#81 始まりを告げる破裂音
「小手調べだ………!」
まず動きを見せたのはレイアの方だった。彼女の周囲にどんどんと出現する火圧縮弾。その数は数秒の内に百を超えた。
初めて見る高位の冒険者の戦いに、外野の受験が終わった者たちはざわめきを見せている。まぁ普段の生活でこのようなもの、見る機会などないだろうからな。
それに対しヒユウもすでに己の相棒である木刀を構えている。それは樹拳の指南者戦でも見せた剣の型。
「蛇昇流、堅守の型……!」
先日の巨人が生み出した火の玉は全部で十六であったが、今回はそれの何倍も数がある。が、そんなこと関係ないかのように火圧縮弾を引き付ける。例の紫の火の玉と違いこちらはその輪郭ははっきりとしている。どちらが捉えやすいかと聞かれれば、間違いなくこっちだろう。
ヒユウは剣の間合いに入った火球を次々とかき消していく。
十……三十……六十………次々と消えていく火球は消されるや否や火花を上げている。空中で消える数多のそれは重なり、まるで宙に火の花が咲いているかのようだ。
「………っよし!これで最後ぉっ!!」
「甘いな」
「!?」
ヒユウが最後の火圧縮弾を捉え、斬り捨てた。その最後の火球はヒユウの頭上から迫ってきており、自然とヒユウは視線を上に向けてしまっていた。そしてレイアの呟きで咄嗟に前を見ると、いつ作り出したのか分からない炎の矢が、ヒユウの目の前にまで迫ってきていた。
大量の火球。そして最後の一撃による視線誘導。これを端から狙っていたレイアはにやりと笑みを浮かべている。
「なんのっ……!!」
ヒユウは瞬時に左へのサイドステップでそれを躱す。顔面付近に飛んできたそれに直撃することは無かったが、完全に避けることは出来ず、ヒユウは右頬に軽い火傷を負うことになった。
「はぁあっ……ふぅぅぅぅ………」
「良い集中力だ。さぁ、次だ……集束炎弾!!」
今度は先ほどとは打って変わって、放たれた火球はたったの一個。火圧縮弾と比べると少し赤みが濃い気がする。速度は火圧縮弾より少し遅く、サイズは一回り大きい。
「たった一個なら………ッ!?」
その時、ヒユウから火球越しに見えたレイアの目。そして分からない程度にほんの少し上がっている口角。それにより、たかが火球一個程度と思っていた彼女の脳内に危険信号が響き渡る。
(レイアさんのあの感じ……何かある………!!)
「はぁぁっ!!」
「………ほう?」
そこから離れるようにヒユウが大きくバックステップ。火球から大きく距離を取った。
「うむ、賢明な判断だな……だが、そこから対応できるかな……?」
距離を取る前ヒユウがいた場所にその火球が到着したと思ったその瞬間だった―――
「くっ……!?」
突如それが爆発を起こす。そして一つだった火球は瞬く間に分裂し、なんと一瞬で先ほどの大量の火圧縮弾を上回るほどの数となった。
爆発地点を中心としてそれらは四方八方に広がっていき、数秒の後にパァンと音を立てながら破裂する。
「その球は空気振動などの微細な衝撃で破裂する……流石のヒユウでも、起爆させずに消し飛ばすなど無理だろう?」
「それは……確かに厳しいですっ………!!」
レイアの集束炎弾の爆発範囲ははどんどん広がっていく。一応受験者や私と隣のいけ好かん男に当たらないように配慮はされているようで、こちらに来た火球をどうにか対処せねばならない……といった状況にはならなかった。
「……でも、逃げてばかりじゃ強くなれない………!陽炎……!」
次の瞬間、ヒユウの体の輪郭が揺らめき、そのまま一瞬見失う。それはまるで、彼女と戦った時の樹拳の指南者のようだった。
いや、それも当然だろう。あれはヒユウの魔力……に似た何かで動いていたのだから。いうなれば対象の能力の模倣を行っていただけに過ぎないのだから、それを本人が出来るのは至極当然と言えるだろう。
そして、次にヒユウの姿を捉えることができた時には、彼女はまだ破裂していない火球、その範囲のど真ん中にいた。
どうして?私はそう思った。ヒユウは先ほど、避けるためにバックステップを行った。が、今その行う前の位置にまでわざわざ戻っている。普通に考えるのであれば、あのままレイアの集束炎弾が破裂しきった後に行動すればいいだろうに。
「はぁぁぁぁ……………蛇昇流……乱撃の型……!!」
全方位に存在している破裂寸前の火球。ヒユウはそれらに、なんと攻撃を加えた。
「んなっ……!?何を………!?」
これには魔術による攻撃を放ったレイアも困惑している。ヒユウは一度避けたのだ。当然もう一度間を置かずに突っ込んでくるとは思うまい。
「ハァァァアアアアアッ!!!!!」
斬って、斬って、剣圧で吹き飛ばす。
どうやら、見た目によらず相当な腕力を持っているらしいヒユウ。繰り出された剣の大ぶりに空気が押され、それが火球を吹き飛ばしてしまう。刃を持たない、空気を切り裂かない木刀だからこそ可能となる芸当だろう。やがて全ての火球を吹き飛ばしたヒユウは、再びレイアに向かって構える。
「さぁ……あと三分ほどでしょうか……!耐えきってみせます!!」
「……ヒユウ、張り切っているところ悪いが………まだ一分も経っていないぞ?」
「ウッソでしょう!?」
「普通に考えるのであれば、あのままレイアの集束炎弾が破裂しきった後に行動すればいいだろうに」
シルカはこう思っていましたが、もし彼女がヒユウと同じ状況に立たされた場合はもちろん目の前に突っ込んでいきます。




