暗黒流に愛機諸共飲み込まれてしまいました
私は史上初めて最終兵器を機動歩兵から撃ちだした者になった。
これで皇帝が死んでいれば銀河帝国皇帝を倒した者として銀河史に名を残したことになったのかも?
そう後で言ったらアーロンに、
「姫様は今でも『厄災姫』として銀河史に名を残していますよ」
と平然と言われてしまった。
「はあ、何を言っているのよ。そんな訳ないでしょう!」
「第25衛星カロンを破壊して、ボランチの第25宇宙ステーションを惑星に墜落させて、ウェブ星系第25番恒星である赤色巨星ガニメデを超新星爆発させた姫様が何をおっしゃっているんですか?」
「全て銀河中にニュースになりましたし、ガニメデの超新星爆発は歴史的にも凄いでしょう」
「さすが厄災姫と歴史の教科書に載るのも確実ですよ」
そう説明してくれたアーロンの頭を叩いたのは言うまでもない。
最終兵器の威力の強力さに圧倒されていたら、急遽25番暗黒流の流れが強くなってきた。
これは本当にやばいかも!
私は全機に帰艦するように命令して自分も帰艦しようとした。
しかし、その後、操縦桿を引いてもビーナスがびくとも動かないことに気付いた。
というか、機内も最終兵器を発射する前に非常用電源に切り替えて暗くなったままだ。
コンソールをいくつか叩いても、バーニアを噴かそうにもビーナスはびくとも動かなかった。
コクピットの中の電源は非常用電源のままだ。通常電源に切り替わらない。
思い返すといつものような心地よいエンジン音がしていなかった。
巨大な最終兵器を持ったビーナスは暗黒流の流れにゆっくりと流され始めた。
まだ暗黒流の濃度も薄いし、流れも弱いからなんとかなっているけれど、このまま流れがきつくなると本当に巻き込まれる。
現在地は暗黒流の流れる場所より、少し太陽寄りの内側だが、暗黒流の流れなんて多少のずれは生じる。現に周りに暗黒流が流れているし……
「姫様。敵機動歩兵はほとんど撤退しました。帝国の艦隊も相当被害が出た模様です」
アウノが帝国の艦隊の状況を教えてくれたが私はそれどころではなかった。
必死に計器を色々と操作したけれど、エンジンが再起動しない。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ」
頭にきた私は思いっきりコンソールを叩いてみたが、びくともしなかった。
前はこれで一度エンジンが動いたのに!
「姫様、全機帰艦しました。どうされたのですか?」
私が戻ってこないので心配してアードルフが寄ってきた。
「エンジンが動かないのよ」
「それはまずいではありませんか?」
慌ててアードルフが私の最終兵器の前に機動歩兵の手を添えて私の機体ごと貨物船に戻そうとしてくれた。
しかし、やはりマーキュリーのエンジンでは出力が小さい。
中々動かなかった。
「アードルフ、ここは危険だからもう船に戻って」
「何を言うんですか? 姫様を置いていける訳はないでしょう」
私が慌てて指示するが、アードルフは一顧だにせず私を輸送船に戻そうと必死に最終兵器を押してくれた。
「あと少しです」
アードルフが言ってくれたときだ。
ドァーーーン
25番暗黒流の流れが速くなってきた。
「わっはっはっはっは」
その時大きな笑い声が無線から聞こえてきた。
この笑いはエレオノーラだ。
「エレノーラ、聖女の笑みでなくてよ」
「良いのです。お母様」
母の注意もエレオノーラは聞き流した。
「私はユバス王国二代目聖女のエレオノーラよ。我が王国に無断で侵攻してきた愚かな銀河帝国の皇帝エカチェリーナよ。見たか我が力を。その方は我が力によって活性化した暗黒流に巻き込まれてここで倒れるのだ」
エレオノーラは笑い声とともに叫んでくれた。
「これはエレオノーラのせいなの?」
今まで全然出来ていなかったあのエレオノーラが暗黒流を動かせるようになったというのだろうか?
帝国の第一艦隊には私が既に大きな被害を与えたはずだ。
何もこのタイミングでやらなくても良いものを!
私はもしエレオノーラが力を振るったのならば文句が言いたかった。
「アードルフ、すぐに戻りなさい。私はビーナスの中にいれば安全だから」
「そんなこと出来る訳ないでしょう。俺は姫様と一緒に死ねるのなら本望です」
「何を言っているのよ。アードルフ。私はまだ死なないわよ」
私がアードルフに文句を言ったが、更に暗黒流がきつくなってアードルフは話すどころでは無くなったみたいだ。
ゴーゴー暗黒流が唸りだした。
ビーナスで何度も暗黒流の中には入ったことはあるが、エンジンがかからない状態で入ったのは初めてだ。
25番暗黒流が更に強くなる。どうやら私も25の呪いに最後に取り込まれたようだ。
本当にやばくなってきた。
このままでは本当にまずい。
ギシギシビーナスの機体が唸りだした。
「あっ!」
そういえばエンジン動いていないから最終防御システムも動いていないんだ。
私は蒼白になっていた。
特にビーナスよりも強度の弱いマーキュリーはもう限界かもしれない!
私も暗黒流に振り回されて目が回りそうだった。
「姫様。俺は今まで姫様とご一緒出来て幸せでした」
「何言っているのよしっかりしなさい!」
私がそう叫んだときだ。
私達は暗黒流の流れて大きく振られた。
「ギャー!」
アードルフのマーキュリーが最終兵器から剥がされて遠くに飛んで行くのが見えた。
「アードルフ!」
私は大声を上げたところで気を失っていた。
暗黒流に巻き込まれたセラフィーナとアードルフ、
二人の運命や如何に?
続きは今夜です
お楽しみに








