#56 目指すは憧れ
「………でも、それなら尚更なんで騎士ではなく冒険者なんだ?」
兎にも角にも、そこが私の疑問点だ。
しかしよく考えてみれば、通常騎士になるためには一体どうすればいいのだろうか?
私は生まれた時からすでに騎士見習いのようなものだったし、試験なども特になかった。街の者が騎士団に入団するのは何度も見てきたが、彼らがどのようにして騎士になったのかは正直よく分からない。そういった事を担当している奴はいたが、その間も私は鍛錬と戦いを繰り返していたからな………
そんなのでよく騎士長になれたなと言われるかもしれんが、実際私もそう思う。私よりももっと他に適任がいただろうに。私などは正直、特攻隊長とかの方が合っている気がする。
「うん、一応、私は外国の余所者だからね。騎士団に入るには、まず他の騎士の人や国の人からの信頼も必要でしょ?だから、この国で冒険者として頑張れば、いずれ騎士になる道も開けるのかなって!」
「そういうことか。信頼は確かに大事だな。あとはまぁ………死なない程度の実力と、正気を保っていられるほどの心があればそれでいい………」
はっきり言うが、私はあまりあの仕事を人には勧めたくない。騎士とは、平気で命を落とす職業だ。親しい仲間だって無情にも死んでいく。一人一人の命は羽のように軽く、時には戦場にて捨て駒のように扱われる。かっこいいと思うのは人それぞれだが、その裏では相当な苦労が待っている。
「じゃあまずは、勉強を頑張らないとな。覚えた知識が役に立つかは分からんが、思考の鍛錬は戦闘の際にも活かせる。頭の回転が速くて損することはない」
「そうだよね……!頑張らなくっちゃ!」
なんにせよ、この子の人生だ。ヒユウが心の底からそれを願うのならば、私にはそれを止める権利はない。
それに今は、共に同じ冒険者を目指すのだ。後先ばかり考えず、今にも集中せねばな。
「そういえば、実技の方は大丈夫なのか?ある程度の実力が必要になるが………」
「うん!こう見えても、私結構強いんだよ!」
「そうか。ならいい」
自分の強さに自信を持つことは良いことだ。それがただの傲慢であるのならば元も子もないが………
(いや……おそらくこいつは本当にかなりの実力を持っている………)
その者の強さは、その者の手に触れてみれば分かる。
先ほど私がヒユウと握手した時感じたのは、確かに積み重ねられてきた努力。幾度も得物を振り、修練を重ねてきたのだろう。私と同じく。
「ごめんシルカ~~、ここちょっと教えて~~~!」
「どれ……ふむ、魔法陣の基本的な構築方法は三種類に分けられ―――」
―――そして数時間後、
「凄い……!今までの三倍くらいしっかり覚えられたかも!シルカって教えるの上手だね!」
「そりゃどうも」
剣術以外の事を褒められるのも、たまには悪くない。天狗にだけはならぬよう気を付けねばならないが、それでも感じてしまう優越感は私の人として駄目な部分なのだろう。慢心は駄目だ……ろくなことにならないからな………
「復習も怠るなよ?人はすぐ物事を忘れてしまう生き物だからな」
「はーい!」
「………一応聞いておくが、ヒユウって何歳?」
「十六だよ?シルカは?」
「私も同じだ。何なら昨日十六になった」
まったく、これでは本当に先生と生徒……大人と子供ではないか………と、ついつい爺目線で考えてしまう。そろそろ矯正でもした方がいいだろうか?
そんなことを考えていると、二人しかいなかった図書室に、もう一人入室してきた。私のよく知る顔だ。
「おや、こんなところにいると思ったら、友達が出来たのか?」
「あ、レイア。打ち合わせは終わったのか?」
「綺麗な人……!シルカのお姉さん?」
「ふふっ、世辞でも嬉しいぞ。ありがとうな」
実際に綺麗なんだがな………というかその笑顔、もしや世辞ではないことを分かっているな?分かってて言っているなさては?
「違う。彼女は冒険者だ。名はレイア・オルフロスト。ランクは第二階級だ」
「だっ……!?第二階級………!?」
そう私が説明すると、ヒユウは相当たまげた様子で目を開く。確かにあまりにも身近にいるのであれだったが、普通に考えれば第二階級の冒険者などめったにお目にかかることはない。私もレイア以外のそれにはであったことがないし、そもそも数がそこまで多くないのだろう。
「ひっ……!ヒユウ・シュドラーテですっ!よろしくお願いしましゅっ!……うぅ………」
「盛大に噛んだな」
「ハハハ!面白い子じゃないか、よろしくな!」
まぁ何はともあれ、打ち解けられたようでよかった。
「で、レイア。内容はどんな感じだったんだ?」
「あぁ。今日は予定の確認程度だったよ。明日からはもう少し忙しくなりそうだがな」
「………なんだか、かっこいい大人の人って感じだね……!」
ヒユウがこちらに耳打ちでそんなことを言ってくる。昨日の酔っている彼女を見てしまった私からすれば、レイアのかっこいい大人のイメージは完全に崩れてしまっているので、ただ苦笑いを返すことしか出来なかった。




