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悪役令嬢のメイドさん〜お嬢様が婚約破棄されたので、イチャラブスローライフに突入です〜  作者: りんご飴ツイン


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短編 新たな時代における婚約破棄騒動

 

 それはヘグリア国とバシリア国との交流を深めるために開かれた夜会でのことだった。


「メリー=ピースセンスっ! 私は貴様との婚約を破棄させていただく!!」


 前にどこぞの公爵令嬢関連で似たようなことがあったようなぁ? とヘグリア国が女王アリス=ピースセンスは何やら賑やかな王子様を眺めながら物思いにふけていた。


 メリー=ピースセンスとは年頃の女の子であり、アリスと『彼女たち』との娘である。アリスが、というよりは、周囲のお偉方の頑張りによって王女としての最低限の振る舞いは──つまりは公的に猫をかぶるくらいは──できるので、いきなりの婚約破棄宣言に対しても平気な顔で受け止めていた。


 ……アリスと『彼女たち』との娘なので、内心まで平気なわけではないにしても。


「どうしてそんな話になったのでしょうか?」


 対外的な、それはもうかぶりにかぶった猫で固められたメリーの問いに対して王子様──メリーの婚約者にして()()()()()()した結果急成長を遂げたバシリア国が第三王子は侮蔑に満ちたように表情を歪めて、


「どうしてだと? 白々しい! 貴様がラリシーナ=コンピュート男爵令嬢に嫌がらせをしていた件はとうの昔に判明しているのだっ。貴様のような悪女と王国を背負う私が共に歩めるはずがなかろうがっ!!」


 本当どこかで似たようなことあったようなぁ? とアリスはいっそのこと懐かしくすらあった。


 エルフであり『元』勇者でもある妻の一人から本当に人間なのかと疑問に思われるくらいには未だにロリと見間違えられるアリスは年頃の女の子の母親として口を出すべきか迷い──トン、と隣に並ぶように踏み込んできた男に気づく。


 仮にもヘグリア国が女王へと無遠慮に踏み込むことが許される者。すなわちバシリア国が国王であった。


 魔王や勇者といった『質』が国力を決する時代が『ベルゼクイーン=レプリカ』によって『量』が国力を決する時代へと変じた、その流れをうまく先取りし、大陸でも屈指の大国へとのぼりつめた立役者である。


 元はそこらに埋もれていた何の変哲もない国の一つだったくせに、ものの十数年で急成長を遂げた大国の王はどこか呆れたような顔で、


「いやはや、よもやこんなことになるとはなあ」


「あの話ぃ、どう見ているぅ?」


「ま、嫌がらせなんてないだろうな。我が国の国力でもっても把握できていない事象があるわけないし。あの様子だと嘘だとわかっていて付き合っている? いいや、違うな。我が息子が率先して嫌がらせがあったという嘘をばらまいたのだろうな。そちらの姫さんに過失を押しつけて婚約を破棄するために」


「……、随分と軽いことねぇ。そちらから持ちかけてきた婚約話をそちらの王子がぶち壊しているってのにぃ。この婚約をわっちなんかよりもずっと王族らしいメリーは何も言わずに受け入れたのよぉ。だってのにぃ、この仕打ちは──」


「しゃーなし、だろ」


 軽かった。

 どこまでも、吐き気がするほどに。


「あいつがそちらの姫さんとの婚約が嫌だってんなら仕方ないよな。嫌がる息子に無理させるわけにもいかないし」


「メリーはその『嫌なこと』を王族として受け入れたってのにぃ?」


「横暴か? だがそれが許されるだけの『力』がこちらにはある」


『ベルゼクイーン=レプリカ』。

 今の時代、『量』をかき集めることで国力を増し、ついには大陸でも屈指の大国へののぼりつめた王は笑っていた。


 笑って、突きつける。



「五十兆以上もの『ベルゼクイーン=レプリカ』があればヘグリア国などという時代遅れな端役など瞬く間に粉砕できるのだからなあ?」



 ギヂッ、と。

 果たしてそこでアリス=ピースセンスが拳を握りしめた意味を、バシリア国が国王は理解できていたか。


 メリーよりもずっと王族らしくなんてない、どこまでいってもクソッタレな彼女の本質を、だ。


「噂によると『ベルゼクイーン=レプリカ』はかつて大陸を席巻した魔族と同等かそれ以上の力があるらしい。それが五十兆以上! そう、五十兆もの魔族軍と等しいのだっ。魔王? 勇者? 単騎で武勇を誇る時代はとっくに終わっている!! 時代は『量』の極致、『量』を極めた者が時代を制するのだ!!」


