ワープで逃走しようとしたので、倉庫の中に飛び込んだら、サーリアⅢは私を乗せたままワープしてしまいました
巡洋艦ジュピターは四百メートル級の巡洋艦だ。
しかし、このクラスでは最大規模のエンジンを搭載していた。
いや、エンジンだけで言うと一千メートル級の戦艦よりもデカイエンジンを搭載していた。
出力、最大出力、大きさともにおそらく船では最大規模だ。
そのエンジンを全開にするとあっという間に大気圏外に出た。
「ボニファーツ、オスモがどこにいるかトレースできる?」
「今探しているところじゃが、船の数は多いからの」
気難しい顔をしてボニファーツのホログラムが首を振ってくれた。
「そう言えばアーダにペンダント渡しているのよ。それをトレースできないかな」
奴隷にされた少女には私のトレードマークの機動歩兵ビーナスをデフォルトしたペンダントを渡したのだ。確か位置を特定できる微弱な電波を出していたはずだ。
「それは領主邸にあるのは確認しましたが、おそらく取り上げられたんじゃないかと思います」
アンネが教えてくれた。
「えっ、取り上げられないと思って安物のペンダントに見えるようにしたのに!」
「姫様。ビーナスのペンダントはオークション等で高値で販売されているみたいです。取り上げられるに決まっているでしょう」
アンネは残念な者でも見るように私を見てくれた。そういう事は前もって言ってほしい。ならもっと地味な物渡したのに……
「まあ、姫様、姫様が使われた物は何でも高い値がつくそうですからな」
「それ聞いたことがあますよ。何でも呪いのグッズとしても有名だとか」
アーロンが言い出してくれた。恋敵とかライバルとか、蹴落としたい相手に渡すと効果絶大らしい。
何なのよ、それは!
私はその言葉に切れていた。
「オスモ絶対に許さないわ。丸焼きの刑にしてやるんだから」
「えっ、姫様、今度はフッセンの恒星を超新星爆発させるんですか?」
「凄い!」
「1億の民が死にますね」
アーロン達が好き勝ってな事を述べてくれた。
「そんなことする訳ないでしょう」
むっとして私が3人を睨み付けると皆首をすくめていた。
「姫様。サーリアから情報が入いりました。オスモはサーリアの所有する高速宇宙船サーリアⅢに乗ってフッセンに向かったそうです」
「有り難う、ヨーナス。ボニファーツ聞いた通りよ」
「サーリアⅢじゃな、ほんに人使い荒い姫様じゃの」
私の言葉にボニファーツは眉を上げてくれけれど、
「頼むわよ。ボニファーツ、あなただけが頼りなんだから」
「はいはい、サーリアⅢはここじゃの」
ボニファーツが苦笑いをして、操作して立体図を出してくれた。
その横にサーリアⅢの説明書きも出してくれた。
「おい、フツセン工業の開発した高速貨物船の25番艦ってあるぞ」
「「「えっ」」」
アーロンの余計な一言で全員の視線が説明書きに向かう。
「また、25かよ。可哀想に姫様に撃墜されるな」
「いや、怒り狂った姫様によって惑星フッセンに叩きつけられるのか確実だぞ」
「あなたたち、関係ないところは見ない」
ヘイモ達が好きに言ってくれるのを注意したら、
「これは大切だと思いますけど」
「そうですよ。ウエブ星系第25恒星のガニメデ、ボランチの第25宇宙ステーション、バロンの第25衛星、皆25ですから……痛い!」
私は余計な事を言い出したアーロンにインカムを投げつけていた。
「時間が無いんだからいい加減にしなさい。次は宇宙にそのまま放り出すわよ」
「「ヒェェェェ!」」
私の怒りに残りの面々は黙った。
「フッセンまで後80光年のところですね」
「高速船と言うだけに早いですな」
「ここから120光年ですね。一回のワープでいける距離です」
ヨーナス達が慌てて話題を本題に戻してくれた。ボニファーツ等が呆れた目で私を見てくれたが、無視だ。
「ようし、フッセンに着くまでに勝負をかけるわ。艦長ワープよ」
私が皆からの視線を誤魔化すためにことさら大きな声を出して艦長を見た。
「了解です」
「ワープアウトと同時にマーキュリーで囲んで停船させるわ。全機発進用意よ。後は艦長にせるわ」
私はそう言うと愛機のビーナスに向けて駆け出した。艦橋のアードルフ達も慌てて駆け出す。
「了解です。目標サーリアⅢ。ワープ準備に入ります」
艦長の言葉を背にブリッジを飛び出した。
「総員戦闘配置。繰り返す総員戦闘配置」
「全マーキュリー発進準備に入れ」
オペレーターの声が艦内に響く。
「ワープ1分前」
私は艦橋のすぐ傍にあるビーナス専用格納庫に入る。
「姫様、整備は完璧です」
私の専属のロボット『ボッチ』が報告してくれた。
