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53 運命の歯車

 弥生日和からの帰り道、曲がり角で杠葉さんと有紗と別れて陽歌と渚沙と家に向かって歩いていく。


「佑くん佑くん? まさかあんな方法で全てをひっくり返すなんて予想もできなかったよ」

「そりゃどうも。まぁ、余裕で勝てるって思ってたらマジでギリだったからクソ危なかったけど……」

「まさかクソ兄貴にあそこまで食らいつける人が花櫻学園にいたなんてね。実は大したことねぇんだな、クソ兄貴」


 なんて悪態を吐いてきやがるが、『――なぎのお兄ちゃんは絶対負けたりしないからっ……!』って、泣きながら訴えてきた奴の言葉とは思えねぇ……。


「私は勝てるって信じてたよ。でもまぁ……決着後に録音を流したのは超サイテーって思ったけど。ホント、佑くんって性格()じ曲がってるよね」

「――ちょっと待て! あれ、流したの俺じゃないからな?! むしろ、あのタイミングで狙ったかのように例の録音が流れてめっちゃ動揺しちまったわっ……!」


 思わず立ち止まり、ムキになって反論する。


「そ、そうだったの……? じゃあ、一体誰が……」


 橘以外にも二岡と曽根の密会現場に居合わせて会話を録音した奴がいるのは確定している。


 司会席から流されたわけだし、来週になったら誰が流したのか体育祭実行委員に確認しに行くとしますか。


「……陽歌が怒ってきたってことは、杠葉さんと有紗も当然怒ってるよね?」


 だとしたら、後で誤解だってメッセージ送っておかねば……。


「ううん、全く。佑くんがやったわけじゃないんじゃないかって言ってたよ」

「なるほど……なのにテメェだけは疑ってやがったんだな」

「幼馴染の過ちを正してあげるのが幼馴染の役目なのです。もし佑くんがやってたんなら、目を覚まさせてあげなきゃでしょ?」

「はいはい……どーもです」

「ああっ?! 絶対感謝してないでしょ?! ねぇ、そうなんでしょ?!」


 するかボケ。

 だって犯人は俺じゃないし。


 なんて思いつつ、横でギャーギャー騒いでいる陽歌を一度、渚沙と一緒に白い目で見てから歩き始めた。



□□□



「では、今日はお疲れ様でした。お気をつけて」


 杠葉神社に着くと、境内に上がる階段の前で綾女がペコッとお辞儀をしてきた。


 今日はこれから境内の掃き掃除をするらしい。

 体育祭後だというのに勤勉だなぁと感心してしまう。


 けど、帰る前に綾女には言っておかなければならない事がある。


 それを言う為に小さく息を吸って吐いて気持ちを落ち着かせる。


「――あだ名はチラ子」

「――っ?! だ、誰です……? 有紗さんのご友人ですか?」


 明らかに動揺した綾女が苦し紛れといった具合にそう言った。


「何言ってるのよ? 私たち、友達どころか親友でしょ?」

「それはそうなんですけど、それとその子に何の関係が――」

「――私があんたと初めて会ったあの日、名前を聞いたらそう答えたじゃない」


 だから私はチラ子という名を知っていた。


「……覚えていたんですね。……確かに私はそう答えました。それが、当時の私にとってたった一つだけ残されていたものですから」


 綾女は切なげな表情でそう言った。


「あいつはチラ子を探してる。そしてそれはあんた自身。あいつに自分がそうだって言うつもりは?」

「私はもう――チラ子じゃありません。その自信は、彼が転校してきてから今日までの間で持つことができました。だから、チラ子が私だと言うことはできません」

「それじゃ、あいつは何の為に今日まで――」

「――ですが、七年前の少女が私である事はちゃんと言いますよ。夏の終わりに、彼が来てくれれば――」


 最後ボソッと呟いてたからよく聞こえなかったけど、夏の終わりにってのは聞こえた。


 ってことは、二ヶ月後くらいってわけね。


「そう、なら良いのよ。それまでは待ってあげる」


 まぁ、アピールはするけど。

 待ってあげるなんて、私も上からものを言ったものね……まだ、告白する勇気がないだけなのに。


「え、待つって……何をです?」

「それは――私からあいつへの告白よっ!」


 同じくあいつに好意を向ける者、大親友への大宣言。


 かなり緊張した……。


「……へっ? ――ええぇっ?!」


 綾女はポカーンとした顔をした後すぐ、目を見開いて驚いた。


「こ、これは私なりの宣戦布告よっ! し、親友だからってこれだけは譲ってあげないんだからねっ」

「ちょちょちょ、待ってくださいっ……! 有紗さん、佑紀さんが好きなんですか?!」

「そ、そうよ。今日分かったのよ」

「……まぁ、その気持ちを抱いてもおかしくはありませんね。だって、今日の佑紀さんは本当に凄かったですから」


 綾女はどこか懐かしさを感じるような表情で微笑んだ。


「……どっちが勝っても恨みっこなしですよ、有紗さん。――私も、彼が好きです」

「うん、知ってたわ。……でも、勝つのは私よ」

「いいえ、私です」

「私よっ!」

「違います、綾女が勝ちます」


 お互いの目を見て、恋に関して対峙する。


 もう、私たちにとっての障害は無くなった。

 誰かの都合良く動いていた世界は崩壊した。


 ――だからこそ、新しく動き始める。


 言うなら、歯車ってところかしら?


 私たちの運命の歯車が今、ゆっくりと動き始めた。

これにて第三章終了です。

第四章は四月中に開始する予定ですので、今しばらくお待ちください。


※予定変更の場合は後書きに追記します。


追記


第四章一話目を四月七日午後七時に投稿予約しておきました。

よろしくお願いします。

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