第七十三話 私のしてきたことって……
すっかり暗くなってしまった町中を、トボトボと歩きながら、小さな溜息を漏らした。
……私は、苦しんでいる人を助けたいと思って、薬師になった。助ければ、患者の人は喜んでくれて、幸せな人生を再び歩めるとも。
でも、あの子は違った。死は彼にとっての望みで、私のしたことは迷惑極まりないことだった。
それなら……私のしてきたことって、間違いだったの? 知らないだけで、私は多くの人を不幸にさせてしまっていたの?
……そんなことを考えて、頭の中をグルグルさせていると、町に駐在している騎士団に声をかけられた。
「え、エリシア殿! 無事でよかった!」
「……どうかしたのですか?」
「どうもこうもありませんよ!あなたが出かけたっきり帰ってこないから、探してほしいとサイラス殿から依頼されたのですよ!」
ああ、そうか……私、誘拐されて屋敷に行ったんだった。みんなに、沢山心配をかけちゃったな……。
「心配かけて、ごめんなさい。私は大丈夫なので……一人でギルドに戻ります」
「え、エリシア殿……?」
「ごめんなさい、付き添いは遠慮していただけると……失礼します」
一方的にその場を離れ、ギルドに戻ると、まだ仕事中だというのに、残っていた人達が私を出迎えてくれた。
その中には、当然サイラス君やレージュ様もいて、私の無事を喜んでくれた。でも、今の私には……その言葉はほとんど聞こえなかった。
「本当に無事でよかった! 君になにかあったら、俺は……俺は……!」
「…………」
「エリシア様、一体何があったのですか?」
「……いえ、なにも……ごめんなさい、今日は疲れたので……先に帰らせてください」
勝手にいなくなった私のことを心配してくれているのに、その優しさを突き放すような言葉を言ってしまった私は、顔を俯かせながら、ギルドを後にした――
****
あれから三日後、私はほとんどをベッドの中で過ごしていた。
なんていうか、動く気力が全くでないし、食事も喉を通らない。その代わりに、ずっとあの子の悲痛な顔と、自分のしてきたことが頭でグルグルしていた。
こんなことじゃ駄目だ。そんなことはわかっている。わかっているけど……まるで、自分の全てを否定されたような気がして……気力が沸いてこない。
「エリシア……」
「…………」
私と同じベッドで眠っているサイラス君は、私の名を呼びながら、優しく抱きしめてくれている。
こうしていると、ほんの少しだけ気持ちが楽になる。それをサイラス君はわかっているみたいで、仕事から帰ってくると、いつもこうしてくれる。
こんな優しいサイラス君にさえ、何があったか話していない。巻き込みたくないというのもあったけど、話す気力が出ないの。
「ごめんね、サイラス君。私……本当に駄目よね」
「エリシアは全然駄目じゃない。そんなに自分を責める必要は無い」
「エリシア様、サイラス君、いらっしゃいますか?」
サイラス君に慰めてもらっていると、部屋の外から使用人の呼ぶ声が聞こえてきた。
「ああ。どうかしたのか?」
「お二人にお客様がお見えです」
「こんな時間にかい?」
「はい。別の日に再度伺ってもらうようにお願いしたのですが、大至急とのことでして……」
「ちなみに、名前は?」
「名前は仰っておりませんが……モーヴェズ家の使用人をしている、初老の男性でした」
ずっと黙って聞いていたけど、モーヴェズ家という名前を聞いて、思わず飛び起きてしまった。
その特徴で私の所に来る人なんて、一人しか思い当たらない。きっと今回の件で、何か話があるのだろう。
「え、エリシア! 急にどうしたんだ!?」
サイラス君の引き止める言葉に一切耳を傾けず、いつもお客様が来た時に使っている応接室に向かうと、やはりあの使用人の男性だった。
「エリシア様、突然の来訪をお許しくださいませ。エリシア様に、お伝えしなければならないことがありまして」
「は、はい。なんでしょう?」
「坊ちゃまが……亡くなりました」
……亡く、なった? どうして? 私の薬は確かにマーク君の体を蝕む毒を無力化した。だというのに……まさか!?
「また、自分で毒を……?」
「そうならないように、細心の注意を払っていたのですが……一瞬の隙を突いて、窓から自ら飛び降りたのです」
……自殺……やっぱり、私のしたことは……ううん、私のしていることなんて、無意味だったんだ。
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になって……意識を手放した。
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