第七十一話 ミラの恋愛戦略
あれから時が経ち、ギルドに来てくれる依頼人は更に増え、私達は多忙を極めていた。
聞いたところによると、マグナス様のギルドへ行く依頼人がかなり減り、こちらに流れている影響で、向こうは業績がかなり厳しくなっているそうだ。
だというのに、マグナス様は何の対策もしないどころか、頻繁に屋敷の中に引きこもっていると、最近うちに就職した、元マグナス様のギルドの人が言っていた。
一体何を考えているのか、私にはさっぱりわからないけど、マグナス様が落ちぶれていく様は、聞いていて痛快だ。
このままサイラス君やみんなと一緒に、世界一のギルドを目指して多くの人を助けながら、マグナス様を落ちぶれさせたいものね。
「サイラス君、頼まれていた書類を持ってきたわよ」
「ああ、ありがとう。どれどれ……うん、大丈夫そうだ」
今日もギルドで働く私は、サイラス君に頼まれていた書類を持って、ギルド長室へとやってきた。相変わらず机の上は書類の山になっていて、サイラス君の仕事の大変さがよくわかる。
ちなみに、私も室長としての仕事がとても多く、あまり悠長にお喋りしている暇が無い。そうなると、必然的に一緒にいられる時間も減ってしまう。
一緒に仕事をして、一緒に生活もしているのに、一緒にいられない。一緒に寝てもいるのに、互いに寝る時間がバラバラだし、疲れ切ってしまい、互いに帰ってきているのに気づかないことも多々ある。
仕事なのだから、仕方がないとはいえ、やっぱり寂しいものは寂しい。だから……こうして二人きりになると、いつもとあることをしている。
「エリシア」
「うん」
おいでと手招きをするサイラス君に近づくと、優しく抱きしめられ、そのまま唇を奪われる。
サイラス君は、少しでも私の寂しさを紛らわせようと、二人きりの時は積極的に私とコミュニケーションを取ってくれる。
本当は、仕事場でこんなことをしてはいけないのだけど、こうするのが嬉しくて、受け入れてしまっている。
「それじゃあ、私は戻るわね」
「…………」
「サイラス君、離してくれないと戻れないわ」
「えーっと……そうだ、今度のパーティーのことは忘れてないよな?」
「ええ。国王様のお誕生日パーティーよね」
私を抱きしめたまま頭を撫でるサイラス君の問いに、簡単に答える。
毎年、この国では国王様のお誕生日を祝して、盛大なパーティーが開かれる。そのパーティーには、この国の貴族達が沢山招かれるだけではなく、よその国の人達も訪れる。
「当日のパーティー用のドレスが完成したと、連絡が来ていたのを伝えるのを忘れててさ」
「そうだったのね。そうだ、今年はレージュ様も参加するのよね」
「ああ。あいつ、まだ少し先の話なのに、今からガチガチに緊張しているから、緊張で仕事にならないんじゃないか?」
「そうなると思って、一緒に来てくれる予定の使用人に、いつも以上にサポートするようにお願いしておいたわ」
「さすがエリシア、気が利くな!」
どうして貴族ではないレージュ様がパーティーに参加するのか――その理由は、ミラの付き添いだ。
パーティーには、二人まで同行者を連れて行ける。その二人は、使用人を連れていくのが大半だけど、使用人じゃないといけない決まりはない。そこに、レージュ様を指名したというわけだ。
レージュ様も、ミラの力になれるなら、喜んで参加すると言ってくれたのを、サイラス君が聞いたそうだ。
あと、ミラがまた変な男に引っ掛からないように守らなくちゃとも、小声で言っていたそうだ。
とはいっても、誰でも招待が出来るわけではない。使用人以外の人を招待するには、社会的に立場の高い人で、危険なことをする人でないと、パーティーの開催者が認めないといけない。レージュ様は、その条件をクリアしたということね。
……どうしてミラは、レージュ様を招待したのかって? 私も気になって聞いてみたら、レージュ様と一緒にいたかったのと、公の場で恋人と公言して、奥手なレージュ様にアピールするためだと言っていた。
