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52 心の金メダル

 今回の選抜リレーでの一件、その主犯格たる俺氏、体育祭終了後に学年主任に呼び出しをくらいめちゃくちゃ説教をされる……。


 まぁ、競技そのものをぶち壊したわけだから普通に当然の結果とも言える。


 そんなわけで半べそかきながら一人寂しく弥生日和に到着。


「……ちわっす」

「お、来た来た! おーい半泣き佑くーん! こっちこっち!」

「……声でけぇんだよ。別に泣いてねーし」


 周りのお客さんに変な目で見られるからやめてほしい。


 なんて思いながら、空いている渚沙の隣に座る。


「うっわ……愚兄が隣かよ。マジ最悪」

「と言いつつ、デレるタイミングを(うかが)ってる妹ちゃんなのでした」

「――ちげぇよバカ陽歌!」


 渚沙が陽歌にキレている。見慣れた光景に安心感すら覚えてしまう。


「ケーキ……」


 テーブルの上の各皿に切り分けられたそれを見て無意識に呟いてしまう。


「ん? なんだ知らねえのか? 今日は姫宮の誕生日だぞ」


 俺の反応を見て相沢がそう言ってくる。


「椎名は知らないわよ。だって私、昨日それとなく試してみたし……明日が何の日か知ってるかって。そしたら、体育祭って、ごく当たり前の反応しか返ってこなかったわ」


 それに対して有紗が不満げにそう言った。


「あらまぁ……椎名っち、それは大減点だねぇ」

「佑くんの恩知らずは今に始まったことじゃないから仕方ないよ」

「愚兄に恩返しなんて言葉は存在しないからね。これまでなぎも、恩を仇で返されまくってきたし」


 それを聞いて約三名、俺を責め立て始めた。


 おい渚沙……お前だけには言われる筋合いねぇからな?


「……ふっふっふっ、ところがどっこい、実は知ってたんですよねぇ!」


 まぁ、陽歌から聞いたからだけどな。


「そ、そうなんだ! 何だ、知ってたのね……!」

「まあな。てなわけで、お待ちかねのプレゼントタイム――」

「――もう終わったよ」

「……え?」


 陽歌の一言で全てを悟った。

 もうみんな、有紗に誕生日プレゼントを贈ってしまったということに。


狼狽(うろた)えるなバカ兄貴。何用意したんだか知らねーけど、今こそセンスの無さを見せつける時でしょうが!」

「だから、お前だけには言われたくねぇ……」


 その昔、まだ渚沙が可愛げのある四歳だった頃の話……、


『お兄ちゃん! お誕生日おめでとう!』


 なんて言いながら、外で拾ってきたダンゴムシを三十匹くらいプレゼントされた時はマジで戦慄(せんりつ)が走ったのを、俺は今でも忘れてねえんだからな?


 当時はまだ可愛かった妹からのプレゼントだから、仕方なく飼ったけどね……。


「あ?」

「いえ、何でも……」


 渚沙から目を逸らし、鞄から包みを取り出す。


「ほれ、誕生日おめでとう」


 祝福を述べて有紗にプレゼントを渡す。


「……ありがとう。開けても良いかしら?」

「別に良いけど、どちらかと言えば家で開けることをオススメしとく」

「あんた、まさかこれって……」

「そのまさかだ」

「――やっぱそうなのねっ……! ほんっと、あんたって男は……ふふっ、でも良いわ。本当にありがとう」


 そう言って有紗は微笑した。


「ここで一句――」

「――絶対やめろっ!」


 陽歌がロクでもないことを言い出す前に制止する。

 そうと決まったわけではないが、超高確率でロクでもないことだから、この選択は正しい。


「えぇ、せっかく考えたのに……佑くんがあげた中身を予想して」

「だったら尚のことやめやがれ。有紗のプライバシーに関わるからな」

「エロ佑くん、おかず狙いで、下着あげ、今日も夜な夜な、妄想爆発」

「佑紀さんが有紗さんで?! そ、そんなっ……!」

「ちっがうわっ! クッソ、やっぱロクでもないことを……!」


 やめろと言ったのに結局句を読む。これが陽歌である。

 そしてやはり、当然のようにロクでもないこと。これも陽歌である。

 そしてそれに呼応して妄想を働かせる。これが杠葉綾女である。


 ……何なんだこいつら。やっぱ有紗が一番まともじゃねぇか。


「……椎名の言う通り違うわよ。もっと重量感あったし」

「なーんだ、てっきり佑くんだからそうだと思ってたよ。予想外れちゃった、ざーんねん」


 なんて言いながら陽歌はペロッと舌を出した。


 バカにしやがって……。


「それじゃ最後に、ほら、渚沙!」


 陽歌が渚沙の肩を軽く叩いた。


「……えっと、その……私からもプレゼントがあります」

「なぎちゃんから?! え、ホント?!」


 有紗の目の色が変わった。

 期待に満ち溢れすぎた表情をしている。


「なんだ、まだ渡してなかったのか」

「渚沙はね、佑くんが来るまで渡すのを待ってたんだよ」

「違うし、タイミングを図ってただけだし。――有紗さん、これ、なぎからです」


 そう言って渚沙が有紗に差し出す物――、


「これって……」


 有紗の手のひらで光るそれは、金メダル。


 白色のリボンに繋がれた、折り紙で作られた手作り品。


 それを見つめる有紗が微かに目に涙を浮かべた。


「なぎが作りました。……ちょぉっとだけお兄ちゃんに手伝ってもらいましたけど」


 おい、ちょっとだけじゃなくて大分手伝わせてきたよな?

 ……まぁ良いか、渚沙が俺に手伝ってもらったなんて正直に言うこと自体が奇跡みたいなもんだし。


「――私も今日は頑張れたって、これを貰って心からそう思えたわ。本当にありがとう!」


 有紗が微笑む。


 今日という一日、辛いことが多すぎた有紗が笑っている。

 本来望んでいた結果は何一つとして出なかったかもしれない。

 でも、大事なのは気持ちだから。


 笑って今日を終われた事が何よりも大切だと、有紗の首にかけられた心の金メダルが証明してくれた。


 

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