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あの日交わした約束~転校先の約束少女たち  作者: ぐっさん
第四章 七年越しの約束
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15 元天敵は青空を見つめ何を思う?

「――嘘ですね。あなたの、本当の気持ちを教えてください」


 有紗がスタンバイしている物陰との距離が縮まると、ふとそんな声が耳に聞こえた。


 なるほど、その物陰からは会話内容までバッチリ聞こえてしまうというわけか。


「どうした? そんな難しい顔をして」


 その物陰に到着し、会話に耳を傾けているであろう有紗に尋ねる。


「しっ、いるのバレちゃうじゃない」


 どうやら有紗は盗み聞きしているのをバレたくないようだ。だったら、声の大きさは控えめにしないとな。


「……だから言ってるでしょ。別に今のままでも構わない」

「では何故、毎日毎日辛そうなのですか?」

「――っ?! お前にわたしの何が分かる……?!」

「分かりませんよ、あなたの事なんて。ですが、辛そうなのは誰の目から見ても明らか。それはもう、毎日毎日家で泣いててもおかしくなさそうなくらいには」

「誰のせいで……誰のせいでこんな毎日を送ってると思ってるんだっ……!」


 おいおい大丈夫かよ……? 明らかに曽根の奴、頭に血が昇ってるぞ。

 杠葉さん、ちょっと挑発的な言い方過ぎやしないか?


「それは、あなたが一番分かっているはずですよ。もしそうでないのなら、二週間も学校に来ないで自宅で何をしてたんだって話ですから」

「……っ?!」


 生徒は誰も曽根と二岡が停学だなんて教師から聞かされてなどいないと思うが、それは状況から大方の予想が付くもの。

 それを今、杠葉さんは曽根に遠回しに言ったのだ。


「あなたはもう、充分反省したはずです」


 杠葉さんはそう言うが、全てのテストが返却され終わったあの日、曽根は恨みをぶつける為か俺に接触してきたわけだから、俺はそうは思わない。


 先程曽根がした、誰かのせいとの発言がそれを証明しているとも言える。


「……わたしだって、分かってるのよ。自分が何をしたから停学になって……腫れ物扱いされるんだって、分かってるのよ……。自分が悪かったって、理解はしてるのよ……!」


 ……なんという矛盾。理解していたにも関わらず、俺に恨みをぶつけてきたというのか?

 相変わらず理不尽さでは群を抜いてるな、曽根は。


「だから、わたしは良いのよ……学校で辛い毎日を送るのは、それ相応の報いだから。でも……真斗は? 真斗がわたしと同じ目に遭うのは、耐えられない……だから殺してやりたいほど憎んでたのよ、椎名佑紀を」


 結局そこに行き着くわけか。

 曽根が自らの行いを反省していたのは理解した。

 だが、やはり俺への恨みは絶大なようだ。


「佑くん……いつ刺されるか分からないから、今後は私のそばを離れないでね。絶対守ってあげるから」

「わ、私だってあんたの味方よ……!」


 ……後三日で夏休みか。怖いから、もう明日から自主的に夏休みに突入しようかな……。

 陽歌が俺を守るとか言ってるけど、それだと危険な目に遭わせかねんしな……。


「彼を恨むのは的外れではありませんか? あの人がした事は、全生徒の目の前で二岡さんに勝った。ただそれだけですよ?」

「……それも分かってる。本人に問い詰めたら、証拠も出してきたし」

「問い詰めた……?」

「真斗が椎名くんに負けた直後に流れたあの音声さえ無ければ、全てにおいて一番ってわけじゃないんだと思われるだけで済んだかもしれないのに……。でも、最初は椎名くんが流させたとばかり思ってたけど、それはどうやら間違いだったみたいで。……だからもう、別に椎名くんを恨んだりはしてない、ムカついてるし大嫌いけどね」


 俺への恨みは既に無いという事は、殺意も消えてるって事で良いんだよな? だったら後三日、ちゃんと学校行こっと。

 それから奇遇だな、俺もお前が大嫌いだ。


「なるほど……私もあの音声の提供者は存じませんが、奇妙な点ではありましたね。異常なほどにタイミングがあれでしたし」

「遠回しに言わなくて良いよ。抜群だったよ、完璧過ぎて怖いくらいには。人を地獄の底の底まで落とし切るのが趣味なのかって聞きたいくらいにはね」


 ……お前がそれ言うか?


「あんたがそれ言う……?」


 と、曽根の最大の被害者と呼べるであろう有紗も不愉快そうに曽根を睨みつつ呟いている。


「そいつは花櫻生じゃなくて、他校生みたい。でも、銀髪の女だって特徴は掴んだ。何がなんでも探し出して絶対ぶっ潰してやるんだ」

「それって、意味がありますか?」

「……は? あるに決まってるでしょ? 復讐してやらなきゃ、割に合わないっつーの」


 と、曽根は俺への宣言通り、本気でその銀髪の女の子への恨みを晴らすつもりらしい。

 まぁ、見つけられるわけがないから無理だろうけどな。


「復讐はまた新しい恨みしか生まない。そんな事をしても、あなたの現状は何も変わりません」

「――っ?! だから、わたしはこのままで良いって言ってんだろうがっ……!」

「ですが、それではあなたの望む未来には程遠い」

「……わたしの、望む未来?」


 再び激昂していた曽根だったが、杠葉さんの一言でそれは鎮まり、声を震わせた。


「あなたは、二岡さんが自分と同じ目に遭うのは耐えられないと言いました。ですが、残念ながらそれは無理でしょう」

「……何が言いたい」

「それはあなた次第で緩和できるのでは? と、言っているのです」

「そんなの、できるわけ……」


 曽根が困惑するのも頷ける。

 俺だって、どうすればそんな事ができるのか全く想像が付かないから。


「例えば、二岡さんが学校に来るようになった時、周囲のあなたへの態度が今よりもマシになっていたとしたら? もしかしたら自然の流れで、二岡さんへの態度もマシになっているかもしれませんよね?」

