第六十七話 彼女の力になりたい
■レージュ視点■
サイラスに用があってギルド長室に来たら、エリシア様に似ているが、知らない女性がちょこんと座っていた。
「ごほん、これは失礼。サイラス……ギルド長がどこに行ったかご存じでしょうか?」
「さっきギルドの人に呼ばれて、出ていきましたよ。お休みなのに申し訳ないけど来てほしいって」
休み……? しまった、今日はサイラスは休みだったのを、すっかり忘れていた。
僕としたことが、支部長になってから忙しくて、職員……それもギルド長のスケジュールが抜け落ちるなんて、何とも情けない。
……それはそれとして、彼女は一体誰なんだ? 許可証を首から下げているから、勝手に入ってきたわけではなさそうだ。
「えっと、レージュ様……ですよね?」
「はい。失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
「あたし、ミラ・チュレンヌといいます。このギルドで働いている、エリシアの妹です。あなたのことは、お姉様からよく聞いていたので、もしかしたらと思って……」
なるほど、エリシア様と似ていると思っていたが、妹だったのか。以前、本人から妹がいると聞いていたな。
「はじめまして、レージュと申します。エリシア様には、日頃からお世話になっております。ところで、どうしてあなたがここに?」
「えっと、色々ありまして……お姉様とサイラス様に、ギルドを見学させてもらってたんです」
「ふむ……」
これでも、僕は人を見る目には自信がある。気丈に振舞っているように見せようとしているが、明らかに元気がないのがよくわかる。
――おかしい、エリシア様から聞いていた彼女の話では、もっと元気一杯の少女のはずなのに、まるで真逆ではないか。
きっと、ここまで落ち込むほどのことがあったのだろう。他人である僕が詮索したら失礼だろうが、このまま見て見ぬふりをするのは忍びない。女性と一対一で話すのは苦手だが……何とか力になりたい。
「もしよろしければ、事情をお聞きしても? 話すとスッキリすることもありますよ」
「……面白い話ではないですけど、それでもいいですか?」
「はい。僕から聞いたことですから」
「……お姉様の言う通り、優しい人なんですね。それじゃあ、聞いてもらっていいですか?」
「はい。その前に、ハーブティーを用意いたしましょう。せっかく来てくださったお客様に、お飲み物の一つも出さないで話だけ聞こうだなんて、失礼にもほどがありますからね」
僕は、ギルド長室に置かれているティーセットを使い、最高の一杯を提供した。
「おいしい……このハーブティー、初めて飲みました」
「僕はお茶にはこだわりがありまして。このギルドに置いてある茶葉は、僕が配合した特別なお茶なのです。健康や美容にも良い成分が入っておりますよ」
今話したものの他にも、ストレスを軽減して気分を落ち着かせる効果もある。
だが、これを伝えてわざわざ彼女にストレスがあることを思い出させる必要は無いと思い、黙っておくことにした。
「それで、なにがあったのですか?」
「実は――」
ぽつりぽつりと、何があったかの話をし始めてくれた。
大雑把に言うと、元々深く愛し合っていた婚約者がいたけど、知らないところで浮気をされていた。その結果、彼女はショックで体調を崩しているとのことだ。
……この姉妹は、どうして結婚相手でこんなに苦労しているのだろうか? そういう運命なのか?
もしそうなら、なんとも意地悪な運命だ。彼女達は、何も悪いことはしていないというのに。
「なるほど、そんな男の風上にもおけないような輩がいるとは、言語道断。とてもおつらかったですね」
「レージュ様……」
「僕にできることなんて、大したことではありませんが……すぐによく効くお薬をご用意しましょう」
「い、いいんですか? あ、お金……」
「結構です。僕は日頃から、エリシア様にとてもお世話になっております。そのお返しの一端だと思ってください。ただ、ここだと道具も素材もないので、場所の移動だけお願いできますか?」
「は、はい」
僕はサイラス達に置き手紙を残してから、彼女を連れてギルドを出て、すぐ近くにある支部の建物に連れて来た。
そして、支部長室に招いてソファーに座らせると、薬を作る前の問診を始めた。
「具合の悪いところを、具体的に教えていただけますか?」
「寝付けないのと、お腹の上あたりが気持ち悪いのと、食欲が出ないのと、眩暈と……悲しくなって、泣きたくなります」
「なるほど。それは前からあった症状ですか?」
「いえ……」
となると、過度なストレスから来た一時的なものだろう。症状を抑える薬と、気分を落ち着かせる薬があれば問題無さそうだ。
「少々お待ちください。すぐにご準備いたします」
「わぁ……薬を作るのを間近で見るの、初めてです。さっき、お姉様が仕事しているを見てたんですけど、遠目だったんです」
「そうでしたか。少しでも楽しんでいただければ幸いです」
本来、製薬は娯楽にはならないが、少しでも彼女の気が紛れるのなら、いくらでもしてあげよう。
「グツグツいってる……火にかけているわけじゃないのに……」
「ここに魔法の粉を一つまみ。すると……」
「泡がボコボコしてきましたよ!? さっきはグツグツしてたのに!」
「素材同士の反応が起きて、今のようになるのです。泡の部分と、残った水の部分で、薬効が違うのですよ」
「泡も薬に!?」
「塗ると乾燥した肌に効果的でしてね。まあ、泡なので持ち運びが難しいですし、大量に必要なのがネックなので、あまり世間に普及はしていない代物なのです」
成り行きとはいえ、熱心に聞いてくれる人がいると、教えがいがある。
だが、僕が教え始めてしまうと、長くてつまらないものになってしまう。あまり凝った話はしないで、薬を作ろう。
「よし、これで完成です」
「至って普通の液体ですね」
「見た目はそうですけど、ちゃんとしたお薬ですよ。どうぞお飲みください」
「じゃあ、いただきます……!」
ミラ様は、瓶に入った薬を一気に飲み干す。この薬はとても苦いのだが、言う前に飲んでしまった。案の定、涙目になっている。
「良薬は口に苦しということです。大丈夫、きっと良くなりますよ」
「う、うぅ〜……我慢しますぅ〜……」
確か、サイラスは女性が泣いている時は、ハンカチで拭ってあげていたよな。うん、こんな感じだろう。
「ふう、なんとか飲み込めた……ありがとうございます。レージュさんって、凄く優しいんですね。私なんかのために、いろいろしてくれて……ありがとう……ぐすっ……ございます……」
は……? な、なぜ急に泣き出したんだ!? 僕、なにか気に触ることでも言ってしまったのか!? それとも、よほど薬が苦かったのか!?
こういう時はどうすれば……僕が読んだ恋愛指南書には、こんな時の対処法は……書いてなかった!
考えろ、考えるんだ僕! 目の前で女性が涙を流しているのに、放っておくだなんて、男の風上にもおけん! さっきみたいに涙を拭くか!? いや、それだけでは足りない!
なにか……そうだ、恋愛では大先輩のサイラスなら、こういう時にどうするか考えるんだ!
あいつなら……あいつなら……これしかない! 恥ずかしいとか言っていられない!
そう思った僕は、悲しそうに泣きじゃくるミラ様の肩に手を乗せ、そのまま優しく抱きしめた。
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