銀河帝国皇帝視点 王女にしてやられましたが、それを逆手に逆襲することにしました
遠くに青く輝く星ユバスを目指して、第25戦隊を先頭にしてその後ろを第三戦隊第四戦隊と続いていく長大な艦列を私は見ていた。
いつ見ても私の艦隊は美しい。
更にこれから戦場に見えるとなると、私の血も騒いだ。
帝国の血は戦がお好みらしい。血まみれた歴史がそれを物語っている。たまたま皇帝位が巡って来た私はもそれは例外では無いらしい。
久々の戦場だ。
いつその位置に立っても心躍る瞬間だった。
私の命でまた何人もの騎士や戦士が死に行くのだろう。
施政者としてはそれを悲しむのが普通なのかもしれないが、私は帝国のため強いては私のために死ぬのは仕方が無いだろうと割り切っていた。
そう言う私を見て周りは冷血皇帝とか悪逆非道の皇帝とか言ってくれた。
まあ、帝国の血にまみれた帝位を継いでいるのだ。仕方がない面もあろう
それに今回は私から仕掛けた戦いではないと自分に言い訳してみる。
私は単に我が帝国に反抗して私に果たし状を送ってくるという暴挙に出た小娘に鉄槌を下すためにここに来たのだ。
そう今回は大義名分があるのだ。
私は長大な艦列で第一艦隊が進むのを見てほくそ笑んでいた。
「さて、この艦隊を相手に生意気な小娘とボニファーツはいかがするつもりかのう」
私は二人の悪あがきを楽しみにしていた。
どれほど抵抗しても無駄な事だと私は思っていた。そもそも銀河帝国皇帝に逆らうなどこんな小国ユバスが本来出来ることではないのだ。
周りに対しての帝国の威信もあるから今回は中途半端なことで終わらせるつもりはなかった。
「基本的に敵は4艦に対して我が方は戦闘艦が100隻、単純に25倍の戦力格差があります。普通に考えたら楽勝でしょう」
「しかし、陛下、ボニファーツの最終兵器はくせ物ですぞ。いかがなさるので」
グレゴリーの楽勝論にアンドレイが心配して聞いてきた。
確かにフッセン男爵に使ったあの最終兵器の威力は絶大だった。
でも、いくら最終兵器とはいえ、しょせん兵器だ。いくらでもやりようはあった。
「ふんっ、兵器はしょせん兵器だ。運用の仕方によってはいくらでも戦い様はあろう」
私はこの時までは余裕だった。
伊達に百戦百勝しているわけではない。
馬鹿と兵器は使いようなのだ。
今まではボニファーツの兵器を私が運用してきて勝ってきたのだ。
ユバスの小娘が私並の戦術眼があるとは到底思えなかった。
ボニファーツに戦術眼はない。奴は技術屋だ。
フッセン男爵の艦隊はボニファーツの最終兵器のことなど何も知らずに正攻法で攻め込んで一撃を食らっただけだ。敵が最終兵器を持っていると判っていればやりようはいくらでもあるのだ。
それに今回は最新の機動歩兵E25を25機、先頭の第25戦隊に配属していた。
駆逐艦並みのブラスターを搭載しておりユバス王国軍の機動歩兵と互角の戦いが出来るはずだった。
私は今回は負ける要素を思いつかなかった。
「陛下、大変でございます。ドワルスキーの補給部隊がユバスの奇襲部隊に攻撃されたそうです」
切羽詰まったオペレーターの報告で私は我に返った。
「奇襲部隊だと、どこから出てきたというのだ?」
今まで我が艦隊の前を通ったのは私が初めて進路を譲ったあの壊れかけのおんぼろ貨物船だけだった。
それ以外に近づく船など一隻もなかった。みんな我が艦隊を恐れて普通は近寄ってこないのだ。
あのおんぼろ貨物船がドワルスキーを攻撃したとは到底考えられなかった。
「その貨物船が実はユバスの奇襲部隊だったようです。二つの艦隊の通信を傍受しました」
「えっ」
私はオペレーターが何を言ったか理解出来なかった。あの船の制御でさえ満足に出来ない貨物船が奇襲部隊だとは到底思えなかった。
私の固まった思考の前に立体画像が浮かび上がる。
『な、貴様等、何奴だ。貨物船がなんでこんなに沢山の機動歩兵を搭載しているんだ?』
驚愕したドワルスキーに、
『ふん、民間船を攻撃した悪魔の指揮官、ド悪ちゃん。王女セラフィーナの名において成敗してあげるわ』
信じられないことにあの船にはユバスの小娘が乗っていたらしい。
貨物倉庫を開けて一斉に飛び立つ敵の機動歩兵が画面に映っていた。
私はまんまと填められたのを知った。
「かのおんぼろ船は約25機の機動歩兵を搭載していたようです」
「しかし、ドワルスキーには巡洋艦一隻と駆逐艦15隻を護衛につけていたはずだが」
「その護衛は補給船団と共に大半が殲滅、されたようです」
「何だと、補給部隊が全滅したというのか」
私は唖然とした。
「陛下、いかがいたしますか? 補給部隊が全滅したとなると長時間の作戦行動に支障を来しますが」
アードルフの言葉を私は聞いていなかった。
あの小娘、あのぼろ船に乗って、無敵の我が艦隊の進路を変更させて、なおかつ、そのまま後方部隊を殲滅してくれたのだ。許せなかった
「おのれ、小娘。良くも私をここまで虚仮にしたくれたな」
百戦百勝の私のプライドはズタズタだった。
「でも、待てよ」
私ははたと気付いたのだ。小娘は虎穴に入って虎児を得たが、まだ、虎穴の中にいるのだ。
今小娘の周りにいるのはあのぼろ船と機動歩兵が25機だけだ。
奴の頼みの最終兵器を積んでいる旗艦は遙か後方ユバスの衛星軌道にいる。
今この全戦力でユバスの小娘に襲いかかればいくら小娘の機動歩兵が優秀でも絶対に勝てるはずだ。
「よし、全艦そのまま反転してユバスの小娘の船に襲いかかる」
私は指示をした。
「しかし、陛下、ジュピターはよろしいので?」
アンドレイが慌てて聞いて来た。
「敵の主将はどう見てもあの小娘だろう。あの小娘の首さえ取れば我が軍の勝ちは決まる」
「しかし」
「敵は大将さえ倒せば、後は降伏するしかなかろう」
「確かに左様でございますな」
私の言葉にアンドレイは少し考えていたが、グレゴリーが同意してくれた。
「仕方ないですな。このまま負けっぱなしは良くないですし、やりますか」
最後に迷っていたアンドレイも頷いてくれた。
「ジュピターの抑えに第25戦隊を残し、全軍そのまま反転、一気に小娘の首を取るぞ!」
私が命じると、
「了解しました。直ちにその場から反転。第十戦隊を先頭に全軍ユバスの別働隊に攻撃に向かいます」
全艦がその位置から戦隊ごとに反転してくれた。
「よし、全軍急げ。今護衛艦もほとんどいない小娘を倒す絶好の機会だ」
「「「了解です」」」
私の言葉に艦橋にいた全員が頷いてくれた。
「自らの柵に溺れるとはこのことだな小娘。今すぐ貴様の生意気な首を取ってやるわ」
私はこれでこの戦いに勝てたとはっきり思った。
全艦逃げ出すどころかセラフィーナに襲いかかります
この事態はヨーナスの想定の範囲内なのか?
絶体絶命の危機なのか?
続きをお楽しみに








