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あの日交わした約束~転校先の約束少女たち  作者: ぐっさん
第四章 七年越しの約束
135/160

18 『隣の席の金髪美少女が、内心僕にデレデレらしい』

 夏休み突入から一週間が経過した。明日から八月突入だ。


「……お前、マジで毎日来やがるな」

「何その言い方。嫌なわけ?」

「嫌なわけないじゃん。内心ウキウキ限界突破だよ」

「何で勝手にお前が答えるし……」


 と、これまた有紗と同じく、毎日のようにうちに来ている陽歌をちょっと睨む。


「ほほう……私を睨むなんて良い度胸だねぇ、佑くん」


 そんな陽歌から、ニコッと笑みが返ってきた。

 この、いつでもエロい妄想してたのを教える準備は整ってるんだからな? って圧、やめてもらえませんかね?

 まぁ、陽歌が今日までそれを有紗に教えてないってだけで奇跡みたいなもんなんだけど……このまま忘れてくれねえかな……?


 なんて期待しても無駄だろう。こいつは遥か昔の数ある俺の黒歴史も全て覚えてやがるのだ。だから記憶から消し飛ぶはずもない。


「そういえば今日、なぎちゃんは?」

「友達と出かけた」

「あんたは友達少ないからそんな相手もいないのよね」

「それくらいいるわっ……! お前らが毎日来るから仕方なくこうしてここに留まってるだけで……!」


 なんて言ってみたものの、一応先日相沢や涌井に遊ぼうとメッセージを送ってみたものの、相沢はバイト、涌井は部活で断られたのも事実。


 つまり――、


「強がり佑くん。この前良介くんや涌井くんに断られたって泣いてたじゃん」


 そういう事だ。


「泣いてねえわ……つかテメェ、しれっと俺の明日のおやつ食ってんじゃねぇ」

「有紗ちゃんも食べる?」

「うん、食べる食べる!」


 もはや何を言っても無駄であろう。さらば、俺のおやつ達よ。


「……つーかさ、お前らこそ友達と出掛けたりしないわけ? え、何? もしかして他に友達いないの……?」


 仕返しとばかりにちょっと挑発的に尋ねてみる。


「私はいないわよ。本当の友達なんて両手で数えたら余裕で指が余るわ!」

「私も、基本広ーく浅ーくだから、有紗ちゃんと同じくだね!」

「クソほど自慢にもならん事をよくもまあそんなにも誇らしげに語れるな、お前ら」


 その余裕が羨ましいよ。まぁ、持って生まれたビジュアルがあるからこその余裕なんだろうけどさ……。


「でも、明日ははるちゃんと綾女と出掛けるし」

「ねー!」

「そーですかそーですか、良かったですね」

「佑くん、拗ねちゃった?」

「拗ねてないっ……!」


 出掛けるなら勝手にしてくれ。それはつまり、ようやく明日、夏休みに入って初の完全フリーの時間が生まれる事を意味するから、俺にとっても好都合だ。


「強がらなくて良いんだよ? 世界一可愛い幼馴染の私が、今度デートしてあげるから」

「ちょ、ちょっとはるちゃん?! しょ、正気なの……?」


 俺と陽歌がデートするのはそんなに悪い事かと有紗に問い詰めたい。なんだその、俺なんかとデートするのは気が狂ってるみたいな言い方は。


 とはいえ……陽歌も陽歌でどーせ、


「荷物持ちはお断りでーす。他の男でも用意してくださーい」


 それが狙いだろうからお誘いを拒否させていただきます。


「あーあ……せっかく久々に幼馴染同士夏の思い出でも作ろうよって誘ってあげたのに……」

「だったら最初からそう言えや! デートとか紛らわしい言い方すんな……!」

「ふーんだ……もう良いし、佑くんなんてしーらない。昨日の夜メッセージで告白された相手と――」

「――ちょ、え、マジで……?」


 衝撃の事実発覚……なんだと……陽歌に彼氏が――、


「マジだけど。余裕で断ったけどね」

「そ、そうか……ふぅ」


 ひとまず額の汗を拭う。

 ……何で俺は安心してるんだ。


「はっはーん、もしや佑くん、焦っちゃった?」

「焦ってない……!」


 いいえ、嘘です。何故かめちゃくちゃ焦りました、はい。


「そういえば私も……終業式の日に告られたわよ」

「へー、良かったな」

「何で私の時は興味なさげなのよ?!」

「だって流れで大体分かるし。どーせ断ったんだろ?」


 第一、もし承諾してたなら毎日のようにうちに来たりしないだろ。仮に承諾してるならその相手から俺は相当恨まれてるだろうな。


「当たり前でしょ! そもそも私は……」


 有紗は何か言いたそうに口をパクパクさせている。

 そして何故か、その頬がちょっと赤い。


「――あ、あんた! ラ、ラブレターの件はどうなったのよ?!」


 そんな有紗の口から出てきた言葉は終業式の日に俺の靴箱に入っていた一通の手紙についてだった。


