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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
冒険者試験編

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#87 思い通りにはいかない

 中央へと辿り着いた私たちは、しばらく互いに無言で睨み合う。


 向こうもすでに臨戦態勢に入っている。今この瞬間に私が不意打ちしたとしても、奴は涼しい顔で対応してくるだろう。


(さて……実戦で使うのは初めてだが……うまく機能するか………)


 戦うために相対しているというのに、完全なる素手、剣がないというのはどうも落ち着かない。


 私は基本的に休息を取る時以外はずっと剣を背負っている。今も昔も変わらないあの鉄の重みが、私の心の拠り所であるのだ。


「………貴様に始めて会った時から疑問に思っていた………まるで私の祖父、ハンゼット・ローゼンツと親しいようなその言い振り……祖父の友人に貴様のような小娘などおらんはずだが?」


「だろうな……()()年もだいぶ離れた………」


「………お前は……一体何者だ?」


「ただのしがない、冒険者を目指してこの場にいる娘さ」


 今ここで全てを 奴に応えてやる義理などない。それに、言ってもどうせ信じやしないだろう。私がこいつの祖父の友人などという戯言のような話なぞ。


「………私は予感がしている。貴様が冒険者になれば、この組織……いや、それ以上の規模で様々な変化が起こると………」


「世界は時と共に変わるものだ。お前こそ、なぜそこまで不変にこだわる?」


「……………これ以上は時間の無駄だ。さっさと始めるぞ」


 私の質問に奴も応えるつもりはないようだ。まぁいい。勝ってからもう一度聞いてみるとしよう。






 

―――ギルド職員にヒユウを引き渡したレイア。ヒユウはそのままギルド内の医務室へと運ばれたが、彼女はその場に留まっていた。


 ここの魔術師は優秀だ。よほど命が危うい状態でない限りは、まるでそもそも元気であったかのようにまで回復させてしまう。


 魔術師もだが、なによりもギルド(ここ)の医務室。天井、床、壁などには、対象の自己回復能力を向上させ、回復を促進させる魔法陣が刻まれており、欠損部位さえ無ければほとんどの場合全快する。


 もし仮に腕や足が千切れたり切断されたとしても、された部位が残っていたのであれば本体にくっつけて修復も可能であるため、このギルドに所属している冒険者の多くは、その施設と職員たちの苦労によって現役で戦えているのだ。


 レイア自身もそこへは何度も世話になっている。だからヒユウの心配はいらないと、この場でシルカの戦いを見届けることにした。


 一見人でなしのように思えるが、結局付き添おうとしても向こうから集中ができないからと門前払いを食らうだけだということを彼女はよく知っていた。あそこの室長は、中々頑固なのである。


 そして、今彼女が心配していたのは、これから始まる試験の方だった。


 自分は確かに、ネストへシルカが魔術を使えないことを話した。それを考慮したうえで試験を進めてほしかったからだ。しかしその結果、逆にシルカの首を絞めることとなってしまった。


「……シルカ……すまない………」


 罪悪感で胸が締め付けられているような感覚に襲われる。もしこれでシルカが不合格となってしまえば、彼女はもう二度と冒険者になることは叶わない。


 レイアは、約一年前に攻略したノーマリエ調査のため、数年の間に決して少なくない回数送り込まれた。その度にあの村に滞在し、そこに住む少女と関わってきた。共に笑い、共に戦い、共に喜びを共有し合った。歳は少し離れているものの、それでもシルカはレイアにとって、かけがえのない友であったのだ。


 レイアは心のどこかで思ってしまっていた。シルカは魔術を使えない。魔術による攻撃をネストに食らわせるという条件はどうやっても満たせない。どうやってもシルカが合格することは出来ないと。


 シルカは魔法は使える。魔法を多少複雑化して魔術のように見せることは可能だろうが、相手はネスト・ローゼンツ。ヴェラリオでも指折りの魔術師だ。それもすぐに看破されてしまうだろう。


 状況は絶望的だ。それだというのに、シルカは怖いほどに落ち着いていた。表情は変わらず、目には一切の迷いもない。それは有り余る自信か、単なるやせ我慢か。レイアにはどちらにでも取ることができた。


 対するギルドマスターも………本気だ。


 ネストは、ただ血縁者だからと贔屓されてギルドマスターになったわけではない。それに見合った実力、リーダーシップを見せ、現在もその地位で日々責務を全うしている。


 もし仮に、ネストを冒険者とするならば、その実力は間違いなく第一階級クラス。そう。単純な実力だけで言えば、レイアよりも上の存在だということだ。




 レイアは分からなかった。金棒を失った鬼が、どこまで戦えるのかが。


 レイアは分からなかった。ギルド最強格の男と、レイアがこれまで出会ってきた中での最強格の少女がどのような戦いを繰り広げるのかが。


 レイアは分からなかった。この後の結果の先で、彼女にどんな言葉をかければいいのかが。




 しかしそんな彼女の葛藤も、数分後には終わってしまう。決着は、そう長引くものではない。

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