第六十八話 新たな恋の予感
■レージュ視点■
「ひゃあ!? え、えぇ!?」
「あ、いやこれは……違うのです! 友人がいつもやるようなことで、慰めようとしただけで……それに、抱擁にはストレスを和らげる効果もあると聞きますし! だ、だから下心とかあったわけでは! すみません、すぐに離れますから!」
ミラ様は、明らかに動揺している。これは完全に失敗なのか? やはり僕では、サイラスのようにうまくいかないのか?
そう自分を責めていると、ミラ様は頬を赤らめながら、クスクスと楽しそうに笑っていた。
「……ぷっ……レージュさんって、面白くて優しい人なんですね。その優しさに……もう少しだけ、甘えていてもいいですか?」
「ぼ、僕でよければ、よろこんで」
「ありがとうございます……」
とても魅力的な笑顔を見せてから、彼女は僕の胸に顔をうずめる。
……とりあえず、うまくいったことは喜ぶべきだろう。だが、ここから僕はどうすればいいんだ? 彼女のために、カカシのように固まっていればいいのか?
駄目だ、緊張で頭が回らない。こうなったら、恥を忍んで直接聞いた方が早い。
「失礼を承知でお伝えしますが……僕は女性とこういったことをした経験が皆無でして。ここからどうすればあなたの力になれるか、皆目見当がつきません。なので、あなたがしてほしいことを、僕にご教授願えないでしょうか?」
「はじめましてのあたしにここまでしてくれるだけで、十分なのに……それじゃあ、お喋りしてくれませんか?」
「そんなことでよろしいのですか? では……えっと……ご、ご趣味とか……」
「あはは、レージュ様ってばガチガチすぎですよ。もっと気楽にお喋りしましょう」
そんなことを言われても、こんな可愛らしい女性とくっついてるだけでも、頭が沸騰しそうなのに。
くそっ、今日ほどサイラスのコミュニケーション能力を羨ましく思ったことは無い……。
――それからしばらくの間、僕はミラ様を元気付けるために、他愛もない話をし続けた。これで今日の残業が確定しても、彼女の笑顔に比べれば、安いものだろう。
「ありがとうございます、レージュ様。たくさん泣いて、たくさん聞いてもらって、お話して、お薬までもらって。おかげでだいぶ元気になりました!」
ふんっと両手の拳を僕に見せつける姿は、何とも可愛らしい。見ていると、今までで感じたことがないような胸の高鳴りと、体の高揚を感じる。
「それで、その……今回のお礼と言ってはなんですけど、今度のお休みっていつですか……?」
「休み、ですか?」
「はいっ! 一緒に、その……お出かけしたいなって……レージュ様と一緒にいて、凄く安心できましたし、楽しかったので……!」
これは、もしかしてデートの誘いなのでは!? 出会ったばかりで、そこまで親密にはなっていないような……いや、だからこそデートで互いを知るということか!?
えと、えっと……落ち着け!こういう時は、変に奇をてらわないで、シンプルに答えよう!
「あ、ああ! あいてましゅよ!」
「…………」
「…………」
……僕は馬鹿か? 意味が分からない! どうしてこのタイミングで盛大に噛むんだ!? 自分が情けなさすぎて、穴があったら永住したい!
「あははははっ! レージュ様って、可愛いところもあるんですね!」
「それは、褒めていただいてるのでしょうか?」
「褒めてますよ! お話がしやすいですし、とても楽しいです!」
「そ、そうですか……それならよかったです」
恥ずかしい思いをしてしまったが、彼女が笑ってくれたのならそれでいいか。
「ああそうだ。これは僕の当面のスケジュールです。この中で、開いている日はありますか?」
「二週間後の日曜日なら空いてます!」
「で、ではその日にお出かけしましょう」
「はいっ! あの、今日はありがとうございました。おかげで、忘れられない一日になりました!」
「忘れられない?」
「はいっ。捨てられたことなんて忘れるくらい、素敵なあなたに出会えた記念日です!」
彼女の満面の笑みは、まるで太陽の光を浴びて輝くひまわりのように美しかった。
その眩しさは、彼女に恋をしてしまうのに、あまりにも十分すぎた。
「それじゃあ、あたしはそろそろギルドに戻りますね。お姉様が心配してると思いますので」
「そ、そうですか……送っていきますよ」
「いえいえ、これ以上お仕事の邪魔をするわけにはいきませんから! あ、そうだ。最後に一つだけ、お願いを聞いてもらえませんか?」
「僕に出来ることなら、なんなりと」
「さっき、サイラス様のことを、呼び捨てで呼んでましたよね? あたしのことも、呼び捨てで呼んでほしいです!」
似たようなやり取りを、エリシア様とお会いした時もした覚えがある。こういうところも、姉妹そっくりだ。
「大変光栄ではございますが、僕は平民です。あなたのような貴族のお方を呼び捨てにするようなことは、致しかねます。それよりも、あなたこそ楽な呼び方と話し方をしてください」
「なら、お互いにそうしましょ! 駄目、ですか……?」
ぐっ……そ、そんな潤んだ眼で上目遣いをしながらお願いされたら、断れない……!
「……み、ミラ」
「えへへ……はい、レージュ君!」
ミラ様改め、ミラは満面の笑顔で頷く。喜びが隠し切れないのか、体が少し揺れているのが、なんとも愛らしい。
「その、お姉様がサイラス様を呼んでる時の真似をしてみたんだけど……どうかな?」
「慣れていない呼ばれ方なので、少しムズムズしますね……」
「あっ! まだ敬語になってるよ! お姉様から聞いた話だと、サイラス様が相手の時は、もっと砕けた話し方なんだよね?」
「あいつは幼馴染ですから……いや、あなたが望むのだから、努力しよう」
「ありがとう、レージュ君!」
な、なんだこの全身のむずがゆさと胸の高鳴りは!? 恋人がほしいと思っていたのは事実だが、恋をしたのは初めてだから、どうすればいいかわからない!
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