 ……何でそれで顔を赤く? 見かけによらず、その手の話に免疫が無いのか? そんなわけもないと思うんだけどなぁ……。


「あー、あれ? 知らね」

「は? どういう意味?」

「ラブレターじゃなかったみたいだよ。それがショックだったみたいで、くしゃくしゃに握り潰してた」


 そこまで説明せんでいい……まぁ、でもこれでラブレターじゃなかったのは理解してもらえただろう。


「本堂莉子っていう知り合いから、どーでもいい知らせがあっただけだよ」

「ああー、六組の。そんなとこまで女の子を漁りに行ってたなんて気付かなかったよ。流石、花櫻の新たな王だね!」

「漁ってねーし……それと、恥ずかしいからやめてくれる? その言い方……」


 以前、二年六組を初めて訪ねた時に本堂から言われたそれを、当然陽歌も知っている。だって、教室以外ではそこら中で新たな王扱いなんだもん……俺。


「初めて耳にした時はつい笑っちゃった。鼻で」

「よーしバカにしてるのだけは伝わってきたぞ。今後一切、陽歌は王宮への出入り禁止な? つまり早くここから出てけ」

「この家の主人は佑くんじゃなくて佑くんのお父さんなのでしたー。その主人からは昔からいつでも来て良いって言われてるのでしたぁ! ……てか何? マジで自分を王だと思ってるの? バカも極まると手が付けられないね」


 陽歌は呆れたように両手をやれやれと振った。


 ……お前も大概バカ極まってるだろうが。


「ど、どうやってその女と知り合いになったのよ……?」


 と、ここで有紗からそんな質問が飛んできた。そんなに気になる事だろうか。


「体育祭であの録音を流した奴を知ってないか聞きに行っただけ」


 何の考えも無しに素直に答えてしまったが、これは不味かったとすぐに気付いた。

 何故なら、陽歌の顔が一瞬、少しだけ強張ったように見えたから。


「あ、あぁ……そうなの! なんだなんだ、そういう事か! 本堂莉子ね、二学期になったら顔見て来よーっと」


 有紗もそれを察したのか、この話題を終わらせるかのように一人で納得した素振りを見せた。


 これで確信を得た。恐らく、陽歌と有紗の中にはとある銀髪の女の子が浮かんでいて、その相手との関係性は良くない。


 とはいえ、その相手を知らない俺が何かを考えても無駄だ。

 出来る事は、その相手とは一致していないであろう俺の中の銀髪の女の子に関する話題を口にしない。それだけだ。


「そういえば有紗ちゃん。昨日ここから帰った後、本屋さんに行ったんでしょ? 何か面白そうな本とかあったりした?」


 俺も有紗もその話題を続けるつもりは無かったのだが、それは当然陽歌も同じ。だからこそ、瞬時に新たな話題を出してきたのだろう。


「そ、それは……」


 え、なんかもじもじし始めたけど……なんで?


 まさか――、


「佑くん、有紗ちゃんがエロ本コーナーなんて行くわけないから」

「俺の思考を読んで正確に答え導き出すのやめてくれる?」

「今時の本屋さんにそんなコーナー中々無いでしょ……そうじゃなくて、私が買ったのはこれよっ……!」


 と、有紗は鞄から一冊の本を取り出した。

 表紙に二次元の金髪ツインテールの可愛い女の子の絵が付いてる。あ、これラノベだ。


 えーと、タイトルは……、


「……へ?」


 なんだこれは……『隣の席の金髪美少女が、内心僕にデレデレらしい』だと?


 ちょ、ちょっと待ってくれ……それってつまりは――、


「夏休み、季節外れの、春到来。期待膨らみ、妄想炸裂」

「やっぱそういう事?!」


 普段はクソだと思ってしまう陽歌の読む句が、今日は天才的だと感じてしまう。


「知らねーよバーカ。自分で聞け、このドヘンタイ」


 そんな毒も本日は栄養に変えられそうなほどに俺の気分を良くしてくれる。


「あ、あのさ有紗……? も、もしかして俺の事……好きなの?」


 そう尋ねると、有紗の顔が見る見るうちに赤くなっていく。


 もらった……! これは絶対そうに決まってる。

 杠葉さんは言っていた。俺に好意を抱いている女の子は少なくとも二人いるって。

 その後一人が有紗だったんだ。親友の杠葉さんに何かしらの相談をしててもおかしくはない。


 それに、良く考えてみるんだ俺よ。その兆候は体育祭以来何度かあったではないか。

 その度にあれこれ理由を付けて違うと判断し続けてきたが、それ自体が間違いだったのだ。


 期待膨らみ、妄想炸裂……! 素晴らしい響きだ。ありがとな、陽歌。


「な、な、ななな何言ってるのよあんた……! バ、バッカじゃないの?! これは、あんたが読んでた本を探してたら偶々目に入ったやつで……絵が私に似てたから買ってみただけよ……! タイトルだけで勘違いしないでよねっ! だ、第一なんで私が、あんたみたいなだらしなくてスケベでバカな男を好きにならなきゃいけないわけ……?!」