 国王は笑う。

 笑って笑って、笑い続ける。

 どうしようもなく優越に満ちて。


「戦力としての価値はないとはいえ、『元』勇者の娘となれば我が息子の伴侶として及第点くらいは満たしていると思って婚約させてみたが、気に入らないというなら切り捨てるまで。ま、一時とはいえ我が息子と婚約していたのだ。良い夢を見られたと、感謝してほしいものだ」


「…………、」


 前提を確認しよう。

 バシリア国は大陸でも屈指の大国である。その根幹には五十兆以上もの『ベルゼクイーン=レプリカ』がある。


 ──おそらく、その国力は魔王にだって打ち破ることはできない。時代は進んだ。もう、単騎が武勇を誇ることはできない。


 もちろんこうして下に見られているヘグリア国の国力はバシリア国のそれに遠く及ばない。激突すれば、呆気なく粉砕される。


 従順こそ唯一生存可能な選択肢である。

 いかにアリスが可能性を増幅できるとしても、ヘグリア国がバシリア国に勝利するという百パーセント不可能な未来は選べないのだから。


 ここまでが前提。

 であれば、アリスはどうするのが正解か。



 ゴッパァァァンッッッ!!!! と。

 笑いに笑っていたバシリア国が国王の顔面にアリス=ピースセンスの拳が突き刺さる轟音が炸裂した。



 国王は、一歩も動かなかった。

 魔王や勇者に及ばないなれど、これまで幾多もの強者とやり合ってきたクソッタレの拳である。ろくに鍛えていなさそうな国王なんて吹っ飛ばされて然るべきだというのに、だ。


 国王は笑っていた。

 無傷のまま、笑って、君臨していた。


「これが国力だ。遠隔操作、どこにいようとも五十兆以上もの『ベルゼクイーン=レプリカ』を振るえるからこそ俺は王なのだ」


「だよねぇ」


「わかっていて、それでも仕掛けたと? 勝ち目が一切ないとわかっていて突っ込むとは、ヘグリア国の女王は愚か極まっているな」


「娘が不当に傷つけられているのをぉ、しゃーなしと流すようなクソ野郎をぶっ飛ばすのが愚かなことだってならぁ、わっちは最低最悪の愚か者(クソッタレ)でいいわよぉ!!」


