#60 巨人の間
戦錬の間を越え、その先にあったのは長い廊下。
基礎体力の間と戦錬の間を繋いでいた廊下もあったが、それはこれほどまでに長いものではなかった。ここまで長くする理由でもあるのだろうか?例えば、
もしもが起こったの被害を、最小限にするため………だとか。
長い長いそれを抜けると、先ほどまでの二つの間とは違い、円形に拓かれた円柱状の空間。だが、その広さは別格。戦錬の間の倍はあるであろう床面積。高さも、下手をすれば地上のギルドよりも高いのではないかと考えてしまうほどだった。
そして、そんな空間がそこまで大きく見えないのは、中央に存在しているものの圧倒的存在感故だろう。
「なっ……なんですか……これ………!?カラクリ!?なんでこんな場所に………!?」
確かに、東の国の奴らもこういったものを兵器として戦場にもってきていたような記憶もある。だがそれは、これほどまでの大きさではなかった。せいぜい人の倍程度の大きさだったはずだ。
だが目の前にあるこれは違う。高さも軽く七から八メートルくらいはあるだろう、木製のゴーレムと思わしきもの。それは魔力で作られているであろう鎖によって厳重に縛られており、ゴーレム自体もその動きを停止させている。
「これは、ヴェラリオで対魔物用に開発が進められている魔動兵器の試作品。プロトタイプ・ガーディアン、樹拳の指南者。そしてここは巨人の間。対大型の魔物を想定した訓練に用いられる空間だ」
「ガーディアン………ドン・アルマロの防衛巨人計画か………」
「アルマロ?誰なのそれ?」
「シルカ、よく知ってるな?ドン・アルマロはガーディアン開発の第一人者なんだ。で、これを作ったのもアルマロ博士だ。冒険者の訓練用にとな」
「相変わらず、いつ見てもエッグいほどイカレてるぜ……!こりゃあ魔物が可哀そうにおもえてくるなァ………」
ガーディアン、それは人工のゴーレム。魔力を動力源として稼働し、その巨体に見合うパワーで自身に魔力を送った者を主として守る人型の砦………と、アルマロが当時の理想を語っていたんだったか………
魔力を扱うことが出来る人間であれば誰でも使用が可能であり、その汎用性の高さは中々のものであったと記憶している。
だが、それでも当時私が知っていたゴーレムというのは、よくも悪くも東の国の奴らのカラクリの模造品。体長も二メートルほどしかなく、パワーも強化魔法をかけた人間の方が強いのではないかと思うほどのお粗末なものだった。
そして、それを開発したドン・アルマロという一人の男が、昔騎士団に防衛巨人計画と称し魔物対策として軍事利用することを考案したのだ。
確かに少し面白そうだとは思ったし、有用性があることが証明されれば導入も考えるとしたのだが………そういえば、魔物に対する効果が実証される前に私が死んでしまったのだったか。
ここにあるということはつまり、あの後正式に導入されることが決まったのだろう。奴もその後相当の苦労をしただろうが、ここまでの形に持ってくるとは、大した男だ。
「ん?アルマロってまだ生きているのか?」
「あぁ。かなりお年を召しているがな。私も会った事がある」
私が死ぬ直前、奴は確か四十代か五十代くらいだったろうか。それがまだ生きているとなると、やはり死亡から転生までにあまり間は無いのだろうか?
「というか……訓練とはいえ、これと戦うってことですよね……?」
「イェェェス………俺も一回だけやったことがあるが、相当にスリリングだったぜ………」
「そこに台座があるだろ?そこに自分の魔力を通せば、自分に合ったレベルにガーディアンのレベルが自動的に設定されて、鎖が解ける。そこから十分間、ガーディアンは台座に魔力を注いだ者を敵とみなし、攻撃してくるわけだ」
「あれっ……?ということは、私もしかして、これできない………!?」
「ん?どういうことだ?」
「ヒユウは東の国から来たそうだ。だから魔法を使えないんだと」
それを聞いて、レイアは少し目を開いた。余所者だからどうだとかはないだろうが、ちょっとだけ驚いたのだろう。ジェニスも驚いている様子だったが………サングラスをしているのでよく分からない。
「なるほど、それは少し困った………せっかくヒユウの武器を持ってきてもらってるのにな」
「あ!でも少し試してみたいことがあるんですけど……レイアさん、良いですか?」
「え?あぁ、構わないぞ?」
「ありがとうございます………ではっ!」
そう言うと、ヒユウは台座へと歩みより、その前で、右手の人差し指と中指を立て、そして合わせる。そのまま左手を台座にかざし、意識を集中させる―――――
「っ!?なんだ………あれ?」
「ドォォントゥノゥォォウ………」
それに私は驚かされる。魔法を使えないヒユウから湧き上がる、その力に。
それは確かに魔力ではない。だが、魔力によく似た、それでいて明らかに違うような奇妙な力。それは台座を伝い………ガーディアンにへと流れ込む。
「なっ……!?動き出した!?」
「オイオイ………ガーディアンって、魔力以外受け付けねぇんじゃねぇのか………姉御……?」
「分からない……だがこれだけは言える………ここから先起こることは、十分間続く………」
樹木の巨人は動き出す。一人の少女に狙いを定めて―――




