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あの日交わした約束~転校先の約束少女たち  作者: ぐっさん
第四章 七年越しの約束
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25 陽歌の最強奥義

 さあ、集中だ。全神経を右手人差し指に向けるんだ。

 残すはこのラスト一発のみ。


 狙いを定めて――撃つ!


「はーい残念、外れ。相変わらず下手くそだね、射的」

「うるせー、普通はこんなもんなんだよ」


 そう簡単に当たったら、射的屋のおっさんが困るだろ。だからわざと外してやったんだよ、わざと。


 そんな言い訳を心の中でしてみたものの、内心は悔しい。が、ここでムキになると絶対ロクな目に遭わないし、今回はこれで諦めよう。


「じゃあ、次は私の番だね」


 と、陽歌は小銃を構え、狙いを定めている。


「惜しかったわね。でも難しいのね、射的って」

「有紗はやらないのか?」

「私? だって、難しそうだし」

「まあ、普通は簡単には当たらんけど、今日は簡単に当てやがる奴がいるから。ほら――」


 と、陽歌に目を向けると、丁度景品に弾を命中させていた。


「すっご……知らなかったわ、はるちゃんが射的のプロだったなんて」

「小五の時に才能が開花したもので。というわけで有紗ちゃん、これあげるよ」

「良いの? せっかく取ったのに」


 有紗は遠慮気味にそう言っているが、本心では欲しくて堪らないはず。だってお菓子だもんな。食欲の化身にとっては輝く宝のように見えている事だろう。


「良いの良いの。射的がやりたかっただけで、景品には興味無かったから」

「じゃあ、貰っちゃおっかな。ありがとね」


 有紗は満面の笑みで陽歌からお菓子を受け取る。良かったな、今日の夜食が手に入って。


「陽歌、有紗に射的のコツを教えてやれよ」

「うん、いいよ。私が編み出した最強奥義を有紗ちゃんにも伝授してあげちゃいましょう」


 その奥義とやら、ちょっと気になるな。次回射的をやった時に上手くいくように、俺もこっそり学んじゃお。


「それなら、やってみようかしら」


 有紗がそう言うと、陽歌は有紗の手を取り射的屋の列に並んだ。

 俺はその後方で野次馬となろう。で、陽歌の奥義を盗み出すと。


 有紗の番がやってくると、陽歌が手取り足取りといった感じにやり方を教えていく。


 一発、また一発と外れていき……おいおい大丈夫か?


「陽歌、ちゃんと奥義とやらを教えてやってるのか?」

「チッチッチ、甘いね、佑くんは」

「何言ってんだお前。早く奥義を教えてやれよ」


 主に、俺がそれを知りたいから。


「私の最強奥義はラスト一発の時にだけ発動できる特殊仕様だから。それに、そんな簡単に安売りすると思う? それまでに当たらなかったら教えてあげるんだよ」


 奥義の発動条件は分かったが、伝授するって言ってたくせに話が違う……有紗も苦笑いしちゃってんじゃねえか。


 いや、やっぱその発動条件も嘘だろ。だっていつも一発目から当ててるじゃねえか。

 これ、実は最初からちゃんと教えてて、単純に有紗が下手なだけだろ。


 その後も数発外れ続け……そろそろラストなんじゃないか?


「いよいよラスト一発だね。ふぅ……じゃあ、究極の最強奥義を伝授するね」


 いや、ホントにあったんかい! もうそんなものは無いとばかり思ってたよ。


「ズバリ、イメージだよ。射的の景品を、佑くんだと思い込むの。それが私の、最強奥義っ……!」


 おい、お前今なんて言った? 射的の景品を俺に見立てる? え、もしかしていつもそうやって俺を撃ち抜くつもりで射的を楽しんでたのかな? テメェという奴は……。


「わ、分かったわ……やってみる」


 有紗よ、そう当たり前に理解するな。俺を撃つんだぞ? その意味を理解してるのか?


 ……俺は一体、何をやらかしてこいつらの恨みを買ったのだろうか。

 特に陽歌よ、小五の時からその奥義を使ってたんだよな? え、そんな前から俺を恨んでたの?