我が妹ながら、随分と大胆な手に出たなと思ったけど、何度もアタックをしたのに、奥手なレージュ様が相手では、中々進展しないから、このような手段を使って、外堀から埋める手法に出たみたい。
まったく、どう考えても両想いなのだから、早くお付き合いをすればいいのに……って、サイラス君と両想いだというのに、関係が壊れるのを恐れて告白できなかった私が、偉そうに言える資格は無いわね。
「パーティーなんて、参加したくないんだけどな……そんなのに出るくらいなら、君と部屋でゆっくり過ごしたいよ」
「それは私も同意だけど、そういうわけにもいかないでしょ?」
いつも以上に貴族が集まるパーティーに参加なんて、私だって遠慮したいところだけど、今回は国王様のお誕生日パーティーということで、いつも以上に断るわけにはいかないものだ。
もしも、よほどの理由でもないのに、参加しなければ……考えたくもないわね。
「さてと、今度こそ私は戻るわね。あまりみんなを待たせるわけにはいかないもの」
「…………」
「サイラス君、同じ手は二度は通じないわよ。子供じゃないんだから、離して」
「わかったよ」
サイラス君は、離れることをを惜しむように、もう一度私にキスをしてから、ようやく私を開放してくれた。
すぐにサイラス君と離ればなれになるのは寂しいけど、これも仕事だから仕方がない。この短時間でサイラス君から貰った愛情で、今日の仕事とパーティーを乗り切りましょう。
「そうだ、レージュ様に渡さないといけない書類があったんだったわ。パパっといって届けてしまいましょう」
予定では、レージュ様の部下が取りに来る予定なのだけど、こっちから行っても問題は無いわよね。
「すみません、ちょっと支部の方に行ってきます」
「うっす、いってらっしゃいっす」
急にいなくなったら心配させてしまうから、製薬室にいた人に出かける旨を伝えてから、ギルドを出発する。
今日も町は明るくて、とても平和ね。私達のギルドの活動が、こういった活気に少しでも貢献出来ていると思うと、嬉しく思う。
「あの、すみません。エリシア・チュレンヌさんでしょうか?」
「え? はい、そうですけど……」
のんびりと町を歩きながら支部に向かう途中、知らない男性に話しかけられた。ここまで走ってきたのか、少しだけ息が乱れている。
「ああ、やっぱり! すみません、うちの子供が転んで怪我をしてしまって……お忙しいのは重々承知ですが、診てもらえないでしょうか?」
本当なら、ギルドを通さないで依頼をすることも、既に依頼している人よりも先に治療をすることも良くないけど、転んだくらいの怪我なら、すぐに治療できるし……うん、少しだけなら大丈夫よね。
「わかりました。どこですか?」
「こっちです!」
彼の案内の元、子供のいる場所へと向かう。そこは、人通りがかなり少なくて、あまり来たことがない場所だった。
「あそこです!」
「ぐすっ……うぇぇぇぇん……!」
少しボコボコした道の真ん中で、小さな女の子が泣いているのが見えた。
遠目から見た感じでは、大怪我をしているって感じではない。声もちゃんと出ているし、恐らく軽症ね。良かったわ。
「大丈夫? お姉ちゃんが、とてもよく効くお薬をあげるからね」
「うん……」
いつも常備している薬を使おうとしたが、すぐに異変に気が付いた。
その異変とは……女の子の体に、どこも傷がないことだ。骨にも異常は無いし、アザとかも無い。
どういうこと? この子は、怪我もしていないのに泣いていたの? それも、こんな人通りが少ない場所に……?
そう思った瞬間、私の口元に布のようなものが背後から押し付けられ……一瞬にして、意識は闇の中に叩き落とされた――
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