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8 首謀者

 本日の授業も終わり、その帰り道――今朝の一件に対する『作戦会議』という名目で弥生日和にお邪魔している。


 参加メンバーは俺、陽歌、有紗、綾女、それから反町姉様。

 その他の友人達は部活があるから不参加。


 ちなみに、言い出したのは綾女だ。

 今日の夕食係は俺だからぶっちゃけさっさと帰りたかったが、当事者だから強制だと綾女に言われてしまった。


 時刻は十六時を回ってる。今からどの程度時間を使うのかは定かではないが、まだ買い出しにも行ってないのだ。

 遅くなり過ぎると、腹を空かせた渚沙が暴れるのが目に浮かぶ。


 できれば十七時までには終わってほしい。つーか、終わらなくてもその時間になったら俺はスーパー寄って帰るからな?


「というわけで春田よ、相沢も強制参加だから呼んできてくれ」


 旅は道連れとも言う。旅とは違うが、この『作戦会議』という名のお喋り会に相沢も道連れにしてやろう。何せ、学級委員なんだし。


「いや……仕事中だから」

「ですよねぇ」


 ま、無理だって分かってたけど。


「今日のあたしはホールだから、仕事しつつちょくちょく会話を耳に入れて、出来る限り彼に伝えとくよ」


 そう言って春田は俺達から受けた注文をキッチンに伝えに行く。


 疑問なのだが、バイト中のいちゃつきとかって実際にあるのだろうか。

 いや、あるんだろうけど、お前ら仕事中にキッチンでいちゃついてたら許さないからな?


 と、店主でもないくせに偉そうにそんな事を思った。


「さて、本題といきましょうか。佑紀くん、心当たりは?」

「曽根だな。個人を挙げるならあいつしか思い浮かばねえ」

「その線は無いです。なんでも、『今は椎名くんに構ってる暇は無いし……それに、あんな事したら真斗が真っ先に疑われちゃうのは分かりきってるし、なのにやるなんてあり得ないよ』だそうです」


 ああ、なるほどな……それを聞いて納得したわ。

 いくら頭のいかれた曽根でも、二岡があの状況なのにあんなにも堂々と公の場で俺を攻撃してくるはずもないか。

 二岡ファーストのあいつが、その二岡を隠れ蓑にするとも思えんし。つーか、犯人があいつなら隠れ切れてねーし。


 今回の件は、こうなると誰が犯人なのか見当もつかないのがタチが悪いのだ。


 その前に、俺に構ってる暇なんて無いとは……俺の方からテメェにちょっかい出した過去なんてありませんけど?


「それより、まずどうするか考えようよ。犯人探しをするかどうか、それ次第で対策も変わってくると思うんだけど」


 と、ここで姉様が口を挟んだ。


「私はしなくて良いと思うよ。今日の件も、きっとただの出来心だよ。今回っきりか、そうじゃなくてもその内やめてくれるでしょ」


 それに対し、まずは陽歌が意見を言う。


「私ははるちゃんの意見に反対よ。探し出して、あんた直々に徹底的に潰すべきよ」


 と、陽歌の後に有紗は俺を指さしつつ意見を言う。


 んな……潰すなんて物騒な。まあ、あれのせいでモテ期来なかったら粉々にしてやるけどな。


「潰すとかは置いておいて、あたしも犯人探しには賛成かな。誰か分かれば、今後も警戒さえしてれば対処も容易になるし」

「私も希さんに賛成です」


 これで三対一。犯人探しをするという意見が優勢だ。


「まあでも、多数決をしてるわけではないので、結局のところ佑紀くんの意見が採用されるんですけどね」


 当事者は俺だからな。そうなるとは思ってたよ。

 さて、どうするべきか……なんて考えなくても、探し出しておいた方がいいに決まってる。

 何せ、これでモテ期を逃したりしたら俺は犯人を粉々にするんだ。

 じゃあ逆に逃さなかったら、二度としないって誓わせて、今回だけは広い心で見逃してやろう。


 おっと、こんなにも簡単に結論が出てしまった。我ながら単純だな。


「犯人探しはする。それで見つけ出してどうするかは、俺の人生の経過を見て判断するわ」


 これで決まりだ。誰も文句なんて無い――、


「――そんなの、私がさせると思う?」

「おん……?」


 と思ってたら、陽歌がニコッと笑いながら俺に意見した。

 ……これは、怒ってるやつだ。え、なんで……?


「ダメなの……?」

「あんた、何を弱気になってるの? 自分の事は自分で決めるのよ。はるちゃんに意見されたからって、簡単に覆したら男らしくないわよ」

「分かってるよ……いいか陽歌、俺は犯人を見つけ出す。で、モテ期が来なかったらそいつを粉々にする。もう決めたんだ」

「冒頭はちょっとだけカッコ良かったのに、モテ期云々で全部台無しだよ、椎名くん……」


 姉様が何か言っておられるが知ったことか。俺にとってモテ期の到来は重大なんだよ。相沢にも涌井にも彼女がいて、俺だけいない。俺だけ置いてきぼり食らってるんだからな!

 もし逃したら追いつくどころの話ではなくなってしまう。

 さらば俺の青春、になるのは御免だ。


「あっそ……決めたんだ。なら、この話はおしまいだね。じゃ、私は行くとこあるから」


 と、陽歌はお金をテーブルに置き、そのまま店を出ていってしまった。


 えぇ……やっぱめっちゃ怒ってる。


 本当にこれで良かったのか不安になってきた。


「……ねぇ姫宮さん、もしかして――」

「――ええ、そうね。って言っても、まだ推測の段階だけど」


 何か、姉様と有紗が二人だけで意思疎通しておられる。

 姉様は『もしかして』しか言ってないのに、どうして有紗は姉様が言いたい事が分かったの?