 浮かれていた俺に返ってきた反応は、想像とは正反対のものだった。

 言い終わった後、有紗は本を鞄に仕舞い、慌ただしくうちを出て行った。


 ……無念。さらば、俺の春よ。


「あらら……相変わらずだなぁ、有紗ちゃんは」

「――ちょっとまって?! え、まてまてまて……! ヤバイヤバイヤベェ……テメェが自分で聞けって言うから聞いちまったじゃねえか……」

「は? 人のせい? 知らねーよバーカ」

「終わった……」


 ぐったりと仰向けに倒れ込む。

 嗚呼……俺の意識が……段々と……、


「おーい、息してる? 死んだフリ作戦しても私しかいないよ? ……返事無し。しょうがないなぁ」


 突如として腹部に重みを感じ、次いで胸部に僅かな圧迫を感じた。

 目を開けて確認すると、陽歌が馬乗りになっている。


「……何してんの?」

「死者蘇生」

「人工呼吸してくれるなら、ちゃんと全ての手順踏んでくれよ」

「本当に必要な場合はね」


 そう言って陽歌は俺の腹部から立ち上がった。


「あ、今私のパンツ見た……」

「見てねーわっ……テメェ穿いてるのジーパンだろうがっ……なんでミニスカじゃねえんだよ!」

「うんうん、いつものヘンタイっぷりだね。なら一安心」


 ヘンタイが安心される指標の俺って一体……もしかして自分で分かってないだけで、実は相当なヘンタイなんじゃ……。

 いやいや、良く考えろ俺。相手は陽歌だ。そんなはずあろうものか。


「ま、そんな深く考えなくても、有紗ちゃんなら二日後にはケロッとまたここに来てるよ。だから今からメッセージ送っときなよ。次来る時はミニスカでって」

「仮にそれを送ったなら、俺は疑いようもなくアホだな」

「やっと気付いた?」

「気付いてねーよ」


 だってそんな文言送るつもり更々無いからな。

 俺の事好きなの? とか聞いた挙句、その後すぐにパンツ見たいから次回はミニスカで来てくれとか、俺はどこのヤリ手だっつーの。

 生憎そんな自信持ち合わせてないわ。


 つまり俺はバカであってもアホではない。


「明日二人と出掛けるんだよな?」

「分かった分かった、ちゃんと様子見といてあげるよ」


 言わずとも俺が言いたかった事を察してくれたらしい。この辺り、流石は幼馴染。意志の疎通は他の誰よりも上手くいく。


「サンキューな」

「それより佑くん」

「なんだ?」

「佑くんの読んでた本って何?」

「え……」


 何故このタイミングでそれを聞いてくる? 聞かれても答えないよ? 『幼馴染は超毒舌。そんな彼女に俺はいつしか恋してた』を読んでるなんて、陽歌だけには絶対言わないよ?


「怪しい……新たなエロ本だな?」

「え、ちがっ――」

「――沙紀おばさん、緊急連絡。佑くん、新しいエッチな本を読んでましたっと」


 と、陽歌はスマホを弄り始めた。


「ふざけんなっ……! 違うわっ! つか、何を現場目撃しました風にして信憑性上げようとしてんだバカ陽歌っ!」

「冗談冗談。送ってないよ、安心して?」


 と、陽歌は俺の母さんとのやり取りの画面を見せてくる。

 確かに送っていないようだが……、


「……おい、クソ陽歌」

「なぁに? クソ佑くん」


 こんなやり取りが画面にある。


【佑くんにお風呂覗かれました……結論、裸見られました……】

【あらそうなのぉ! ならもう他所にはお嫁に行けないわね。安心して、責任はちゃんと取らせるから】

【次回帰国時、お尻ぺんぺんの刑でお願いします】

【りょーかい!】


 これは一体、どういう事だ……。


「何で話捻じ曲げて告げ口してんだテメェ! 覗いてねえし見てねえし。見たの半裸だし」

「半裸でも見られたものは見られたんですー。良かったね、十七にもなってママからお尻ペンペンしてもらえるよ? 喜べ、このマザコン」

「この野郎……覚えてやがれ」


 俺も何かテキトーに話作って彩歌おばさんに告げ口してやるからな。その時になって泣いて謝っても遅いんだからな。


 と、密かに計画を練る決意をしたのだった。



 

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