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あの日交わした約束~転校先の約束少女たち  作者: ぐっさん
第四章 七年越しの約束
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8 『冴えない転校生の僕が、パツキンと巫女、二人の美少女といつの間か三角関係になっていました』

 昼下がりの、じりじりとひりつく日差しが照りつける中を歩く事約二十分、やっとの思いで図書館に辿り着く。


 今日は昨夜の杠葉さんからのメッセージでこの場所に呼び出されているのだ。

 メッセージに記載されていた時刻の午後二時までは残り五分程。

 十分くらい早く着く予定で家を出たのだが、あまりの酷暑で歩くペースが落ちていたみたいだ。

 これが、時間丁度に着くつもりで家を出ていたとしたら確実に遅刻していたわけだから冷や汗ものである。

 まぁ、冷や汗以前に暑さで汗だくだけどな……。


 早く館内に入って涼みたい気持ちを抑えて、入り口で待つ事五分、時刻は午後二時丁度。


 ……あれ? 杠葉さん来ないんだけど?

 もしかして場所間違えたかな……?


 そう思ってスマホのメッセージを確認してみたが、やはり場所は合っている。


 なんだ、遅刻か。杠葉さんにしては珍しいな。


 と、更に待つ事十分……おかしい、来ないぞ?

 何なら遅れるって連絡も来ないし……杠葉さんの性格上、そんなのありえない気がするんだけどな。


「仕方ない、こっちから連絡してみるか。もしかしたら忘れてるのかもしれないしな」


 そして、メッセージを送ってから待つ事更に十分……え、ちょっと待って……来ないんだけど?! 何なら返信すら無いんだけど?!


「……まさか俺、嫌われてる? もしや騙された……? でも杠葉さんに限って人を騙したりは……」


 もしかして家か神社で何かあったのか? だから来れないし連絡する暇も無いのか?

 神社の様子を見に行った方が良いだろうか?


「うーん……分からん。行くにしてもちょっと休憩……そのうち来るかもしれんし」


 ひとまず、入り口で待ってても暑いだけだから、館内で涼む事にした。


「さてと、俺専用席は空いてますかなっと――って、誰か座ってるし……」


 なんだなんだ? いつからそんな人気席になったわけ? 当時は一時を除いて、連日誰も座ってなかったじゃねえかよ。


 まぁ良いや、構わず対面に座っちゃお。


 と、例の席に近付いていくと――、


「あっ……」


 その席に座っているのは杠葉さんだった。何やら真剣に本を読んでいらっしゃる。


 ……良かった。忘れてたわけでも遅刻でもなければ、騙されたわけでもなかったんだな。

 この場合、俺が遅刻したみたいな感じなのが腑に落ちないけど……。


 とりあえず着席し、気付かれるで声を掛けずに待つ事にする。


 何か、声掛けて読書の邪魔するのも悪い気がするし……。


 つーか、本の表紙にやたら可愛い二次元の女の子が写ってるけど、何読んでんだろ?


 えーと、何々……? 


『冴えない転校生の僕が、パツキンと巫女、二人の美少女といつの間か三角関係になっていました3』


 ――タイトルながっ!

 しかも三巻って、シリーズ物かよ!


 書籍のサイズ的に、小説……なのかな?

 ちょっと興味あるかも……。


「えっ……」

「ん?」


 杠葉さんと目が合った。

 やっと気付いてくれたみたいだ。が、なぜか口をぽかーんと開けている。


「――っ?!」


 数秒の間の後、杠葉さんは顔を真っ赤にして本を閉じ、表紙を下向きにして机に置いた。


 静かな館内に、本を閉じた際に生じた音が強烈に響いた為、ちょっとびっくりしてしまう。


「えっと……そのぉ」

「――見たっ?!」


 杠葉さんは何か焦りを感じさせるような、必死な様子で聞いてくる。


「タ、タイトルと表紙の絵を少々……」

「――はわっ?!」


 いや、だから何をそんなに焦っているんだ。

 あなた、ただ普通に本を読んでいただけでしょう?


