決戦前に今にも沈みそうな最新鋭艦が今回の作戦の肝だと教えられてとても不安に感じました
「何なのよ、このおんぼろ艦は? 今にも壊れそうじゃない!」
私が思わず大声でそう叫んだときだ。
「酷い、姫様! 私達がヨーナスとボニファーツの無茶振りでこの10日間ほど不眠不休でこの貨物船『セラフィーナ丸』をここまで改造しましたのに! おんぼろ艦と言われるなんて!」
ドッグで作業していたポルヴィが出てきて文句を言ってきた。ポルヴィは田舎の町工房だったこのポルヴィ工業を一代でここまでの大企業にした社長だ。ボニファーツの技術があったとはいえそれを現実に造り上げる技術力を持っていた。凄腕の技術者なのだ。
今回はヨーナス達の無茶振りに社長自ら作業に当たっていたらしい。
一緒に作業していた多くの従業員も白い目で私を見てくれた。
「ほんに姫様は悪魔ですな。不眠不休で働いてくれているポルヴィ工業の社員の皆の前でおんぼろ艦と言われるとは」
一緒に作業していたボニファーツまでもが白い目で私を見てくれるんだけど……
「ちょっと待ってよ。私はヨーナスに最新鋭艦にご案内すると言われて連れてこられたのよ。それなのにいきなりこんな今にも潰れそうな艦を見せられたら驚くわよ」
「今にも潰れそうな艦……」
更にポルヴィがショックを受けた顔をしてくれたけれど、じゃあ、何て言えば良いのよ! どう見ても最新鋭艦には見えないし、どちらかというと宇宙の墓場サルガッソに浮かんでいる廃船にしか見えないんだけど……
「姫様、船は見かけではございませんぞ。この船は今銀河に就航しているいかなる最新鋭の船よりも制御装置も設備も最新なのです」
「えっ、見た目がこんなボロボロなのに?」
「ボロボロ……」
私の言葉にポルヴィが更にショックを受けているがもう私は無視することにした。
「そう、そのボロボロ感が大切なのです。見た目は今にも壊れそうなおんぼろ艦で中身は最新鋭艦の上を行く設備を持っているのです。この船のエンジンはジュピターよりも更に上を行く船『ジュピターⅡ』用にポルヴィが作ってくれていた最新のエンジンを搭載しておりますからな。短距離ワープまで出来る代物なのですぞ」
ジュピターⅡってなんだ? 私は聞いていないぞ! まだ、帝国から金を騙して造ろうとしていたのか? と思わず私は言いそうになったが、今はそれどころではない。
このぼろ船のことが先だ。私は思い直して、
「えっ、そうなの? こんなぼろなのに」
私はボニファーツの言葉に驚いた。ワープは短距離になればなるだけ制御が難しくてジュピターでも、確かやりにくいはずだった。こんなぼろ船が出来るなんて信じられない。
「こんなぼろって……」
もう涙目のポルヴィは完全に無視だ。
「そう、そのぼろさ加減が今回の味噌なのです。そうだよな、ヨーナス」
「えっ、そうなの、ヨーナス?」
私はボニファーツの言葉にヨーナスを振り返った。
「はい。姫様。今回、姫様のジュピターと陛下の巡洋艦と駆逐艦をユバスの衛星軌道上で待機させます。帝国軍は勇んでジュピター目指して向かって行くでしょう。姫様にはマーキュリー全25機と共にこのぼろ船に乗って頂いて、後方の補給部隊を目指して頂きます。敵もこんなぼろ船に最新鋭の機動歩兵が乗っているとは思わないでしょう。至近距離に近づいたところで姫様には機動歩兵を率いて補給部隊を急襲していただきます。碌な護衛をつけていない補給部隊など姫様の機動歩兵の前に抵抗らしい抵抗も出来ずに殲滅できるはずです」
ヨーナスは簡単に作戦の概要を説明してくれた。
「でも、補給部隊が殲滅してくれたところで皇帝が諦めてくれるの?」
皇帝は百戦錬磨だ。補給部隊がなくなったところでユバスを占拠すれば良いと攻め込んでくるだろう。
「そこでジュピターの最終兵器の出番なのです」
「そう、姫様、私はこの時のために最終兵器を開発したのです。百戦百勝の皇帝陛下が攻め込もうと勇んでやってくれば儂の最終兵器で皇帝陛下もろとも第一艦隊を吹っ飛ばしてやますわ。最大出力でぶっ放せば第一艦隊といえども大半を破壊できますからな」
嬉々としてボニファーツは言いだした。でも、その目は笑っていない。余程皇帝にそんなおもちゃ要らないと言われたことを根に持っているのかもしれない。
「でも、皇帝がジュピター目指して突っ込んでこなかったら」
「それこそこちらの願ったりの状況ではないですか? 何しろ敵は補給が出来ないのです。新たな補給船団を送り込むにしても時間がかかります。その前に暗黒流が強くなれば、皇帝も引き上げざるを得ません」
私の疑問にヨーナスが答えてくれた。
「でも、暗黒流は本当に強くなるの?」
「ありとあらゆる観測データがそれを物語っています。あと一週間も経てば完全に皇帝の逃げる道が塞がれます。その前に逃げ出すしかないでしょう」
ヨーナスが自信を持って答えてくれた。
「まあ、その前にエレオノーレ様が聖女の力に目覚めて頂ければもっと楽になるのですが、今の状況では中々厳しいようですな」
ボニファーツの言う通り、あれからエレオノーが先史文明の聖遺物を使いこなしたとは聞いていなかった。やはり髪の色だけでは先史文明の聖遺物は使えないらしい。そうかご先祖様の遺言の映像も誇張が入っているのかもしれない。
「まあ、聖女様のお力がなくても儂の最終兵器があればなんとかなりますわ」
そう言うとボニファーツは笑ってくれた。
「今まで苦節十数年、皇帝陛下の為に骨の髄まで働いてきましたのに、折角心血注いで作り出した最終兵器を『貴様のおもちゃなどに金を出せるかと』言ってくれましたからな。儂が寝る間も惜しんで造り上げた究極の最終兵器を。陛下、今こそ、その兵器の凄さを身をもって知って頂けたらと思いますわい」
なんかブツブツボニファーツが呟いている。やっぱり根に持っていたんだ……
「まあ、姫様、ありとあらゆる状況になったときのシミュレーションは更に行います。今回は絶対に勝てますから」
自信を持って話すヨーナスの後ろで
「おのれ、皇帝め、絶対に目に物見せてくれるわ」
とブツブツ呟いているボニファーツと
「ぼろって言った。こんなに苦労しているのに……」
見た目は廃船の前で愚痴っているポルヴィがいた。
本当に勝てるのだろうか?
私は少し不安だった。
ここまで読んで頂いて有り難うございました。
お待ちかね
次回から決戦です








