#39 極限の努力は強大な力すら飲み込む
「な………あ……」
レイアは目を丸くして絶句していた。
この世界における魔法というものは非常に簡単なものだ。魔力の塊を生成し、使いたい属性のイメージを注ぎ込む。それだけ。
魔力の塊、その量は使用者の力量次第で大きく変わり、もちろん強いものの方がその操る魔力量の調整もしやすい。
レイアは以前、とある第一階級の冒険者から、こんなことを聞いたことがあった。
魔法とは、魔力を固め、そこにイメージを送り込んで生成した属性付き魔力塊のこと。魔術はそこへ更に正確なイメージを注ぎ込み、自身の構築式、詠唱、呪文などを組み込むことで更にその力を高め昇華させたもの。
魔術は魔法の上位互換。基本的にそれは不変であり、覆されることはない。
「………だが、極限にまで極めた魔法、そう……世界の限界にまで到達しうるほどにまで魔力を凝縮し放つ魔法は、さながら神の御技の如き力を有している」
「神の御技?」
「あぁ、そうだ。魔術の才がない、だがそれでも諦めず己と戦い、そして抗い続けたものがごく稀に届きうる領域………それらは、模創原初魔法と呼ばれているよ。」
「……では、それらには魔術では勝てないのですか?」
「そんなことはないよ。それらはあくまでもこの世界の最強格レベルしか使えない。実際そんなものを使える者は百年に一人いるかどうかだろう。仮に模創原初魔法を行使できると謳うものがいたとしても、その領域にまで達していないものがほとんどだろうしね。そいつらには、強力な魔術で対抗すれば、なんの問題もなく対応できるはずだ。それを一回放つだけで相当な隙があるだろうし」
「あなたは、それを見たことがあるのですか?」
レイアの問いに、その冒険者は黙り込み、そのまま紅茶のカップを持ち、口に運ぶ。ストレートのダージリンの香りがレイアにもふわりと香りが伝わってくる。
そうして冒険者は再びカップをソーサーの上に戻すと、ゆっくりと口を開いた。
「………あるよ。とんでもなかった……戦場に神の雷が降り注いだのかと思ったよ。敵がもしあれを放ってきたら、僕にはどうすることも出来ない」
「……………それほどの……」
少なくとも、今レイアの目の前にいるこの人物は、数多くいる冒険者のトップクラスに位置している者。そんな彼が、はっきりとどうすることも出来ないと言ったのだ。当時第五階級に位置していたレイアからすれば想像しがたい話であった。
そして今、レイアは確信した。
シルカの放ったこの魔法は、それに匹敵しうるものであると。
圧縮した炎の塊。今までに感じたことのない熱。自分の 先ほど放った瞬間炙熱が可愛く見えてくるほど、無慈悲に全てを焼き尽くす………まさに太陽そのものに見えた。
レイア達が時間を稼いでくれたおかげで、何とか渾身の特大魔法を骨竜に叩き込むことが出来た。
今目の前には、相当な熱を放つ炎の玉が存在している。
この魔法を撃ったのは何年ぶりだろうか……少なくとも、十や二十……いや三十年では足りんほど前だ。
………あの時よりも、その威力は格段に落ちてしまっている。詠唱などは簡略化してはいないのだが、それでも今の力量ではこれが限界ということだろうか。
炎の中では、凄まじい音を立てる骨竜が激しく暴れている。抜け出そうにも抜け出せず、苦しんでいる様子だ。あのようななりであっても、苦痛は感じるのだな………
「……っす、すげぇ……流石の竜も、こんなの食らえば………!」
「………だと、いいがな……………」
「え?」
自信のない私の返答が意外だったのだろう。テリーは再度こちらに振り返る。
もちろん、私は骨竜を完全に消滅させるつもりで模創太陽原初の火を放った。
だがしかし、その威力は思い描いていたそれには及ばなかった。それは、今の私がまだまだ未熟だということを顕著に表しているのだろう。
「カロロロ……………カロロロロロロァァアアア!!!!!」
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
骨竜の荒ぶりと共に、模創太陽原初の火が弾け、そして消滅した。
結果として熱に耐えきれなかった竜は骨が焼け、ところどころボロボロとその身体を崩しながらもその足で立ち、私たちをしっかりとその目で見据えている。
「んなっ⁉あれでも倒れねぇのかよ………」
「怯むな!!骨は確実に脆くなってる……!今の間に攻撃を仕掛けてくれ!!………もう一発だ……!!もう一発叩き込んでやる………!!」
「無茶だシルカ!!あれは模創原初魔法なのだろう!?そう何度も打てるはずが………」
「………確かに、儂の模創太陽原初の火は模創原初魔法………だが、今のはそれに遠く及ばない模造品の真似事………本来の力を出し切れていないのであれば、まだ撃てる………頼む!!」
「………ダロン、まだいけるか………?」
私の頼みを聞いたレイアは、すでに人間と得物両方が満身創痍気味のダロンに声をかける。ダロンはすでに息をかなり荒げており、杖を支えにしなければ立っていられないような状態だった。
「えぇ……どこまでもいきましょうとも!!僕だってまだ戦えます!!」
「………ダロン、無茶はしないでね………」
「……あなたが倒れたら、この戦況は一気に崩れる………」
「分かってるさ……二人とも、ありがとう!!」
ダロンを心配するエルトとロヴィエ。
限界を迎えている体、壊れかけの相棒。だがそれでも皆の期待に応えなければならない。そして、目の前の竜に、みんなで勝ちたい。そんな衝動を体中で巡らせ、ダロンは再び竜を見据え構える。
そして、私も再び魔力のチャージを始めた。次だ。次で勝負を決める………!!