マッドサイエンティストのボニファーツが作り出した万能ロボットだ。ボニファーツの気質を受け継いで気難しくて誰にも靡かなかったのを、10歳の私は何も知らなくて、生意気なことを言ってくれたボッチを張り倒した。それから何故かボッチは私の言う事を聞いてくれるようになったのだ。
天才と周りからもてはやされていたボニファーツが私のような小国の王女のところに来てくれたのも、私がボッチを従えたのが一番大きな理由だった。
日頃はボニファーツの助手をしているのだが、万能ロボットのボッチはビーナスの整備もしてくれていた。
「有り難う」
「どういたしまして」
私がお礼を言うと優雅にボッチがお辞儀をしてくれた。
動きだけ取ったら私より余程優雅だ。
私はタラップを登ってビーナスの胸にあるコクピットに飛び込んだ。
「ワープ、最終カウントダウンへ」
「座標最終調整しました」
「ワープ10秒前」
「全員対ショック用意」
「3、2、1 ワープ」
軽い衝撃とともにあっという間にジュピターはワープした。
外の様子がホワイトアウトする。
真っ白い亜空間をジュピターは突き進む。
外が真っ白なのでワープ中の眺めは今ひとつだ。
「全員、スタンバイ出来た?」
私がホログラムを見ると
「アードルフ小隊準備完了です」
アードルフの顔が映る。
「アーロン小隊も同じです」
「ヘイモ小隊もいつでもいけます」
「ヨアキム小隊、完了です」
「姫様全機発艦準備完了しました」
アンネが報告してくれる。
「姫様、サーリアⅢの艦内図送ります」
ヨーナズかどこから手に入れたのかサーリアⅢの詳細な艦内図を送ってくれた。
船は三百メートル級で中を見ると大きな倉庫があった。
最悪そこをぶち破って侵入すれば良いだろう。
「ヨーナス、有り難う」
「一応の全機の配置図も送ります」
ヨーナスが想定の包囲図を出してくれた。
タイムスケジュールもある程度記載されている。
私の位置は敵船の倉庫の入り口の真ん前だ。私の性格もよく判っているヨーナスに任せておけば問題なかった。
「有り難うヨーナス。ここまでよく調べてくれたわ」
「それが私の仕事ですからね。では、姫様ご武運を」
ヨーナスが敬礼してくれた。
「全員、見たわね。これでいくわよ」
「「「了解です」」」
「ワープアウトまで後1分です」
「カタパルト、スタンバイ」
「姫様、カタパルトに移動します」
私のビーナスがカタパルトに接続された。
「10秒前」
「全機発艦準備」
「3、2、1 ワープアウト」
白い画面から星が飛び出してあっという間に元の空間に戻った。
艦全体に軽い衝撃がくる。
「全機発進!」
射出口が開くのを見て、私はビーナスのバーニアをふかした。
射出機が動いて私の体にGがかかる。
あっという間に私は宇宙空間にいた。
前方に赤いサーリアⅢが見えた。
ビーナスからは2つの射出機で次々にマーキュリーが射出される。
前方では慌てたサーリアⅢがバーニアをふかして逃走を開始した。
「逃がさないわよ」
私はバーニアを全開した。
一気に私のビーナスがサーリアⅢに追いついた。
敵船から必死にビーム砲を撃ってくるが、ビーナスのバリアで弾くので全然問題はなかった。
「敵に降伏勧告して」
私がアンネに指示を出すと
「サーリアⅢに継ぐ。こちらはセラフィーナ王女専用巡洋艦ジュピターです。直ちに停戦しなさい。停戦しない場合は攻撃します。繰り返します。直ちに停戦しなさい。しない場合は攻撃します」
「何言っているんだ。ここは帝国内だぞ。既に領域侵犯している上に攻撃すれば帝国への敵対行為だぞ」
ホログラムで現れたオスモが平然と言い返してくれた。
私はブラスターを一射した。
ズキューーーーン!
赤いエネルギーの塊がサーリアⅢの船首をかすめた。
「煩いわね。さっさと停戦しなさい! 次はないわよ」
私がインカムに叫んでいた。
「さすが姫様、敵に容赦なしですね」
「普通は艦橋直撃させるはずなのに」
「少し大人になられましたな」
アーロン等が馬鹿なことを言ってくれたが、私にも少し油断があった。
エンジンくらいをぶち抜けば良かったのだ。
「姫様、敵はワープに入ろうとしていますぞ」
ボニファーツからの一言で私は我に返った。
「そうはさせないわ」
私はブラスターの出力を最小限に絞って倉庫の入り口を吹き飛ばした。
敵船が大きく揺らぐ。
そして、その中に私は愛機を飛び込ませたのだ。
「「「姫様!」」」
しかし、次の瞬間、サーリアⅢは私一機を載せたままワープしてくれたのだ。
ここまで読んで頂いて有り難うございます。
敵船に1人残ったセラフィーナの運命や如何に?
続きをお楽しみに!








