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あの日交わした約束~転校先の約束少女たち  作者: ぐっさん
第四章 七年越しの約束
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30 終わる夏

「そういえば、マジ下手になったね」


 公園からの帰り道、ふと渚沙がそんな事を言ってきた。


「何が?」

「テニス。壁如きに完敗じゃん。所詮その程度だったか」

「あのな、確かに感覚は微妙だったけど、そもそも壁に勝てる奴なんて存在しねえんだよ」


 当たり前だが、壁はどんな打球だろうが必ず返してくるからな。それに勝つなんて世界ナンバーワンといえど無理だよね?


「この暑い中わざわざ持ってきてやったんだから多少は善戦してほしかったんだけど」

「へいへい、その節はどうもありがとよ」


 正直なところ、絶対持ってきてくれないと思っていたが、一体どういう風の吹き回しか。渚沙が俺の頼みを条件無しに素直に聞いてくれたなんて、今でも少し信じられない。


「それにしても、いよいよ女の戦いが始まりそうだね」

「大勝負とやらが女の戦いなのは初知りだけど……え、聞いてたの?」

「うん、雪葉さんと、遊具に隠れて」


 ラケットは図書館で受け取ったのだが、そこから姿が見えないと思ったら……そんな所に隠れて俺達の会話を盗み聞きしてやがったのかよ。


「それで、お兄ちゃんはどうするの?」

「どうするって、関係ないから傍観するけど」

「ハッ……これだから愚兄なんだよなぁ」


 渚沙はため息を吐き、呆れたような顔を向けてくる。


「そうは言われても、俺があの子と勝負するわけじゃないし。そもそも、あの子が誰と勝負するのかすら知らんし。まあ、相手が曽根辺りなら応援はするけど」


 とはいえ、綾女の言い方から考えても、特に喧嘩というわけでもなさそうだから、俺が介入したらしたで相手がハンデを負う事にもなり得る。

 恐らくだが、綾女は正々堂々と勝負したいタイプな気がするし、例え相手が曽根でも応援に留めておくのがベストだろう。


「その人も勝負に参加するんだったらマジウケるんだけど。でも、仮にその人が勝ったらクソ兄貴とは縁を切るから」

「ちょっとまてぇ! だから俺は関係ないだろうが!」

「なんと言われてもこの決意だけは揺るぎませーん」


 クッソが……仕方あるまい。仮にその大勝負とやらに曽根も参加するなら、全力で綾女に協力しよう。

 愛する妹に縁を切られるなんてたまったもんじゃない。


「さてさて、それでだけどお兄ちゃん。なぎが熱を出そうが出さなかろうが、どの道七年前のあの日に約束が果たされるはずがなかったわけだけど、それに関して何か言う事はないのかなぁ?」


 そうだ。渚沙の言う通りだ。それに、仮に渚沙が熱を出していなかったら約束が果たされていたのだとしても、俺は渚沙に伝えなきゃいけない想いがある。


 もう、家に着いた。鍵を開け、中に入る。


「チッ……無えのかよクソ兄貴が」


 渚沙も、俺に悪態を吐きながら中に入り、ドタドタと怒ったような足音を立ててリビングのソファに身を投げた。


 そんな渚沙の横に座り――、


「――隣座ってくんなや。暑苦しいわクソボケ」


 ……いやいや、こう言われたからといってここで引くわけにはいかない。


 だから、渚沙を抱きしめ――、


「――あの時は、すまなかった。本当にごめん」


 本来なら、七年前に言わなきゃならなかった、当時の俺の振る舞いを謝罪した。


 謝らずに七年が経った。


 本来なら兄妹仲が壊れていてもおかしくはない。それでもこうして今まで、当時と何ら変わらぬ兄妹でいられたのは他ならぬ渚沙のおかげだ。

 そう、わがままだろうが口が悪かろうが、何も変わらずに渚沙のままでいてくれたからこそ今の関係が保たれてきた。


 だからそれにあやかって、悪いと思っていても一言も謝らずに生きてきたのがこの俺だ。


「……いや、当時の件を謝れって冗談で促してみただけで、別に本気で謝れって思ってたわけじゃないし、抱きつくなバカ兄貴」


 そうは言いながらも、渚沙はいつもみたいに俺を引き剥がそうとはしない。


「と言いながら、お前も抱きついてんじゃねえか」

「ふんっ……ここでこうでもしないと、他の人にやりそうで怖いからなぎが犠牲になってるだけだし」


 俺を何だと思ってやがるんだ我が妹は。俺がこうして抱きしめたりできるのは実の妹であるお前だけだぞ? 幼馴染の陽歌にだって無理だ。


「……近親相姦中お邪魔しちゃって悪いんだけど……え、マジで?」

「「――っ?!」」


 流石にこれには俺も渚沙も衝動的に体を離した。


 どうしてかって? それはだな……、


「――んなわけねぇだろバカ陽歌っ! なぎがクソ兄貴なんかとそんな行為するわけねぇだろうが! お前がやってろエロ陽歌っ!」


 そう、こんなタイミングで陽歌がうちにやってきたからである。


「まあまあ落ち着いて渚沙、冗談だって。どーせそこのシスコンが急に抱きついたとかでしょ?」

「そんなクズでも見るかのような目を俺に向けるな。というか、当たり前のように勝手にうちに上がり込むな」

「なんか鍵掛かってなかったし」

「玄関のドアが開くか確認する前に、まず先にインターホンを鳴らしやがれ。……で、何の用?」


 うちだから許されるんだからな? 他の家だったら大事(おおごと)だぞ、分かってんのか常識外れのクソ幼馴染が。


「夕食ができたみたいだから呼びにきたんだよ」

「あ、そうだったっけ」


 と、陽歌の答えに渚沙が反応している。おい、俺は聞かされてないぞそんな話。

 まあ、夕食の支度をしなくて済むからいいけどさ。


「それじゃ、行こっか」


 と、陽歌はリビングを出て玄関に向かった。


「夏休み最後だから彩歌おばさんがご馳走を用意してくれるんだってさ」

「ほお、有難い話やなぁ」

「感謝してよねお兄ちゃん」

「彩歌おばさんにな」


 なんか、なぎに感謝しろ的な言い方してきますけど、これに関しては断じてお前に感謝なんてしないからな?


「それでお兄ちゃん、長年の願いは果たしたわけだけど、これからどうするの?」

「これからって? 普通に生きるけど」

「いや、そこは何かしら新しい目標とか立てろや。例えば、なぎに不自由のない生活を送らせる為に自分の小遣いをゼロにして私欲を我慢するとか」

「何バカ言ってんだ。立てるにせよ、そんなドM感満載な目標になんてしないわ」


 でも、新しい目標か。今は何も思い付かないけど、その内ちょっと考えてみようかな。


 そんな事を思いつつ、陽歌の家に移動し、彩歌おばさんの作ったご馳走を堪能。


 こうして、俺の夏休みが幕を閉じたのだった――。

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