#40 ダロンの決断
そうして始まったのは、骨竜の暴走。
おそらく初めてで煽る命の危機に瀕した骨竜は、生き延びるための最善を尽くすため、私たちに更なる牙を見せ、そしてそれを向けた。
「ッ……雷刃が上手く使えなくなってきた………」
「風刃も……ガス欠気味………」
「んなもん皆一緒だよ!最後まで足掻くぞ!!」
テリーが何とか皆の闘志を繋ぎとめてくれてはいるが、いつまでもつかも分からない。早いとこもう一発撃ちたいところだが………
「……!!魔力が中々溜まらん……!」
大技の模創太陽原初の火だが、やっていることは火圧縮弾と正直何ら変わりはない。言ってしまえば、ただその規模が違うだけの代物だ。
魔力を固め、属性を付与しなければならないところも全く一緒なのだが、その肝心の魔力が中々溜まらない………!
思えば、ここまでの戦いで私自身も想像以上にかなり消耗してしまっているのかもしれない。これは、帰ったら鍛え直す必要があるな……!!
「お嬢様ァ!!あとどれ程時間を稼げばよいのでしょうかあ!?」
「誰がだ誰が!!………悪いが、魔力の溜まりが悪い……!今からあと五分!!それまでに必ず溜めてやる!!!!」
「皆!ここが正念場だ!!ここまで来たんだ……何が何でも勝つぞ!!」
レイアの呼びかけに、全員が言葉にならないような叫びを上げる。
「おいコラシルカ!!これあと五分!?殺す気かよ!?」
テリーの言うとおりだ。骨竜の最後の抵抗なのだろうか、その動きは先ほどまでよりも遥かによくなっており、消耗状態のレイア達には少々手に負いづらいほどになってしまっていた。無理を言っているのは百も承知である。
もう少し具体的に言おう。
尻尾による薙ぎ払い、両翼での叩きつけ、スケルトンの増援の召喚、飛び掛かりから体を回転させもう一度勢いよく跳躍し、空中で縦に一回転したのちに尻尾を思いっきり地面に叩きつける……………
これは、先ほど十秒間の間に骨竜によって行われたことである。
五分間ということは、攻撃パターンが変わらないとしてもこれをあと少なくとも三十回耐えなければならないわけだ。テリーが殺す気かと言ったのは決して冗談などではない。
「くぅぅ………はぁぁぁぁぁ……………」
私に出来ることは、ただ集中力を高め、少しでも早く必要な分の魔力量に達するまで溜め続け、イメージを再構築することだけ。
「テリー!さっきとは違い今攻撃は通るんだ!!シルカがもう一度あれを放つまでの間、少しでも奴の戦力を削る!!!」
「グッ………ウォォォオオオオオ!!!!!」
「ふり絞れ!!全部!!そうしなければ、私たちはこのままあっけなく死ぬだけだ!!!!!」
それはこの場にいる全員の心を抉るようなレイアの魂の叫びだった。
勝てばそれでいい。だが負ければ死ぬ。それは日々戦う冒険者にとってはごく当たり前の事だった。だがなぜか今は、そんな言葉が深く刺さる。
死ぬのは自分だけではない。仲間も、ダンジョンの外の人間も、更に遠く離れた街にまで進んでしまうかもしれない。そうなれば、いずれここら一帯の地域は骸骨で埋め尽くされる。
そんなことはあってはならない。それを分かっている私含め六人は、全てをいい方向へ進めるために今ここで命を燃やす……!!
「シルカさん……申し訳…ないけど……もう君を最大限強化するのは難しいようだ………!」
そこで、ダロンは決断した。おそらく、次の魔術を使った瞬間に相棒である杖は砕け散るだろう。杖がなくとも魔術が使えなくなるわけではないが、それでもその効力はガクンと落ちてしまう。
更に、ダロンの体力はもう完全に尽きてしまっている。先ほどのようにシルカを最大強化しながらあの骨竜の動きを止めるといった芸当は、もうできそうではない。そう感じていた。
だがそれで構わない。それでこの戦いに勝てるのならば、奴を倒せるのならば!!
そう考えたダロンは、杖を天に掲げ、詠唱を始める。
天に勝利を祈るように、仲間に無事を祈るように、自分を縛っている枷を破壊するために。限界を超えるために。限界は、極限の状態でしか壊すことはできないから―――
「再起の狼煙!!!!!」
ダロンが放った魔術は、仲間のダメージ、体力、集中力など、ありとあらゆるものを回復させ、そして更に超強化を付与する、というもの。だが、
「持続時間は一分……!その後は例外なく全員に反動が来る……!!」
それは諸刃の剣であり、ダロンはそれを承知で私以外にへとそれをかけた。
だが、私に一切強化がかからなかったのかと言われれば、そうではない。
私もしっかり強化の恩恵を受けている。ただ、先ほど前に比べて、私にかけられた強化魔法は少しグレードが落ちたもの。だが、それでも、一秒でも早く魔力を溜められるのであればそれで十分だ……!
(まったく……最後まで粋な男よ………!)
「っしゃあ!!もうここまで来たらハイだ!!ギア上げるぜ!!」
「……エル…!」
「えぇ…ロヴィ!」
「「絶対勝つ………!」」
「シルカの詠唱が終わるのも残り一分ほどか……!ダロンはもう奴の動きを止めることはできないだろう……!この一分の間に、私たちで絶対に奴の機動力を奪う……!!」
骨竜に向かっていく四人を見ながら、ダロンは一足先にその場にて倒れる。
そして右手に持っていた彼の相棒である杖。長年共に彼と共に戦ってきたそれは―――――
甲高い音を立て、彼の手の中で砕け散った……………




