#59 戦錬の間
「………さて、ひとまず基礎体力の間はこんなもんか……じゃあ姉御!こっからはよろしく頼むぜ!」
一つ目の間の紹介が終わった途端、ジェニスはレイアにへとバトンを回そうとする。
なんでもこの男、筋力トレーニングばっかりでほとんど基礎体力の間以外には足を踏み入れないのだと言う。それすなわち、余計な筋肉も付けてしまっているのではないだろうかと思ってしまうが、鍛える目的は人それぞれだ。とやかくは言うまい。
呆れた声で了承したレイアは、ジェニスに代わって先頭を歩き始める。あとの三人も、特に何も言うことなくそれに追従する。
基礎体力の間を抜けた先。そこに広がっていたものは―――
「え……?何もありませんよ………?」
ヒユウの言う通り、第二の間は施設どころか物の一つも存在していない。が、
「線で区分けされているな………ということは、対人訓練専用の場所か?」
「ご名答。ここは戦錬の間。対人戦闘訓練に用いられる場所だ。あとは冒険者内でたまにやってる剣術大会とかにも使われていたりする」
そんなものまであるのか。鍛錬がてら、一度参加してみたいものだな。
確かに一エリアだけでもかなりの広さがある。複数の組み合わせがあったとしても一気に模擬戦が行える。剣術大会などにはもってこいだろう。
剣術大会か………昔若い頃、仲間内でよくやったものだ。大会と言っても賞金も賞品もないし、参加している人数も十人に満たなかったが、それでもとても楽しかったのはよく覚えている。
あれも、厳しい日々での良い息抜きになっていた。そう思い返せば、もっと馬鹿をやってもよかったのかな、とも感じてしまう。
「レイアの姉御は、その大会でもかなりの数優勝してるんだぜぇ!俺は毎回それをポージングしながら陰で見守っているのさァ!」
「それはただの変態なのでは?」
そう言いながら自慢の筋肉を見せつけるようにポージングしてくるので、思わずツッコんでしまった。
「筋肉は世界を変える……そう、つまり、筋肉に不可能はなぁい……たとえ姉御が窮地に陥ろうと、この俺のエクスタシィなエールによって、姉御の勝利への突破口は自然と開き」
「へぇーっ、木剣の貸し出しなんかもやってるんですね」
「流石に修練で本物を使うのは危険だからな。基本的にこの修練施設では木製の武器以外使用禁止だ」
「まぁそりゃあそうか」
「あっ……ちょっ………」
なんだか一周回って面白い奴に見えてきてしまった………この男も悪い奴では絶対にないのだろうが、いずれにせよ、まだ完全に警戒を解くつもりはない。なぜって?どう考えても変態だからだ。深い理由はない。
「ほう……木剣だけじゃなく、木製の槍にバトルアックス、トンファーにガントレットまで………」
貸出武器を色々と見ていたのだが、ポピュラーなものからマイナーな武器種まで様々だ。
なるほど、この場所で自分に合っている武器を見つけることも出来るというわけか。確かに、何も実戦で試す必要などどこにも無いからな。
「そういえば、ヒユウの得物って何なんだ?」
「ん?私は木刀だよ!」
「ボク……トウ………?」
質問して回答ももらったのだが、聞いたことない武器だ。曲刀と言ったのを私が聞き間違えただけか?
「………あ、そっか!この国には刀ってないもんね!」
「カタナ………あぁ……」
少し思い出したかもしれない。
カラクリを用いた戦術を仕掛けてくるあの国、あそこの騎士共が使っていたあの曲刀に近い武器。あれがおそらくそのカタナだ。
斬り合った時に感じたあのとてつもない刃の強度。一体どのような鉄を使えばあそこまでの耐久性と切れ味を実現できるのかが不思議だった。
そう考えれば、レイアの言っていた魔法の代わりに得た技術力という話とも綺麗に合致する。
ボクトウというのは、たぶん木製のカタナの事だ。だが、実際の戦闘で木製の武器などを使うのか………?
確かに木の耐久性も侮ってはいけないが、それでも鉄製の武器を持つ相手と対峙すれば厳しいだろう。なんせ、致命的な攻撃を与えることが出来ないのだから。良くて頭部を狙った撲殺というのもあるだろうが……猛者相手ではそれも厳しいだろう。体も鎧なんかでおおわれていたものならば、あまり効果は望めないだろうしな。
「ヒユウの武器なら、おそらくもうすぐ見られるぞ?」
「え?なんでだ?武器は皆預けているだろう?」
私たちの持っている武器は、荒くれ物の建物内での乱闘や暴走を防ぐため、全てギルドに入ったらすぐにある受付にへと預けている。なのでおそらく出るまでは帰ってこないと思うのだが。
「いや、さっきそこの受付でな、「オレンジ髪の子の武器が木製なのですが、奥でお使いになられますか?」と聞かれてな。後で持ってきてもらうことにした」
「奥で使う……?対人の修練はここでやるのだろう?」
「それに関しちゃア……先に進めば分かるさ………マジで度肝抜かすようなもんが待ってるぜ……!」
基礎体力の間、戦錬の間。ここまででも相当に整った素晴らしい修練場所だ。そこから更に、一体何があるというのだろうか?