「そんなの……なるわけがないじゃん……」


 曽根は依然として困惑しているように見える。かくいう俺も、未だに杠葉さんが言いたい事が分からない。


「マシになりますよ、きっと――」

「……え?」

「……すいません。自然の流れは流石に言い過ぎました。それでは無理ですけど、あなたが二岡さんに証明すれば良いんです。彼が、やるべき事を」

「わたしが、証明……?」

「もう、分かりますよね? 本気で彼の心が欲しいのなら、後はあなた次第です――」


 杠葉さんは曽根に向けてそう告げて、その場を立ち去ろうとする。

 結局、杠葉さんが曽根に何を伝えたかったのか、俺には分からず終い。


「――待って……! どうしてわたしなんかに……散々な目に遭わせてきたのに……!」


 だが、曽根には理解できたようだ。

 曽根は杠葉さんを呼び止め、手を差し伸べてくる理由を問い質した。


「……さぁ? 強いて言えば、あなたみたいな人を心配してる人だっているからでしょうか? 例えば、私の小さなお友達、とか――」

「まさか、美音が言ってたのって……」


 察しがついたのか、曽根は妹の名前を呟いた。

 杠葉さんはそれを聞き、僅かに微笑してから歩き出す。


「――待って……! 何で……どうして……あんなに怯えて生きてたくせに、いつからそんなに強くなったの……?!」


 そんな杠葉さんを、曽根は再度呼び止める。


「別に強くなんてありません。まだ、その道のりの途中ですから」

「……杠葉綾女、やっぱりあの男の事が……!」


 ……え、一体何の話? もしかして恋バナ開幕?


「仮にそうだとしたら、どうします?」

「……別に。それならそれで、今となってはもはや好都合。好きにすれば良いんじゃない?」

「……だったら一々聞かないでくださいよ」


 と、杠葉さんは不満げにそう言ってから歩き出す。


「ちょ、ちょっとま――」

「――大人しくしてなさいっ! バレるでしょうがっ……!」


 杠葉さんが好きな男とは誰なのか?

 そんな羨ましい存在に対する怒りと嫉妬でいてもたってもいられなくなってしまい、思わず飛び出しかけたところを有紗に引っ込められる。


 それでも俺は暴れ続け、それを有紗が全身を使って押さえ付けてくる形が続く事数十秒。

 俺たちが隠れる物陰の前を杠葉さんが通過してしまった。


 クソッ……まぁ、冷静に考えたら聞くと悲しくなりそうだし有紗に感謝しとこう。


「……パイ」


 そう、冷静になってしまったから気付いてしまった。

 なんだこの、見方によっては抱きつかれた状態は。しかも、おっぱいが頭に……。


「……あの、有紗さん?」

「何よ?」

「いつまでこの状態で?」

「嫌だって言うわけ?」

「いえ、そんな事は無いのですが……」


 非常にありがたい。ありがたいですとも!

 だが……陽歌が何を言い出しやがるか――って、あれ?


「ど、どうした陽歌……? そんな難しい顔して」


 まさか、今の俺の状況を整理して渾身のネタを考えてるとかじゃないだろうな……?


「あ、ううん……ちょっと、銀髪の女ってのが気になってね」


 だが、俺のそんな予想は大外れで、俺としては陽歌が気にするはずもないと思っていた事を考えていたらしい。


 それを聞いてか、有紗が俺を解放してしまった。残念……。


「ま、まさかそんなわけないでしょ……? 銀髪の女なんて花櫻にも何人かいるわけだし……他人よ、他人! そもそも、あれはもっと遠い別の場所に行ったんだからっ」

「それもそうだね。ちょっと勘繰り過ぎちゃってたみたい。忘れよーっと」


 と、聞くからに二人が同じ人物を思い浮かべて、同じように腫れ物について語るかのような口振りをしている。


「えっと、何の話で?」

「今、はるちゃんが『忘れよーっと』って言ったの聞いてなかったわけ? バカなの?」

「バカに聞く耳は存在しないからね」


 俺の疑問に、容赦ない返しが襲ってくる。

 バカに聞く耳は存在しないとか、陽歌にだけは言われたくない……。


「ってなわけで、気を取り直して――」

「――ちょっとまてぇ! やめやがれっ!」

「ここで一句――」

「――やっぱりなっ! やめろっつってんだろっ……! 聞く耳持ちやがれっ!」

「……全然思い付かない。調子悪いなぁ、今日は。ごめんね、佑くん」

「お、おう……?」


 まさかの陽歌が聞く耳を持ってくれた。


 いや、思い付かなかっただけだから違うか……まぁ、句を読まれなくてある意味今日は助かったと言えば嘘ではないが、陽歌らしくはない。

 いつもならここで、有紗の胸の感触に俺が喜んでいたのが一瞬で分かるクソみたいな句を読まれ無事死亡がお決まりのパターンなのだが……変な陽歌。


 なんて思いつつ曽根の方に目を向けてみると、只々立ち尽くしていた。

 いや、顔が斜め上を向いている。


 見えているものは空だろう。

 梅雨も明け、本日は雲一つなく青く輝く空に、俺の元天敵は何を思っているのか。

 そんなものは知りたくもなければ、興味もない。


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