 そもそも、


「何の話してんの?」

「別に……女同士の内緒話よ。それより、今朝の一件以外には何も無かったのよね?」

「ああ、それがなんだけど……」


 まだ誰にも言ってないけどあったのだ。もはや完全にいじめである。しかも、誰からいじめられてるのかすら把握できてないという、ちょっと珍しいやつ。


「実はな、昼休みの終わり頃に教室に戻ったら、机の中からカエルが飛び出してきた」

「窓から入ってきちゃったんですかね? ほら、佑紀くんの席って窓際ですし、その拍子に机の中に」


 と、綾女は今の場の空気にそぐわないほのぼのとした雰囲気をかます。


「マジで言ってんならただのアホだな……」


 そもそもカエルって垂直の壁をよじ登って来れるのかどうかは知らないが……、


「一匹だけならまだしも三匹だぞ? あり得ねーよ。というか、奴らの内の二匹は筆箱の中から出現したんだ。筆箱のチャックが空いてたから、最初の一匹は脱出してきた奴だろ」


 どう考えても誰かに仕込まれたと言う他何もない。

 思い出したら何かクソムカついてきたわ。モテ期関係なしに粉々にしてやろっかな。

 まだ今朝の件の犯人と同一犯だとは言い切れないが、ほぼ間違いなくそうだろう。


「その時、俺がどんな思いでカエルを逃しに行ったか知ってるか?! 授業に遅刻するかもしれない焦りのみだよ……!」


 ちなみに、俺の机からカエルが飛び出してきた時の二岡は、言葉こそ発さないもののちょっとビクッとして震えてて滑稽だった。


 それを踏まえて、カエル事件に関しても二岡は白だ。

 黒なら、不意を突かれたように驚いたりしないもんな。


「それ、昼休み前には入ってなかったのよね?」

「当たり前だろ。入ってたら午前の授業中に大騒ぎになってるわ」

「じゃあ昼休みに……でも、なら違う……? その他には何も無かった?」


 有紗は顎に手を当ててまるで推理でもしてるかのような素振りを見せ、俺への聴取を続ける。


「……無い」


 いや、ある。だが、ここからはガチだ。カエルなんて可愛い可愛い。そう思えるほど、俺への嫌がらせは限界突破を果たしてきた。


 もちろん、流石に藤崎先生には報告しておいた。だって度が過ぎるもん。


「あるのね? 何があったか答えなさい」

「カエルを逃しに行った時、靴の中に画鋲が入ってた。まあ、奇跡的に気付いたから踏まずに済んだけど」


 な? いくらなんでも酷過ぎるだろ? こんなんただのいじめじゃん。ガチすぎてネタにもできないし。

 だからあんまり他言はしたくなかったんだけど、真剣に聞いてくるからつい答えてしまった。


「今の話……他の誰かには言わないでくれよ。特に、陽歌には……」


 あいつは、いじめという言葉にはやたら敏感だ。だから今朝も過剰な反応を見せたのだろう。これ以上あいつには心配はかけたくない。

 これに関しては、藤崎先生にも陽歌にだけは言わないでくれと懇願しておいた。まあ、あの人が生徒に他言するような真似するとは思えんけど、念の為に。


「……そんなの、当たり前でしょう? 他のみんなも、それで良いわよね?」


 何故か有紗はすんなりと理解してくれた。綾女と姉様も有紗にそう言われて頷いている。


「ですがこれで、何がなんでも犯人が誰か把握しておくのは必須になりましたね」

「そうだね。それに、できる限り急ぐ必要もあるかも」


 綾女の言葉に姉様が同調している。その調子で、新旧学級委員の力で犯人を暴いてくれ。


「でもこれで、五分五分ってところね」


 有紗はまだ推理をしておられる。犯人の見当でも付いてるのだろうか。

 有紗が真っ先に疑いそうなのは……二岡だな。


「ところで、そもそも犯人は一人なのでしょうか。複数人だと、見つけ出す難易度も上がりますが……」


 ……そうじゃん。勝手に一人だけだとばかり思い込んでたけど、複数いたっておかしくないじゃん。え、その全員を探し出すって無理ゲーじゃね?


「複数……なるほどね。その手があったか。でも、それならあんたが首謀者にチェックメイトを掛けるのも時間の問題ね」

「そんな簡単な話には聞こえなかったけど?」

「簡単よ。しもべを一匹捕まえて首謀者の名前を吐かせれば良いんだから。あんた、花櫻の王なんだからそのくらい楽勝でしょ? ふっ」

「笑うな」


 どいつもこいつもバカにしやがって。花櫻の王ってワードがそんなに面白いか? 笑えるよな。俺も、自分がそう呼ばれてなかったら笑ってたよ。


「ごめんごめん。別にあんたをバカにしてるわけじゃないのよ。ただ……ふっ」


 おう、バカにしてるんだな。もういいよ、好きにネタにしてくれ。花櫻の王って崇められるよりマシだし。


 それより、有紗の案を採用でいいのかも。

 下っ端まで全員を探すのは無理だ。でも、首謀者を仕留めれば自然と嫌がらせは止まるかもしれない。

 今は、その可能性に賭けてみよう。




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