#92 トップとは
「……私自身だと………?」
ネストがそのように聞き返して来る。少しくらい自覚してほしいものだがな………まぁ、己でそれができれば人間苦労しない。
「張り詰めすぎなんだ。そりゃあ、上で立つ者は下の人間の見本として進み続けなければならない。自身の力、能力、行動力などを示し、常に最前線を走り続けなければならん。だが人間、ずっと休まず走り続けることなんて無理に決まっている」
「………つまり、何が言いたい?」
「まぁ要するにだ、自分に余裕を作ってやれということだ。厳しくするのは良い。それによって下はより強く育っていくからな。が、それは理不尽を与えろということではない。現にお前は、余裕がなかったから先日、私だけでなくヒユウも同罪扱いして高難度の試験を与えた。しかも再試験禁止というプレッシャーまで与えてな。私は構わんが………あいつもそうとは限らん」
この際、言いたいことは全て言ってしまっておいた方がいいだろう。半分文句のようになっていることは否めんがな。
「……………」
その話を、ネストはこちらを真剣に見ながら無言で聞いている。ここでこいつなら、嫌味の一つや二つ言ってきそうな気もしたが、そんなことはなかった。こいつなりに、他の人間の考えも取り入れようとしているのだろう。その意欲があるのならば、良い傾向と言えるのではないのだろうか。
それにしても、自ら眼球を差し出してくるとは思わんかった。それほどまでのプライド、信念を持って今の地位にいるということだろうか。
こんな話をしている間も奴の左目があった場所から流れる血は止まっておらず、ドクドクと赤い血液が今も垂れ続けている。
「そこまでするのには何か理由があるのだろうが、それでも何もやっていない奴が巻き込まれるのは間違っている。物事に対し主観で決めつけるのではなく、一度冷静にそれを判断するのも、トップに必要とされる能力だ………そうだろう?」
「……………そうかも、しれんな………」
「なんだ、やけに素直じゃないか」
堅苦しい表情は変わってはいないが、それでもやり過ぎていたということには自分でも気付けたのだろうか。
「………貴様の意見も、少しは取り入れてみるとしよう。が、方針は変えない……まぁ、貴様らにやったような行為は……今後は慎むことにしよう」
「ぜひそうしてくれ。あと、そろそろその相手を貴様と呼ぶのもやめてみてはどうだ?あとフルネーム呼びもだ。レイアのことも毎回レイア・オルフロストと呼ぶのも面倒ではないのか?」
「………それにも問題があるとでも言うのか?」
「いや……お前………」
そういう所が固いと、私は言っているのだが………
そう言うとネストは「善処しよう」とだけ答えた。善処しなくともそれくらいできるだろうと言いたい所だが、今はまぁ善処してくれるだけいいだろう。と思うことにした。
「では、これにて本日の冒険者試験の全過程を終了し………む?」
ネストは残っていた受験者の方を見やるや否や、何やら怪訝な表情をしている。私もそっちをみてみれば、自然と奴と似たような顔になってしまった。
「ひっ……!ぎぎっ…ギルマス……血が……⁉︎」
「か、勝っちゃったよ……ギルドマスター相手に………‼︎」
「なんだよあいつ……なんか一生勝てる気しねぇわ………」
「おいそこぉ‼︎向上心を持てぇい‼︎」
「ヒイッ⁉︎こっち話しかけてきたぁ⁉︎」
受験者たちは完全にパニック状態。中には完全に萎縮しているものもおり、私に絶対勝てっこないとぬかす者もいた。挙げ句の果てに私がそいつに一喝入れてやろうとしたら逆に私に怯える始末だ………いや、あいつよく見たら、黒刃の鉄仮面相手に逃げ回って失格になってた奴だな………冒険者になりたくば来年の試験までにその性根を叩き直してこい。
実技試験は毎年変わる。あのガーディアンにも相当予算が使われていることだろう。今回は試験に用いられていたが、次回は一体どうなることやら……………
「って、あれ?ガーディアンはどこに行ったんだ?」
「む……?フィールドの端に待機させておいたのだが………」
なんとなくガーディアンがいる場所に視線を向けてみれば、待機していた五体のガーディアンが見当たらない。
「リン!ガーディアンは⁉︎」
「さっきまではそちらの方に……きゃあっ⁉︎」
「ッ⁉︎リン‼︎」
一体の黒刃の鉄仮面が、リンの背後に立っていた。そして彼女がネストの問いに答え切るよりも先に、奴はリンの側方を攻撃し、彼女の体を真横に吹っ飛ばした。
「おいネスト‼︎どうなっている⁉︎」
「分からん……とにかくまずは奴を格納……ッ⁉︎なぜだ……⁉︎なぜ魔法陣が作動せん⁉︎」
「何ぃっ……⁉︎」
ネストは試験が始まる時、あのガーディアンを魔法陣から呼び出した。おそらく物質を格納しておく魔法陣を作動させたものだとは思われるが、
「残りの四体は………⁉︎」
「う、うわあああああ⁉︎」
「あそこか‼︎」
先ほどまではいなかったと言うのに、いつの間にか他の四体のガーディアンが受験者たちに向かい襲いかかっていた。
「ガーディアンの暴走か………‼︎」
「急いで食い止めねばな……‼︎」
もう試験は終わった………が、ひとまず奴らをどうにかせねばなるまい。
私とネストは一直線にガーディアンへと向かい走っていく。その瞬間の行動は、先ほどまでバチバチやり合っていたとは思えんほどに息が合っていた。
ちなみに、血を垂らしているネストを見ているレイアは物凄く心配そうな顔をしていました。
「ぎ、ギルドマスター………ひとまず医務室に行ったほうがいいのでは………?(ガチ焦り)」