 周囲が今更のように騒がしくなる。

 娘が、メリー=ピースセンスが何事か叫んでいたが、アリス=ピースセンスは無視した。


 王族として、ではなく、母親として。

 ()()()()()()()()()()、クソッタレを貫き通す。


「そうか。ならその愚かな選択の末路を味わうがいい!!」


 バシリア国が国王が腕を振り上げる。

 集うは純粋にして膨大な力、それこそヘグリア国程度なら地図から消すことだって可能なほどの。


 それを、たった一人の女を殺すためだけに持ち出すことができるくらいにはバシリア国は前の時代では考えられない領域に到達している。


 そう、相手が一国の女王であってもお構いなし。アリス程度の死ならいくらでも揉み消せると言わんばかりに。


 いいや、実際に揉み消せるのだろう。

 五十兆以上もの『ベルゼクイーン=レプリカ』。『魔の極致』第七席と同等の力を秘める道具を五十兆以上かき集めることで魔王が霞む暴虐に到達しているのだから。


 ゆえに、だ。

 その時、アリス=ピースセンスはクロスされた虫の羽根を模したネックレス──『ベルゼクイーン=レプリカ』を指で掴み、口元に寄せていた。


『ベルゼクイーン=レプリカ』に搭載された多様な機能、その一つ。通信機能を起動させる。


「助けてぇ、『宇宙人』」


 そして。

 そして。

 そして。



 ふっ……、と。

 今まさにアリス=ピースセンスを殺すために振り下ろされそうになっていた純粋にして膨大な力が霧散した。



「あ……?」


 面白いくらいきょとんとした国王はそれはもう隙だらけだった。それを、アリス=ピースセンスが見逃すわけがない。


 今度こそ。

 アリス=ピースセンスの拳が国王の顔面に突き刺さり、轟音と共に薙ぎ払う。


「が、べぶばぶう!?」


「ふぅ。すっきりぃ☆」


 良い笑顔だった。

 今の時代の最先端、『量』を極めた大国の王をぶん殴ってそんなに良い笑顔を浮かべられるからこそアリスはクソッタレなのだろう。


 今更のようにメリーが慌てて駆け寄ろうとするが、アリスはひらひらと手を振って、


「メリーの人生だしぃ、メリーの好きにさせてあげるべきだとは思っていたのよねぇ。クソッタレでしかないわっちが変に首を突っ込んだってろくなことにならないと思っていたしぃ」


「アリスお母様、何を……」


「だけどぉ、流石にこれは首を突っ込まずにはいられないのよねぇ。というわけでメリーが止めようともやらかすのは確定ってねぇ」


 だからぁ、と。

 ちゃんとした母親になんてなれないと自覚しているクソッタレは、せめてこれくらいはと言葉を紡ぐ。


「王族としてとかぁ、国家間のアレソレとかぁ、その辺の小難しい話はわっちがぶっ壊しておくからぁ──どうせならぁ、偉そうに自作自演ぶちかましてくれたそこの王子に言いたいことぉ、全部ぶちまけておくことねぇ」


「もうっ。アリスお母様は本当()()()()()()()()()()()!!」


 呆れたように、それでいて嬉しそうに口元を緩めて、メリー=ピースセンスは『自分の敵』と向かい合う。


 王族として、そして国家間の関係。

 横たわる障害の全ては母親がぶち壊すというのだ。ならば、もう、猫をかぶる必要はない。


「随分とお好き勝手に喚いてくれたですって!! お覚悟することですよっとお!!」


「待て、力が、なんで国力を引き寄せることができな、ぶっばぁっ!?」


 娘がバシリア国の王子をぶっ飛ばしているのを尻目に母親は歩を進める。


 盛大に鼻から血を流し、ひっひっ言いながら床に蠢く国王へと。


「ねぇ」


「ひっひぁっ!? なんで、こんな、国力はどこに、なんでこんな、格下のはずだろヘグリア国う!!」


「そんなに不思議なことぉ? 自分の身を守る最後の砦を他人のそれに依存しきった末路ってだけなのにぃ」


 一つ、『ベルゼクイーン=レプリカ』はオーバーテクノロジーである。そう、『宇宙人』がもたらしたものであり、いかに『量産化』できているとはいえそのほとんどは未知の領域にある。『宇宙人』に言われた通りに、『宇宙人』が用意した施設を使えば作れはするが、詳しい原理までは誰も把握していないのだ。


 一つ、『宇宙人』は変わり者である。『ベルゼクイーン=レプリカ』を独占していれば大陸の統一だって容易かっただろうに、それこそ昼食でも抜けば買える程度の安値でばら撒くほどには。だからといって目的がないわけではない。一見理解不能な暴挙にだって、変わり者の理屈がある。


 一つ、アリス=ピースセンスは『宇宙人』が到来した当初、彼女たちと敵対していた。となれば、敵に関する情報を集めるのは当然であり──彼女たちが散々口走っていた百合だエフェクトだといった単語から彼女たちの目的を割り出していた。



 一つ、『宇宙人』は女の子同士の恋愛を観察するのが目的である。時に女の子同士の恋愛の障害を取り除くことで力を貸す(彼女たちが言うところのエフェクト)ことに快楽を見出す変わり者なのだ。



 であれば、簡単だ。

 狙ったわけではないにしても女の子同士の恋愛真っ只中であるアリス=ピースセンスが助けてと一言告げれば『宇宙人』は力を貸してくれる。そうなるのだと、アリスのスキルが導き出した。


(スキル使って可能性を増幅した結果ぁ、助けてって言葉が必要なのは導き出されていたぁ。そうぅ、あの言葉が必要だったってのは理解しているけどぉ、だからってぇ、うぅ、助けてなんて初めて口走ったわよぉっ。こっ恥ずかしいわねぇ!!)


