4 席替え
二学期三回目の学校、九月五日、月曜日の帰りのホームルーム。現在、教室内が騒ついてるであります。
「う、そでしょ……」
隣の席の有紗が、信じられないとでも言いたげな顔をしている。
事の発端は藤崎先生の発言だ。
『それでは、今から席替えを行う』
以前聞いた話だと、藤崎先生は去年一度も席替えを行わなかったらしい。だから当然今年も無いものだと思い込んでいたであろうクラスメイト達は、予想外の展開に盛り上がっているのだろう。
ちなみに、俺としては席替えは大いに悲しい。せっかく究極美少女と隣の席だというのに、何が嬉しくて離れ離れになるのを喜べようか。普通にショック過ぎる。
だが、嘆いていても席替えは始まってしまった。藤崎先生が持ってきたくじを、クラスメイトが順々に引いていく。
「大丈夫よ有紗。この黄金の右手で引き当てれば良いだけじゃない。良し、いけるっ……!」
隣では有紗が謎の気合いを入れている。皆、この席替えに懸ける想いが強いのだろう。
俺としては、現状の天国からそれ以下に転落する可能性が特大だから、もはや気合もクソもない。
……いや、待てよ? 本当にそうか? この黄金の右手で有紗、又は綾女の隣を引き当てれば完勝。その可能性もあるなら、そこまで悲観する必要も無いんじゃないか?
なぁに、大丈夫さ。俺のこの黄金の右手は日本ジュニアの頂点を取り続けた実績があるんだ。つまり今回の席替えだって一番の勝ち組になれるはず……!
と、俺も謎の気合いを入れて教卓の前にある箱からくじを引いた。
……ほらな? 窓側の一番後ろの席だ。視力が悪い人でもない限り、大抵の人が喜ぶであろう場所。この時点で勝ち組と言えるだろう。
ひとまず今の席に戻り、全員がくじを引き終わるのを待つ。
「あんた、どこの席になった?」
「窓側の一番後ろ」
「……へぇ」
俺の新しい席を聞き、有紗があからさまに落ち込んだ様子を見せる。
なるほど、有紗も新しい俺の席の場所を狙ってたってわけか。悪いな、これも運だ。諦めてくれ。
でも、これで有紗と隣の席の可能性は無くなったか。
窓側の一番後ろを狙ってたって事は、そこじゃなかったとしてもその隣の席ならここまで落ち込むはずないし。
……まさか、また俺の隣だから落ち込んでるとかじゃないよね? え、勝手に隣の席は無いと決めつけてたけど、もしかして隣?
「え、えっと、有紗はどこになったんだ……?」
不安になってきた為、一応聞いてみる。
「ハッ……廊下側の真ん中ら辺よ」
「そ、そうか……」
なら良かった。先程の不安は杞憂だったみたいだ。
というか、その席なら別にハズレ席ってわけでもないんだし、そんな落ち込むなよな。紛らわしい。
けれども、これで天国落ちの可能性は高まったか。まあ、窓側最後方を引いたから地獄落ちも回避したけど……あれだけ自信満々に黄金の右手を箱に突っ込んでくじを引いた割に現状はパッとしない。
後は綾女の結果待ちか。
「よーし、全員引いたな? それじゃ、新しい席に机を動かしなさい」
藤崎先生がそう言うと、クラスメイトが一斉に席のお引っ越しを始めた。
新しい席に机を動かし、一旦教室を見渡すと、一人だけ動いていない人がいた。
おいおい……またその席かよ。
どうやら綾女はこれまでと変わらず廊下側の一番前の席らしい。
これにて、俺の天国落ちが確定した。パッとしないな、俺の右手は。何が黄金だっつーの。
とはいえ、地獄落ちも回避したようだ。このクラスで席替えを行った際の個人的地獄を考えて真っ先に思い付いたのが、曽根の隣になるパターン。
でも、曽根は中央右列の前から四番目の席みたいだし回避成功。マジで隣じゃなくて良かった。
これにて、俺の無難な席替え終了っと――。
そう思った時、新しい俺の隣の席になる人が机を移動させてきた。
「……え、マジ?」
……は? 何が無難な席替えだ。思わず声に出してしまったほどに最悪なパターン。俺はどうして今まで曽根と隣になるのだけが地獄だと思っていたのだろう。それ以上の地獄があるではないか。
……えぇ、これだけは絶対ダメだろ。個人的にも、相手からしても、クラス的にも、藤崎先生的にも。
新しい隣の席の人間が、二岡真斗であるのを確認し、只々絶望したのだった。




