初代ユバス王国国王視点 謎の女に惑星ユバスに引き寄せられました
気付いた時、俺は宇宙空間を漂っていた。
静かだ。
何故か周りを取り囲んで猛威を振るっていた暗黒流が止んでいた。
俺は静かな宇宙空間を漂っていた。
何故か俺自身の宇宙服が光っているような気がしたんだが、気のせいだろう。
でも、何故生きているんだろう?
俺にはよく判らなかった。
暗黒雲に突入したときに宇宙服は着ていたからいきなり干からびることはなかった。
船が空中分解して宇宙空間に放り出されたときに非常用のフードが飛び出して頭は覆ってくれてはいた。
しかし、あの宇宙船ですら空中分解されるほどの暗黒流の凄まじい流れの中に放り出されたら、例え宇宙服を着ていたとしても、生身の人間なんて普通は瞬時に斬り裂かれて宇宙の藻屑になっていたはずなのに!
周りを見ても他の乗組員はどこにも見当たらなかった。
どうやら、助かったのは俺だけみたいだ。
よく無事に済んだものだ。
それにしてもどれだけ時間が経ったんだろう?
時計を見たら14時25分、確か最後に見たときが13時25分だったから1時間しか経っていないのか。
俺はほっとした。
たしか宇宙服の酸素は24時間も保たなかったはずだ。
俺は何気なくもう一度トレイを見て、その日付が12月25日になっているのを確認した。
えっ、12月25日?
確か暗黒雲に突入したのはクリスマスイブの12月24日だったはずだ。
12月25日の14時25分だって!
やばい!
もう24時間過ぎている。酸素が保たないはずだ。
ブーブー
いきなり警報が鳴り出した。
俺は急に息が苦しくなりだした。
そんな俺の目に青い星が見えた。
故郷のヤロスラブリだろうか?
死ぬ前に神様が故郷の星を見せてくれたのか?
いや、ヤロスラブリは砂漠の赤茶けた惑星だったはずだ。
こんな青い星ではない。
じゃあ、これがユバスか?
俺は感激したかったが、酸素が少なくなった今はそれどころではなかった。
それも俺はその惑星ユバスに急激に接近しているのだが、このままでは墜落するのではないか?
大地に激突して死ぬのも嫌だ。
バーニアを噴かせて制御しようとしたが、バーニアは船が空中分解したときのショックか何かで全く動かなかった。
「くっそう!」
俺は唸ったかがどうしようもなかった。
体の姿勢も整えようしたが怪我でもしたのか体も満足に動かない。
何か金縛りに遭っているような気分だ。
それも急速に糸か何かで絡め取られて惑星ユバスに強引に引っ張られているような気がした。
しかし、まあ、どのみち、このままでは酸素不足で死ぬしかない。
息も苦しくなってきたし、惑星ユバスに落ちなかったとしても酸素不足で死ぬしかないのだ。
惑星ユバスが見る間に大きくなってきた。
このままでは大気圏に突入して燃え尽きてしまうだろうか?
暗黒流で死ななかったけれど少しだけ長生きしただけだった。
青い惑星ユバスが目の前に迫ってきた。
まあ、最後にこのユバスの星を見れて良かったとしよう。
いや、待って、こんなので死ぬのはいやだ。なんとかして助かりたい。
「神よ。助けてください!」
俺は生まれて初めて神に祈った。
でも、息もどんどん苦しくなってきたし、頭がもうろうとしてきたまさにその時だ。
「トーマス!」
俺はいきなり女の声で話しかけられたような気がした。
「えっ?」
周りを見渡すが、目の前の巨大な惑星ユバスがあるだけで、周りには宇宙船も宇宙服も見当たらなかった。幻だろうか? 最後に幻覚が聞こえた。
なんか頭の中に桃色の髪の女が現れたような気がした。
死神なのか?
でも、こんな可愛い死神ならば命をやっても良いか!
俺が諦めかけたときだ。
「誰が死神のよ。馬鹿にしないでトーマス!」
今度は頭の中のその女がはっきり話してくれた。
「死神じゃないのか? じゃあ天使様か」
「天使って、まあ似たようなものかしら」
女はいたずらっぽく首をかしげた。
「まあ、誰でも良いが、俺はトーマスではないぞ」
俺が反論すると、
「えっ? そうなの? まあトーマスに比べて間抜けな顔をしていると思ったわ」
女が馬鹿にしてくれた。
「煩い。こんな顔は昔からだ」
「で、あなたは誰なの?」
女は俺の文句を流してくれた。まあ、どのみちもう死ぬのだ。どうでも良いかもしれない。
「俺はアレクシスだ」
「まあ、大変、間違えてしまったみたいだわ」
慌てる女の声がした。
「どうしましょう。トーマスを助けるつもりだったのに、アレクシスって言ったら帝国の罠にかかって借金漬けにされて探索船の操縦士にされた馬鹿じゃない!」
酷い言われようだったが、俺はもう息も絶え絶えだった。もう反論する気力もなかった。
トーマスと俺を間違えて助けたお前も馬鹿だろう!
思わず叫びそうになって止めたんだけど、この女は天使だからか頭の中はお見通しだったみたいだ。
「何ですって! 馬鹿に馬鹿って言われたくないわよ」
きーと地団駄踏んで女が怒りだした。
「このまま放っておこうかしら」
むっとした女の声に俺は慌てた。
「いや、ちょっと……でも、もう死ぬ」
俺は酸素不足で意識がもうろうとしてきた。
「ちょっと、馬鹿、どうしたのよ」
俺は慌てた女の声を聞いたがもう意識はもうろうとしていた。
気が遠くなったところでガクンと俺を引っ張る糸が加速したのが判った。
気絶する前に最後に見たのは目の前の迫った緑の大地だった……
ここまで読んで頂いて有り難うございます。
ピンク頭の女の正体は何?
次話をお楽しみに








