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あの日交わした約束~転校先の約束少女たち  作者: ぐっさん
第四章 七年越しの約束
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5 『見ぃつけたぁ』

 二年七組の教室の扉の前から中の様子を窺うと、すぐに体育祭実行委員だった子を見つけることができた。


 他クラスの教室に入ったことはないし、何なら知り合いもいないからちょっと緊張するが、恐る恐る室内に入っていき――、


「あ、あのぉ……」

「――ひっ?! え、わ、私?!」


 体育祭実行委員だった子に話しかけたのだが、意図せずびっくりさせてしまったみたいだ。


「えっと、そうだけど……ちょっと良いかな?」

「――ごめんなさいっ!」

「……へ?」


 用件を言う前から頭を下げられてしまった。

 元より、何故謝られているのか全く理解できないのだが……、


「姫宮さんを悪く言った私を裁きに来たんだよね……? ごめんなさいっ……! エッチなことでも何でもしますから、存在抹消だけはどうかお許しを……!」

「……エッチなこと? ――って、ちがーうっ!」


 第一、裁きって何だよ、裁きって! 俺は神にでもなったのか?!

 ……って、何でこのクラスの奴ら、そんな怯えた目で俺を見てんの?!


「ち、違うの……? 私はてっきり、二岡真斗に変わってこの学園の王になった椎名くんに罰として消されるのかと……」

「勝手に王にしないでもらえます……? そうじゃなくって、ちょっと聞きたいことがあって来たんだけど」

「わ、私にお答えできることなら、何でもお答え致しますっ」

「そんな畏まらなくて良いから……」


 同級生にも関わらずこのような態度をされるのは物凄く調子が狂ってしまう。


「えっと、体育祭で二年生の男子選抜リレーの時に司会をやってた実行委員の人を教えてほしいんだけど」

「それは私――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


 おう、勘違いさせてごめんな? その司会をやってた人を俺が消そうとしてるって思ったんだよな? だからまた必死に謝ってきてるんだよな?


「……あのぉ、消したりしないから安心して?」

「……本当に?」

「本当に。……で、本題なんだけど、司会だったってことはあの時録音を流したのはお前だよな?」


 ……お前なんて呼んじゃったけど、面識ほぼ無いのに俺って人間はマジで失礼な奴だなと思ってしまった。

 一応、用が終わったら最後に名前聞いとくか……。


「えっと……そうなんだけど、あれは私のミスで……」

「え、まさかあの録音ってお前が持ち主だったの?」


 またやってしまった……クソ失礼な奴だな、俺は。


「――違う違うっ! あれは持ち込まれたもので……! ミスっていうのは、言われるがままに再生しちゃったのを指してて……騙されちゃった」

「ふーん、どんな風に?」

「椎名くんが勝った瞬間、それはもう酷く負の空気だったでしょ? わ、私もテンパっちゃってたんだけど、あの、その……司会進行不能レベルに……」

「ある意味俺に失礼だな」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


 だったら俺もこいつには失礼なままでいいや……なんて冗談はさておき……、


「それで?」

「その時に、これを流せば一気に空気が明るくなるって、例の録音を渡されて、気が動転しててまともな判断ができなかった私が流しちゃいました。で、流れた録音を聞く内に、これマジヤバいよってなってすかさず切りました」

「……ヤバい部分全部流れてたけどな」

「ごめんなさいぃ……」


 と、怯えるように声を震わせているこいつもある意味被害者と言っていいだろう。


「まぁ、そこまでわかれば話は早い。録音の提供者を教えてくれ。何年何組のどこのどいつ? 知らなきゃ顔とか覚えてない? 覚えてるなら一緒に探してほしいんだけど。そいつに一言言わなきゃ気が済まないし」


 結果オーライと言えば聞こえは良いが、もし仮に違った結果になっていたとしたら今頃有紗がどうなっていたかを考えると、やはり腹が立つ。


「それが……花櫻生じゃなかったんだよね。私服だったから確証は無いけど、多分同い年くらいの他校生? だと思うよ」

「……おいおいマジかよ。んじゃ探すに探せねぇじゃん」


 一言言いたかったが、どう考えても無理難題だ。


 というわけで、これに関しては迷宮入りということで調査は終わりとしますか……だって俺、チラ子探しを本格的に開始しなきゃだし。


「えっと……探したいなら、顔は正直覚えてないけど髪色と性別だけは覚えてるよ。銀髪の女の子だった」

「……銀髪?」


 そういえば、二岡との勝負の直前に俺がスタートの合図を頼んだ不良っぽい女の子も銀髪だったよな?


「心当たりがあるの?」

「……いや、特には」


 あったとしても、顔も覚えてなんかいないし、そもそも髪色と性別が一致してるだけで疑うのも良くない話。

 何なら、もう二度と会わない人物なわけだから、やはり調査は今この時をもって終わりだ。


「んじゃ、今日は急に悪かったな。色々教えてくれてサンキュー」


 俺に怯えた室内の空気を吸い続けるのも良い加減キツいし、そろそろ自分の教室に戻ろうかと、礼を言ってから出口に歩き始め――、


「ちょっと待って! 後もう一つだけ、その人、最後にわけわかんないこと言い残してったんだけど……。『見ぃつけたぁ』って伝えとけって」

「……意味不明すぎるな」


 マジで謎の伝言だ……。


「でしょ? そもそも誰に伝えろって話だよ」


 伝言相手を言っていかない辺り、おふざけもいいとこだ。


 そして、伝わっている相手が俺という……どう考えても俺は関係ないし忘れようっと。


「まぁ……あんま気にせず忘れちゃえよ。んじゃ――あ、お前名前は?」

「私? 私は本堂莉子(ほんどうりこ)

「本堂莉子か。んじゃ、今日はサンキューな、本堂」


 最後にそう言い残して、二年七組の教室を出ると――、


「本当に、キミじゃなかったんだ……」


 後をついてきていたのか、曽根紫音がそこにいた。


 そんな曽根の顔には目を向けず、教室に向けて足を動かす。


「銀髪の女なんだよね? わたし、そいつ見つけ出して絶対潰すから」


 こいつは一体誰に対して宣言しているのだろうか。

 俺に話しかけるなって言ってあるから俺じゃないとは思うが……もし俺に言ってるのであれば勝手にしろとしか言いようがない。勿論、会話したくないから反応しないけど……。


 うん、きっと自分に言い聞かせてるか、ここにいない二岡に言ってるのだろう。


 俺は俺で、そう思うことにしてさっさと教室に早歩きで戻った。


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