#93 足止め
吹き飛ばされたリンは意識を失ってしまっており、攻撃が直撃した右腕はありえない角度で曲がってしまっていた。
飛ばされて地面にぶつかった際に頭も打ってしまったようで、そこからは血が流れてしまっている。幸いそこまで酷いわけではなさそうだが、それでも放っておいたらどうなるかは分からない。
「はぁぁぁあああああ!!!!!」
リンをやられたことにより激情したレイアは、すぐさま自らの身を炎で包まんとする勢いで魔術を発動する。レイアも現在は得物であるレイピアを持っておらず、攻撃手段は魔術に絞られていた。おそらく素手での近接戦闘もできるのだろうが、魔術が使えるのならそちらを使って当然だ。
「集束炎弾ァァァ!!!!!」
レイアは先ほどヒユウとの戦いでも見せた破裂する火球をいくつも生成し、それを一気にガーディアンにへとぶつける。そして今回は間も置かずにそれらは起爆。黒刃の鉄仮面を包み込む高火力の爆発、そして炎の持つ超高熱が離れていても伝わってくる。
「オルフロスト‼︎そいつより先にリンを医務室へ頼む‼︎」
ネストはリンに一番近かったレイアにへとそう叫んだ。そして、レイアは暴走しているように見えて、案外冷静だった。
レイアはすでにその行動に移っており、リンを抱えこの場から去っていく。どうやら奴を炎で足止めしている間にこの場を離脱するつもりだったらしい。
「………リザリア!お前はロビーから自分の剣を取ってこい!そう時間はかからんだろう?」
今度は走りながら私に向かってそう言った。私は現状ネストと共に襲われている受験者の元にへと向かっているが、もちろん私もレイア同様試験のため剣は持っていなかった。確かに私は剣を持った方が強い自信が大いにあるが……………
「いいのか?見たところあのガーディアン共、試験中より遥かに強いみたいだったが………」
「私を誰だと思っている………行け‼︎」
こいつにも、ギルドマスターとしてのプライドがある。ここで心配するのは野暮というものか。
「了解だ。すぐ戻る」
「まぁ、例えお前が帰ってこんでも事足りるがな」
「その余計な一言も直せ‼︎」
なんにせよ、剣は欲しいところだった。何も握っていない手が寂しくなってきたところだったからな。私はひとまずここはネストに甘え、ギルド建物内、試験前に剣を預けた場所にまで向かう。
「受験者は無理に戦うな!全員、一旦黒刃の鉄仮面から距離をとれ‼︎」
ネストが受験者たちに向かって指示を出す。それを聞き入れた全員がその場からどんどん離れていく。ガーディアンたちはそれを追いかけようとするが、それを許すほどここのギルドマスターは甘くない。
ドゴゴゴゴゴゴ………!!!
「奴らは皆立派な冒険者となる可能性を秘めた卵だ……傷つけはさせん」
突如地面から迫り上がってくる石の壁。それに阻まれたガーディアンは、標的を受験者たちからネストへと変更する。
「槍岩領域」
ガーディアン四体に向かい、ネストが魔術を発動。次の刹那、奴らの足元から円錐状の岩の槍が飛び出してくる。それは試験でも見せ、シルカへと向けたそれと同じものだった。
ネストはあの時、決してシルカを殺すつもりなどはなかった。もしシルカが防げなくとも寸で止める予定だった。そして、戦いの中でそれをできるという確固たる自信を持つほどに、ネストの魔術の精密性は高い。
(今思えば、あいつは私が止めたとしても、負けを認めるくらいなら自分から刺さりに行っていただろうな………私のように)
誰だって、譲れないものの一つや二つ存在している。そしてたまたま、自分とあの少女のそれが類似していたのだ。
いくら考えても、考えるほどに不思議と思ってしまうような人間など、ネストは初めて出会った。
「本当、何者なのだろうな、あいつは………ッ!」
ネストはそう呟きながら少し笑う。だが、その顔もすぐにまた険しくなってしまう。
槍岩領域の範囲内に囚われた黒刃の鉄仮面たちをよく見てみれば、その体には全く穴は空いておらず、逆にネストの魔術で生み出された岩が崩れてしまっていた。
「少し手を抜きすぎたか」
だが、ネストは全く動じていない。むしろ、想定内と言えるものだった。
黒刃の鉄仮面は、状況に合わせて力の出力を調整することが可能であり、今回の冒険者試験では第十階級レベルに調整されていたが、このガーディアンの突然の暴走。それが引き上がっているということはなんとなくネストも分かっていた。
「ならば、硬度を上げよう………岩鋼糸縛」
その瞬間ーーーーーガーディアンの動きがぴたりと止まる。
いや、向こうは動こうとはしているのだ。ただ、体が動かせないだけ。
「糸の細さにまで圧縮した岩……その硬度を魔力により更に引き上げる……その貫通力は唯一無二となり、最新の人工筋肉すら貫く槍となる……………あとは好きにしろ………リザリア」
「あぁ!任せろ‼︎」
ネストの極細の岩により体を固定されたガーディアンに向かい、剣を持った途端今日一番の笑顔を見せびらかしている少女がそれらに向かい突っ込んでいった。




