#45 タダほど怖い物はない
「ふふふ……なるほど……くふふふ………」
「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないか………」
「ふふっ……いや、シルカもちゃんと抜けているところがあるのだなと、なんだか逆に安心したぞ」
「ぐぬぬぬ………」
レイアの奴、久しぶりに会って事情を説明してみれば、腹を抱えて笑い出すのだから困ったものだ………
ちなみに完全にため口で喋っているが、これはあのダンジョンの件が終わってからずっとだ。あの後以前のような喋り方で話すと、レイアが「なんかもう普通にため口で構わんぞ」と言ったので遠慮なくそうしている。
どうやら私は激情すると無意識に口調が前世のものになっているようで。まぁ、ああいった状況では気を付けるも何もないが、そんなこんなで皆元の口調に違和感を覚えてしまったらしい。どれ程特徴的なのだ私の喋り方は。
「というかレイア、その服は?」
「ん?意外か?今日はクエストも依頼も無いからな。というか、いつでも戦えるような服を着ているシルカの方がおかしいんだからな?」
「そうか?だがスカートは性に合わんしな………」
「ふぅん……………」
「な、なんだ………?」
レイアが私の服を見ながら何やら考えている様子だ。特段おかしな格好はしていないと思うが。
それとも、私が完全に女が着るような服を身に着けているからレイアも違和感を感じているのだろうか。
「………シルカ、ちなみに聞くが、これからどうするつもりだった?」
「……適当に歩いてギルドを探しつつどうやって寝るかを模索しようと………」
「……言っておくが、夜に路上やベンチで寝ていたら高確率で衛兵に叩き起こされるぞ」
「……………」
衛兵か。懐かしい響きだ。
衛兵隊は騎士団とは違い戦場に行くことはない。その代わりに街、国内の治安維持を任されている。悪人の捕縛及び犯罪行為の抑制、民のいざこざの解決、後は街の警備や入国審査なんかもやっていると聞いたことがある。
騎士団ほどではないだろうが中々に鍛えられており、一人一人がそこらの冒険者よりはよっぽど強いだろう。犯罪者の中には冒険者として腕を上げた者も少なからずいるだろうから、その実力は言うまでもない。
そして私がさっき述べた案を実行すれば、ほぼ間違いなくそいつらと関わることとなってしまう。別にやましいことをしているわけではないのだが、後がいろいろと面倒そうだ。
もし捕らえられそうになっても最悪逃げたり迎撃したりという手もあるが、そんなことをしてしまえばそもそも冒険者試験を受けられなくなる可能性もある。それだけは絶対に避けなければならない。
とどのつまり、泊まる場所は絶対に必要になるわけだ。
「どうしたものか……………」
「………よかったら、私の住んでる所に滞在するか?試験までの一週間くらいなら面倒を見てやるぞ?」
「……いいのか!?ぜひ頼む!」
「即答だがいいんだな……?色々手伝ってもらうことになるだろうが………」
「あぁ!なんでもやらせてもらおう!」
しかも一週間、試験まで住まわせてくれるとは……これは今後何か礼を考えておかないとな………!
「………あの……レイアさん?」
「なんだ?さんはいらないぞ?」
「いやぁ………これは流石に………」
行くぞと言われどこに連れて行かれるのだろうかと思いながらなんの疑問も抱かずレイアの後についていったのだが………彼女が足を止め、目を向けたその先にあったもの………
入って見れば、今まで見たことがないほどの大量の服がずらりと並んでいた。そういえば道沿いに出ている露店などはともかく、こういったちゃんとした店に入るのはこれが初めてだった。そして好奇心で中を色々見て回っていたのが運の尽き………
「せっかく長く滞在するんだ。普段着のようなものも持っておかんとな」
「だから……スカートは性に合わんと………」
「あぁ、心配する必要はないぞ。私が勝手に連れてきたんだ。支払いは任せてくれ。これでも結構もらってるんだぞ?」
「いや、ちょっと………」
私の話を全く聞かず、レイアはただ私を着せ替え人形の如く弄ぶ。
これまた随分可愛らしい服がこの世にあったものだ……世界は広いな………
というか、街の娘はいつもこのような服を着ているのか!?というかこれは服なのか!?スカートという物はこんなにも短くなるものなのか!?もはやただの腰布ではないか!!
「おぉ!中々可愛らしくなるじゃないか。剣の腕はまったく可愛くないがな!」
そう言いながらレイアは笑う。その手には更に大量の衣類が準備されており、おそらくそれら全てを着なければならないのだろう………
「まさか、こんなのを着て一週間過ごせと………!?」
「そうだが?」
「絶対嫌だぞ私は!!」
私はレイアに激しく抗議する。
いや、こんなのとは言っているが、別にそんなに際どい衣装を身に纏っているわけではない。十六あたりの娘ならごく一般的な服だ。少々明るい色合いで可愛らしくはあるが、決して痛々しいようなものでもない。
「シルカ、まさか……お前は約束を破るような人間ではないだろう?」
「や……約束………?」
「お前はさっき………なんでもやらせてもらおう……と、言ったんだぞ?」
「……………しまったぁぁぁあああああ!!!!!」
まんまと嵌められた!!いや、寝る場所を確保できて調子に乗った私が悪いのか!?
「それじゃあ、次はこっちの服を着てみてくれ!」
「あっ……あぁ……………」
そう私に告げるレイアは、今まで見たことのないような最上級の笑みを浮かべていたのだった……………




