第七十話 暗躍
「これは、大きくて立派な墓標だね」
屋敷の端っこにある、色とりどりの花に囲まれている墓標が、静かに佇んでいる。あそこに、お母様やご先祖様が眠っている。
「結婚なんて大切なことは、亡くなった人にもちゃんと伝えないとね」
「ああ、そうだな。俺も……亡くなった父に、ちゃんと伝えるよ。でも、その前に、チュレンヌ家のご先祖様に、結婚の旨を伝えないと」
二人揃って墓標の前で両膝をつき、祈り始める。
結婚しようとしていることや、ギルドはとても順調であることや、最近ミラがフラれちゃったのだけど、すぐに素敵な方が出来たから大丈夫など。伝えたいことを伝えていたら、結構時間がかかっちゃったわ。
「もういいのかい?」
「ええ。サイラス君は?」
「挨拶はもちろんしたよ。それで、エリシアの良いところをこれだけ知ってるって伝えたいんだけど、時間が足りなくて、ほどほどで切り上げたよ」
「恥ずかしいから、そういうことをご先祖様やお母様にお伝えしないでよ! もうっ!」
どんな時でも相変わらずなのは、サイラス君の良いところではあるけれど、恥ずかしい時もあるから、少し自重してもらいたいところだわ。
「報告も終わったし、そろそろ帰りましょうか」
「えー、もうちょっとデートを楽しまないか?」
「そうしたいのは山々だけど、あまり遊びすぎると明日に響いてしまうわ」
それはそうだけど……と、サイラス君は呟きながら俯いた。
私だって、出来ることなら一日中サイラス君とデートをしたいけど、それで寝不足にでもなって、仕事に影響が出てしまったら大変だ。職業柄、失敗が取り返しのつかないことになりかねないしね。
「そうだ! なら屋敷でデートをすればいいじゃないか! 確か、お家デートとかいうんだったか?」
「それは、デートというのかしら? でも、良い案だわ」
「そうだろう! よし、そうと決まれば早く帰ろう! そして、抱き合いながら愛を語り合おうじゃないか!」
「そんな恥ずかしいこと、出来るわけないでしょ! もうっ!」
今日も、相変わらず私への愛情表現が過激なサイラス君に怒りながらも、それはそれでいいかも……なんと思ってしまった。
****
■マグナス視点■
「…………」
ギルド長室の大きな椅子に座りながら、私は多く溜息を漏らした。
最近のギルドの業績は、赤字続きだ。その原因は、客が離れたことに尽きる。
いまではサイラスのギルドに客を取られてしまい、こちらに客足が伸びてこない。
それだけにとどまらず、あっちの方が労働条件がいいからと、人員がサイラスのギルドに引き抜かれる事態まで発生している。
極めつけには、私情でギルドの金を使いすぎて、もうほとんどギルドには金が無い。私のポケットマネーで少しは持つだろうが、時間の問題だろう。
おかげで、前ギルド長だった父はカンカンで、業績を戻せないなら、家を勘当してギルド長の職から降ろすと言われた。
ふざけるな……私は何も悪くない! これは、全てエリシアのせいだ。あいつが私に勝たなければ、森で邪魔をしなければ、こんなことにはならなかった!
そもそも離婚を素直に受け入れたのが、全ての始まりだ! 絶対に許さない!
そして、私を笑い、私のギルドはゴミ同然の噂をばらまいた貴族共……奴らにも、復讐してやる!!
「そうだ、復讐だ! あいつら全員を、地獄に落としてやる!」
「そんなことをするよりも、ギルドの立て直しの方が大事じゃありませんか?」
「うるさい、私に指図するな!」
やんわりと止めに入った妻のヘレナを突き飛ばすと、私はとある場所へと向かう。それは、屋敷の人間しか知らない、隠し通路だった。
「ふ……ふふふ……私を馬鹿にしたことを、必ず後悔させてやる……」
隠し通路の先には、製薬室があった。あまり使われていないせいで、道具は埃をかぶってしまっているが、使うには困らない。
ここでなにをするのかって? 決まっている。復讐のためのとっておきを作るのだ!
「さあ、私の可愛い薬達……これから私の手で、殺人兵器として生まれ変わらせてあげるからな……ふっ……ぐふふふふふふ」
薬というものは、使い方次第で毒にも薬にもなる。薬学を学ぶ中で、私は毒になるものも一緒に学んだから、自らの手で人体に悪影響がある物も作れる。
とはいっても、私今作ろうと考えているものは、ただの薬ではない。厳密に言うと、自然界に存在しない菌の作成だ。こうすれば、傍から見れば未知の強い菌に侵されてしまったと勘違いし、私が犯行を侵したと気づかれないだろう。
頭の中に思い描かれているものができたら、奴らはどんな反応をするだろうか。考えるだけでも、興奮がおさまらないな!
「あーあー。あそこまで堕ちるのね。これ以上はこっちが危険だし、完全に搾り取ったら、さっさとおさらばした方が良いかもしれないわね。結構貢いでもらえたし……とはいっても、はいさよならなんてしたら、なにされるかわかったものじゃないし……何か良い方法は無いかしら?」
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