#66 樹拳の暴走
残り一分で何とか決着をつけたいところではあるが、果たして間に合うだろうか―――
キュィィィ………ガゴッ!ゴッ!ガチガチガガガガ!!!!!
「なんだ……?」
次の刹那だった。樹木の巨人の身体を動かしているカラクリが、奴の内部でガチガチと音を鳴らし始める。
しかしそれは、決して内部から壊れ始めているわけではない。奴の中で、奴の構造自体が組み替えられているのだ。そして、どのような変化が起こっているのかというのは、見ただけですぐに分かった。
まず、手足が伸びている。更にパーツが拡張された分その分のリーチが伸び、少し人型というには異様な長さにまで至った。
先ほどまで青白かった体を奔るラインは色が黒に近づいていく。しかし完全黒になるまでには至らず、暗めの紺色と呼称するのが一番妥当な暗い青だ。
それでも、残りは一分。今更多少の形態変化如きで遅れを取るなど―――
「……!?グッ……!クソッ!!」
そんな樹拳の指南者に視線を集中させていた時、私の両足に何かがまとわりつく。
それは………木の根だった。おそらく奴の足から地面を伝い、私の元にまで届かせた。反応が遅れた私は無様にもその場に拘束され、下半身が一切動かせない状態になってしまった。
この根、普通の木ではない。ただのそれであるならば、パワーでは前世に遥かに劣るこの肉体でも抜け出すことは容易だ。
おそらく、この木事態に魔力が練り込まれているのだろう。それも構築式も中々に複雑なものが。拘束魔法の応用か………?
「ッ………!!」
その隙を狙い、樹拳の指南者は何度目かの拳を振り上げた。それは先ほどまでと比べるとあまりにも大振りで、本来そんなものにあたるはずもない。私が動けないことをいいことに、最大威力の攻撃を放つつもりだろう。
「受け止めるしか……ないっ!!」
「ゥゥゥオオオォァァア!!!!!」
「グゥゥゥゥゥ!!………ッ!!ぐおぉっ……!!」
私は頭の真上に振り下ろされた拳を、二本の剣を交差させてガード。凄まじく重い、そして強力な一撃だ。
それを受け止める私の体には血管が浮き出てくる。今にも引き千切れそうだ。脈は凄まじい速さで私の中で鳴り響き、支える筋肉は悲鳴を上げる。
「んにににに………くくくく………」
もはや喉を開くことも出来ず、私からは変な声が漏れ出る。いくら二振りとはいえ、この重量の拳を受け止めている木剣はミシミシと音を立て、今にも再び折れてしまいそうな気がしてならない。
「……………ぁぁぁあああああ!!!!!」
私は残った力を全て振り絞る勢いで叫び、酸素を取り込み、そして体を限界以上に突き動かす。戦王剣は攻めの極致。前に出ねば意味をなさない………!
木剣を拳に向け一気に押し出す。巨人の樹拳はほんの少し後ろへと引かれ、私にもわずかな余裕が生まれた。その一瞬の間に更に多く酸素を取り込む。血流を巡らせ、筋肉を叩き上げ、戦いが終わるまで何度でも突き動かす……!!
バキィィィ!!!
力のぶつかり合いの影響か、競り合いを行っている真下の地面が崩れる。それによって、私を拘束していた根の力も弱まる。
それを一気に叩き斬り、即座に体の自由を取り戻した私は、思いっきり後ろへとバックステップ。壁に着地する。
それに追従するように樹拳の指南者の右ストレートがこちらを襲う。私は更に跳ぶことでそれを回避。代わりに壁の辺り一帯に亀裂が走り、中央部分が砕ける。改めて、恐ろしいほどのパワーだ。その後も私を見失うことのない巨人は、こちらに向かい伸びた腕による連撃を繰り返す。距離はだいぶ開いているというのに、それでも以前私の体は奴の射程圏内。だというのならば、
「もっと近づく………一気に叩ききってやる!!!」
その次に樹拳の指南者が取った行動は、両手による広範囲の掌底。
「学習能力が高いようだが、腕に蓄積されたダメージまでは分からんかったかぁあ!?」
ここまでで、私は相当な剣撃によるダメージを与えている。すでに奴のそれらはボロボロなのだ。
そこから一気に私は加速する。最大限、ありったけの攻撃を奴にぶつけてやるのだ。
「はあああああああ!!!!!」
タイミングよく振り下ろした二振りの木剣は、奴の掌に直撃し、そして―――
「砕けろぉぉぉぉぉ!!!!!」
ピシッ、と。私の思い描いたような亀裂が。先ほどこの巨人が壁にそうしたように走った。それはどんどん広がっていき、やがて樹拳の指南者の腕全体に広がって―――――
バキバキバキィィィィィ!!!!!
木材がへし折れるような重い音と共に砕け散った………!!
「まだだぁぁあああ!!!」
両腕を砕き、着地した私は、流れるように突きの構えを取った。そこから奴の胸部にへと狙いを定めて、両腕を突き出しながら地を全力で蹴った。
「ハァァァァァアアアアア!!!!!」
樹拳の指南者の胸のど真ん中に突き立てられる二本の木剣。その片方は攻撃の途中で音を立ててへし折れてしまう。しかしそれでも、残った片方に全てを注ぎ込み―――刺さった。
「グゥゥゥオオオオオオ―――――」
巨人の体を迸る光はゆっくりとその輝きを弱め、抗うような叫びも先ほどまでの空気を揺らすほどの声量が嘘であるかのようにピタリと止んだ―――――
十分経過。シルカはこの瞬間、暴走状態にまで陥った樹拳の指南者を、何の変哲もない、ただの木剣で撃破したのだ―――――