 有紗が引き金に指を掛ける。頼むから外れてくれ。


 そんな願いの最中、最後の一発が放たれる。


「――あっ! 外れちゃったわ……」


 良し、ナイスだぞ有紗。やはり胡散臭い最強奥義とやらではそもそもの実力はカバーしきれなかったか。


 と、外れて落ち込む有紗を見て、俺は喜んでいるのだった。


「でも今の惜しかったわよね? 初めてやったのにこれなら、私って射的の才能あるかも」

「惜しかった惜しかった。何年やっても下手くそなままの佑くんより全然才能あるよ」


 二人はそんな会話をしながら戻ってくる。


「おい陽歌……一つ聞くが、毎回あんなクソみたいな奥義を使ってやがったのか?」

「そうだよぉ、ラスト一発になったらね――って、私の最強奥義をクソ扱いしないでもらえる?」

「するわっ! 何で俺を撃ち殺すイメージしてやがんだ、ふざけやがって」

「はあ? 撃ち殺すじゃなくて撃ち抜く、なんだけど」

「もういいわ……」


 それの何が違うのか理解できないが、陽歌の中では違うらしいし。

 とりあえず俺に対して殺意があるわけじゃなさそうで良かった。まあ、最初から流石にそれは無いとは思ってたけど。


「じゃあ次はあれをやろう!」


 と、陽歌はスーパーボールすくいの屋台を指さしたと思ったら、すぐにそちらに走り出す。


 ここに着いた時は急に帰るとか言い出したくせに、結局今一番はしゃいでいるのが陽歌だ。相変わらずのお調子者め。

 でも、楽しそうにしてる姿を見るのも一つの思い出か。


「やれやれ、んじゃ俺らも行くか。……ん? どうした?」


 有紗がどこか嬉しそうに陽歌の背を眺めている。


「はるちゃんが楽しそうだから、良かったって思ったのよ」


 俺にとっての幼馴染は有紗にとってもまた、幼馴染なはず。


 だからこそ、今の陽歌を見ての俺と有紗の感想も同じなのだろう。



※※※※※



 スーパーボールすくい。俺が手に入れた数はゼロ。有紗が二つ。

 そして陽歌、九つ。一人だけ飛び抜けてんなおい。


「ラケット捌きは超人のくせに、ポイの扱いに関しては何年経とうが一ミリも成長しないね。そんなんじゃ目指してるお祭り男にはなれないよ」

「何か勘違いしてるみたいだけど、最初からそんなの目指してないから」


 いつ誰がそれになりたいと言った? 勝手に話を作るな。


「あら? みなさん、来てたんですね」


 誰かが俺達に声を掛けてきた。この声は――、


「あやちゃん!」

「見てよ綾女、二つもゲットしちゃった! ってわけで一つあげるわ」


 有紗がスーパーボールを一つ、杠葉さんにあげている。


「なあに佑くん、もしかして羨ましいの? しょうがないなぁ……私のをあげるから、もう泣かないで」

「泣いてねえわ、お気遣いありがとよ……!」


 別に要らんが、くれると言ってるから一応受け取っておこう。


「で、杠葉さんはどうしてここに?」

「どうしても何も、ここ、杠葉神社なのですが?」

「そ、そうでした……そりゃいますよね。手伝ってるんだよね?」


 今日という大変そうな一日も。


「ええ、今は怪しい人物がいないか見回りに」

「言いながら俺を見るのやめてくれる?」


 ついでに陽歌、お前も俺を見るな。


「というのは冗談で、今はちょっと買い出しに。お姉ちゃんに頼まれまして、アルバイトの方に屋台の飲み物とか食べ物を」

「へぇ、雪葉さんも案外太っ腹ですな」

「いえ、お姉ちゃんからは一円も渡されてません。このままじゃ破産確定ですので、絶対後で請求しなくては……」


 そうか、お疲れ様。その気持ち分かるぞ、俺も渚沙のせいで金欠に怯えながら日々を過ごしてるからな。

 今日だって、お金無くてこのままじゃ友達と花火大会行けないとか喚くから、仕方なくATMで引き出してきたし。

 本当はそれ、生活費なんだからな?


 ……相変わらず渚沙に甘いな、俺は。


「ねぇねぇあやちゃん、花火が見やすい場所とか知ってる?」

「うーん……どうしてかうちの神社がこの花火大会の人気スポットになってますけど、正直その理由が分からないんですよね。下の車道の方が見やすいと思いますし」


 ならば、この神社の巫女である杠葉さんにも適した場所が分からなそうだ。


「ですが、多分この辺りならこの神社でも見やすいんじゃないかって場所ならいくつか分かります。例えば、神楽殿の近くなら角度的にも周囲の木や建物が邪魔になったりしないんじゃないですかね?」

「ああ、確かに」


 杠葉さんの説明に、有紗が相槌を打つ。


「じゃあ、神楽殿の方に移動しよっか。ありがとね、あやちゃん」


 そう言って歩き始める陽歌に付いていく。

 有紗は言わずもがな、陽歌まで神楽殿とやらの場所を知ってるのか。俺は知らない。その建物自体は知ってるはずだが、名称までは覚えてないからな。


 神楽殿の近くまで移動すると、人が沢山いた。

 なるほど、この建物が神楽殿だったのか。


「考える事は、みなさん大体同じだったみたいですね」


 と、何故かここまで付いて来ていた杠葉さんが口を開く。


「あの神楽殿に乗って見ちゃダメなんだよね?」

「当たり前でしょ。だからコーンとバーで立ち入りできなくなってるんじゃない」

「考えなくても分かるはずなのに、バカは昔から常識を軽々と外れてくるね」

「すんません……」


 有紗と陽歌に責められ、俺はただ謝罪するしかなかった。


「本来なら許可して差し上げたいのですが、それをしてしまうと他の周りの人にも同じ対応をしなくてはならなくなってしまいますので……ごめんなさい」

「杠葉さんが謝る必要なんてないから。こいつらが言うように、俺がバカだっただけなんだし」

「私はあんたにバカなんて言ってないわよ」

「私は佑くんにバカって言ったけどね」

「お前らちょっと黙ってくれ。……それより杠葉さん、雪葉さんに頼まれた買い出しはしなくていいの?」


 ここまで付いてきてもらっておいてなんだが、杠葉さん的にはそっちの方が重要なはず。そろそろ本来の役目に戻った方が良いと思うのだが……。


「……完全に忘れてた。けど、足を運んでくださった方に案内をしていたとも言えますし、セーフですよね……?」


 いや、俺達に聞かれましても、それを判断するのは雪葉さんだから。


「あ、何か丁度あそこのベンチ空いたわよ。超ラッキーね」


 と、有紗が遅い駆け足でベンチに向かってそこを確保する。


「んじゃ陽歌、まだ時間あるし食い物とか買ってくるわ」

「私はりんご飴。有紗ちゃんには……とにかく量で」

「おう、あいつには五人前ぐらい買ってくるわ。あ、言っとくけど後で金は請求するからな」


 特に有紗、高額請求を震えて待ちやがれ。

 ……やっぱ後が怖いから有紗もとりあえず一人前だけでいいや。


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