見ても困っている。二岡はそれに気付かないのだろうか?

 それとも実は気付いていて、それがわかっててやっているのか?

 好意を持つことを否定はしないが、逆効果な気がする。


 「綾女は今から私と帰るのよ。さっ、行くわよ綾女」


 そう言って有紗はいそいそと歩き出すが、何故か二岡は非常に落ち着いていてどこか余裕すら感じられる。


 「あっ! 待ってください有紗さん! あの、ではそういうことですので……、失礼します」


 二岡にそう言い残し、杠葉さんは有紗を追いかけていった。

 とりあえず問題は何も起きず、他人事ながらホッとしてしまう。


 しかし二岡普通に振られてやがる。ちょっと面白くて吹き出しそうになっちゃった。余裕そうな表情もきっと作ってるんだろうな。うん、そう思うことにしよう。


 「何ボーッとしてんの?」

 「ん……? なんだ陽歌か……。別にボーッとなんてしてねーよ」

 「あっそ。ほら、帰るよ」

 「へいへい」



※※※※※



 帰り道、陽歌がアイスを食べたいと言い出した為、家の近くのコンビニに立ち寄った。

 俺はアイスはいらないから、ペッドボトルのコーラを買った。普段炭酸は飲まないのだが、今日は無性に飲みたくなってしまったのだ。


 「珍しいね炭酸なんて。熱でもあるの?」


 陽歌は買ったアイスを食べながら聞いてくる。


 「なんで炭酸買っただけで病人扱いされなきゃなんねーんだよ」

 「肩は治ってないんだしまだ病人でしょ?」

 「確かにそうだけどよ……。熱関係ねーよな」


 ペッドボトルを左手に持ってキャップに触れるのだが、回すのを躊躇ってしまう。


 「どうしたの? 飲まないの?」

 「いや、飲みたいんだけど、なんというか、その……」

 「もしかして……、怖いの?!」


 陽歌は俺の顔をジッと見て何かを思案した後、ハッと何かに気づいたような表情をし悪戯っぽく聞いてきた。


 「別に、怖かねーよ」

 「もーう! 意地張っちゃって! しょうがないんだから! はい、これ持ってて!」

 

 陽歌はアイスを俺に持たせて、ペッドボトルを取ってくる。

 陽歌が蓋をキャップを回すとシュワシュワっと音を立て泡が立ち昇った。


 「――あわわっ! ふぅ、危なかったぁ~! ……振ったでしょ?」

 「他人のならともかく、自分のやつを振るわけねーだろ」

 「うわぁー。他人のなら振るんだぁ……。性格わるー」


 陽歌は軽蔑の眼差しを俺に送りながらコーラを渡してくる。


 「久々に飲むと美味いなこれ。あ、開けてくれてありがとな」

 「そうゆうことは渡した時に言ってほしいんですけど」


 ポケットに入れたスマホが短く震えた。

 一度ペッドボトルを地面に置き、スマホを取り出し開くと通知欄に杠葉綾女と表示されていた。


 杠葉さんだ! まさか向こうからメッセージを送ってきてくれるとは!


 【こんばんわ。今日は楽しかったです! ありがとうございました】


 こちらこそ楽しかったです。生まれてきてくれてありがとうございます。

 杠葉さんのご両親、色々頑張ってくれてありがとうございます。


 杠葉さんのことだから同じテーブルの人全員に律儀に送っているとは思うが、それでも嬉しくなってしまう。


 「何ニヤニヤしてるの? まさかこんな所でエッチな画像とか見てるんじゃないよね? 気持ち悪い」


 まだそんなこと確定してないのに、気持ち悪いとか言うのやめてもらえません?


 「――ちっ、ちげえよ!」

 「動揺してる! 怪しい! ちょっと貸して!」

 「――おいっ! 離せ! やめろ!」


 陽歌は俺からスマホを取り上げようとする。

 その拍子に、地面に置いたペッドボトルが倒れて中身が溢れてしまった。


 「――きゃっ! ……あーもう! 靴にかかったじゃん! なんで地べたに置くの!」

 「す、すまん……」

 「もう帰る!」

 「あ! ちょっと待てよ!」


 先に歩き出してしまう陽歌を追いかけると――。


 「女の子の前でエッチな画像を見る人は近寄らないでください」


 ――チラッと俺を見て、真顔で言葉をぶつけてきた。


 ガチトーンじゃねーか……。こえーよ。というか、見てねーし……。


 「誤解だ! 勝手に勘違いすんな! あれは送られてきたメッセージを見てただけで」


 陽歌はピタッと歩く足を止める。


 「メッセージ……?」

 「そうそう。杠葉さんが送ってきて」

 「あやちゃんが?! なーんだ! それならもっと早く言ってよー! 勘違いしちゃったじゃん」


 陽歌はケロッと笑うと再び歩き出した。

 

 えぇ……。言う前から決めつけてたじゃん……。


 「でもつまり、遂にあやちゃんのスマホにもお父さんとお兄さん以外の男の連絡先が?! やるねー佑くん!」


 陽歌はこのこの! といった言った具合に肘で突いてくるが別に俺だけではない。


 「いや普通にそうゆう流れだったから。あのテーブルみんな交換したぞ。というか杠葉さん、お兄さんがいたんだな」

 「うん! お兄さんとお姉さんがいるよ!」

 「へー、きっとしっかりした人達なんだろうな」

 「お兄さんは大学生で今こっちにはいないけど、お姉さんなら普段から神社にいるはずだよ。あ! 今度会いに行っちゃおっか!」

 「いやいや仕事の邪魔になんだろ。確かに興味はあるけどさ」

 「佑くん、年上好き。渚沙に送信」


 陽歌はスマホを取り出し素早く打ち込み、我が妹にメッセージを送りやがる。


 「余計なことすんじゃねー! また変な誤解を生むだろうが!」

 「だって興味あるって言ったじゃん!」

 「別に年上好きとは言ってねーだろーが!」

 「なるほど。ならこうだね。佑くん、やっぱ年下好きっと」

 「だからちげえよ! つか、いちいちあいつに言わんでいい!」

 「もう送っちゃったもーん!」

 「もう最悪渚沙はいいわ。学校では余計なこと絶対言うんじゃねーぞ」

 「そんなことしないよー! 佑くんが勝手に自滅するはずだし!」


 俺って、こいつの目にはどんなマヌケに映ってんだか……。

 なんだかため息が出そうだ。


 「でも佑くんよかったね! ちゃんとお友達が出来て!」

 「そうだな。お前にも感謝してるよ」

 「私に? じゃあ私も、少しは佑くんの助けになれたのかな?」


 少しどころではないし、きっと見えない所でも助けられていることはたくさんあるはずだ。


 「あぁ。だからありがとな」


 俺がそう言うと陽歌は嬉しそうに笑った。


 「じゃあまたな。気をつけて帰れよ」

 「気をつけてって、うちすぐ目の前なんだけど? バイバイ」


 今日は一日長かったようで短かった。あっという間に過ぎる一日も悪くない。

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