「……何か問題でも?」

「べ、別にっ……!」

「なら何でそんな焦ってんの?」

「何を読んでたのか他の人に知られるのは構わないんですけど、佑紀さんだけはダメだったんですぅ……」


 と、杠葉さんはやけに恥ずかしそうに説明してくる。


 どうして俺だけダメなんだ……拒否られてるみたいで普通に悲しいんですが。


「とは言われても見てしまいましたし。確かタイトルは――」

「――やめっ、いやぁ……」

「……なんだっけ?」


 マジで思い出せない。初っ端の文字すら頭に浮かんでこなくて、暗記力の無さを痛感してしまう。


「覚えて、ないのですか……?」

「長すぎて忘れた。バカ発動してるみたいで泣ける」

「ホッ……セーフ」


 杠葉さんは胸に手を当て安堵している。


 それを見る俺は普通に辛いけどな。ちょっと抵抗してやろうか。


「表紙のやたら可愛い女の子の絵は何となく覚えてるけどな」

「別にそれは構いませんよ。タイトルさえ忘れていてもらえれば」

「今度本屋行って探すわ。そんな長いタイトルならどの本だったかすぐ分かりそうだし」


 意地でも見つけてやるからな? 覚えとけよ!


「言っておきますが、長文タイトルはこの本に限らずたっくさんありますからね?」

「え、そなの……? 表紙に女の子の絵が付いたやつの中から長いタイトルのを探せば楽勝だと思ったんだけど……」

「ここ最近のラノベは長文タイトルが増えてます。表紙の絵を覚えてるっていっても、何となくなんですよね? ラノベの表紙はどれも、漫画みたいに絵が付いてるんですよ? 加えて、この本みたいに女の子の絵が付いてるパターンがほとんどです。果たして、この本の表紙を何となく覚えてるだけで、佑紀さんに他の本と見分けが付けられますかねぇ?」


 杠葉さんは、俺がその本を書店で発見できないであろう理由を語り、最後に挑発的な笑みを向けてくる。


 クッソムカつくな……。

 というか、そもそもラノベってなんだ? ……まぁ、本屋行けば分かるか。


「……絶対見つけてやる」

「はいっ、がんばです。それより佑紀さん、大幅な遅刻ですよ」

「いや、一応五分前には着いてたし。集合場所入り口だと思ってただけだし。メッセージだって送ったし」

「えっ?!」


 杠葉さんは焦った顔で自分のスマホを確認している。


「も、申し訳ありません……! 読むのに夢中になり過ぎてて連絡来てるのに気付かなくて……。それに、集合場所もちゃんと伝えてなくて……」

「大いに反省したまえ! 外は暑いんだからねっ!」


 良し、これで俺は完全なる無罪となった。勝訴!


 ……ホント、カスみたいな男だな、俺って。


「ごめんなさいぃ……」

「あ、いや、こちらこそごめんなさい……」


 ここまで落ち込まれると、カス男の俺でも流石に悪い気がしてしまう。


「……それで、今日は何をするので?」

「そ、それはズバリ、絵本ですっ!」

「絵本? を読むって事?」


 えぇ……だとしたら中々キツくないか?

 別に絵本を読むの自体は良いんだけどさ……絵本コーナーって、児童がはしゃげるように用意された子供部屋みたいな所にあるわけじゃん?

 高校生にもなってそんな場所に行くのはかなり恥ずかしいんだけど。


「そうですよ。ですが、読むのはわた――」

「――断るっ! もうあの場所に行く歳でもないし」

「年齢なんて関係ありません。それに、これは強制です」

「……今日は珍しく強引ですな」


 まるで有紗を見ているようだぞ。

 何かの拍子に中身入れ替わったとか無いよね……?

 ……って、そりゃ無いか。SFじゃあるましい。


「現状劣勢なので、ちょっとは強引にもなりますよ」

「何の話?」

「何でもありません。ほら、さっさと腰を上げてください」


 と、杠葉さんは立ち上がって俺を見下ろしながらそう促してくる。


「はいはい……」


 このまま駄々をこねてても無意味と判断し、仕方なく立ち上がる。


 ホント、今日は強引ですね……。


「じゃあ、行きましょうか」


 歩き出す杠葉さんの後ろをタラタラとついていき、絵本コーナーのある部屋の扉の前に到着。


 そして、ドアノブに手を掛けた杠葉さんが、扉を開く前にこちらに振り返ってニコッと笑った。


「さっき言いそびれましたけど、今日は私が読み聞かせして差し上げますので、期待しててくださいね」




 …………………………………………は?

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