『宇宙人』が何をやったのか、正確なところまではわからない。が、大体は見当がつく。


 何せ『ベルゼクイーン=レプリカ』は『宇宙人』がばらまいたものであり、原理まで正確に把握しているのは『宇宙人』だけである。


 それこそ強制停止なり支配権強奪なりができるようバックドアを仕込んでおくくらいはやっていてもおかしくない。


 だから、アリス=ピースセンスは『ベルゼクイーン=レプリカ』なんてものが時代の中心に組み込まれることを嫌っていた。とはいえ、今回はそれが彼女の味方をしたのだから皮肉なものである。


 ──それらを、アリスはわざわざ説明しない。今から粉砕される肉塊に詳しく語ってやる義理はどこにもない。


 ゆえにアリス=ピースセンスは拳を握りしめて、クソッタレらしくこう吐き捨てた。


「きゃは☆ 今からフルボッコにするけどぉ、まぁそっちが好き勝手やってくれたからだしぃ、しゃーなしだよねぇ」



 そうしてバシリア国が国王がフルボッコにされたという報告を受けて、ヘグリア国の上層部はそれはもう騒然としていたが──アリスの妻である『彼女たち』からアリスだから仕方ないと言われればそれ以上何も言えなかった。


 そう、対外的な場所にアリスを放り込めば全部が全部ぶち壊されるに決まっている。何せクソッタレなのだから。


 ……それはそれとして、クソ野郎に自国の姫様が娶られずに済んだと上層部が喜んでいたのは秘密だった。アリスが知れば絶対に調子に乗るに決まっているのだから。



 ーーー☆ーーー



「もう、アリスお母様ったら」


 ぼやきながらも、メリーの口元は緩んでいた。無茶苦茶なクソッタレ、どうしようもなく女王らしくなんてないアリスではあるが、そんな彼女のことをメリーは尊敬していた。


 それでいて自分にはあそこまで無茶苦茶で、それでも結果的に最善以上の結末を導くことはできないからとせめて王族らしく勤めを果たそうと考えていたが──


「お遠いですよっと」


 と。

 王城の片隅、中庭の目立たないベンチに腰掛けて小さく吐き捨てたメリーの背後から飛びつく影が一つ。


「にゃっは☆」


「わっひゃっ。ちょっと、いきなり何するですって、ミアラっ」


「んー? メリーがいたから抱きついただけだよねー」


「まったく。なんでいつもメリーにだけお抱きついてくるんですよっと」


「メリーだからねー」


「お説明になってないですって……」


 そう言いながらも悪い気はしないのか、なすがままのメリー。


 と、ミアラはぎゅうぎゅう抱きつきながら、


「メリー、どこぞの王子との婚約が破棄になったんだよね」


「ですよっと。せめてアリスお母様にお並びたくて王族らしく頑張ってみたけど、全然ダメでしたってね。まあ、そもそも王族らしくなんて言っている時点でお無茶苦茶なアリスお母様の足元にも及ばないのですけどねっと」


 だからといってどうすれば良いのか。

 メリーにはアリスのように無茶苦茶に場を引っかき回しておいて、最後には結果を残すような荒技はできない。だからこその、型に嵌った行為の連続によって最善の結果を導こうとしていたのだ。


 とはいえ、それも最後まで保たなかったが。


「でも、まあ、良かったよねえ」


「何がですって?」


「もちろんメリーがあんなのと結婚しなくて。ううん、ちょっと違うよね。メリーが離れなくて、良かったと思っているんだよね」


 ぎゅう、と。

 強く、離さないと言いたげに抱きしめてくるミアラの体温を感じながら、メリーは一つ息を吐く。


 母親には未だ遠く及ばない。

 だけど、だ。


「そうですねっと」


 今は、こうしてミアラと一緒にいたいと、それこそが自分の望みだったのだと、今更ながらに気付くことができた。



 ーーー☆ーーー



 世界のどこかで。

『宇宙人』はガッツポーズをしていた。


「流石はアリスの娘っ! ごちそうさまです!!」

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