#29 無口な二人
「………よし。皆、ここからは本格的に魔物たちの根城だ。油断すなわち死と思え!」
「「「了解!」」」
「「……………」」
(あの二人、ずっと黙っているな………)
迷路区間の最後の扉を抜け、私たちはとうとう本格的に魔物が現れるエリアにへと辿り着いた。
結局最初から最後までレイア達のおかげで迷ったり謎解きで苦戦したりすることもなく、私はただついていくだけになってしまった。なので、ここからはどんどん活躍せねばなるまい。
さて、それはさておき。
実は今私達ダンジョン調査メンバーは、私、レイア、テリー、そしてダロンの他にもあと二人いる。
黒いフードを深く被った二人。二人ともほぼ同じ身長、そして体格からしておそらく女の子だろうが、思えば村に来てからというものの、この二人の声を一度も聞いたことがないような気がする。
顔はフードを被っているのでよく見えないが、なんとなく二人とも真顔なのだろうと勝手に思っている。
(根が暗いのだろうか………?)
まぁ、あまり詮索するのもよくないか。冒険者にもいろいろいるのだろう。
そういえば、新たな職業として冒険者というものを作ったのは私だが、作った後どのように変わっていったかまでは結局私自身よく分かっていない。
当時は騎士団の仕事が立て込んでいたというのもあって、ギルドの者たちに運営は任せっきりだった。今考えれば我ながら酷い押しつけだ。相当苦労したことは容易に想像できてしまう。悪いことをした。
「おっと、早速一体目………ッ!?」
「………骨?」
このダンジョンでのファーストコンタクトは、四足歩行型の魔物。だが、目も皮も、更には肉すらもなく、骨の状態でその身体を動かしていた。骨の形的に犬の物であるとは思うが、犬にしては少し大きいだろうか?少なくとも体長一メートルはある。
「………流石にこいつらは食えんな」
「いや、肉があったとしても犬は食えねぇだろ………」
「昔本で読んだことがある。どこかの国の民族間では好んで食されるらしいぞ?」
「え?マジ?」
「そんなことを言っている場合ではないぞ!構えろ、来るぞ!!」
尤も、食えようが食えまいが流石に魔物などを食う趣味は無い。
そして突如として始まる今回初の戦闘。
犬型の骨は遠吠えのポーズを取るも、それが響き渡ることはなく、ただ骨が擦れる音が若干大きくなっただけだった。
それもそのはず。骨だけの生物に発声器官など備わっているはずもないのだから。
だが骨同士の共鳴なのだろうか、一体の犬型の骨は仲間を呼ぶことに成功。一匹だったそいつは七匹にまで増えた。
「よし!ここは私が………」
「いや、待て」
早速先陣を切り………と思ったのだが、レイアから私に待ったがかかる。
「………そろそろ活躍してもらわないとな。エルト、ロヴィエ!」
「………分かった」
「………了解」
レイアに指名され、とうとう二人はその口を開き、そしてフードを脱ぐ。
片方は黒い髪を右に纏めたサイドテールの少女。もう片方は茶色い髪を左に纏めたサイドテールの少女。
そして二人の目の色は、黒髪の方がライトグリーン。茶髪の方が鮮やかなイエロー。
「………風刃」
「………雷刃」
そう二人が呟くと、それぞれの手元に得物が出現する。
風刃と呼ばれた方は、緑色の片手剣のように形状変化させた風属性の魔力。
刀身にあたる部分では風の刃が廻り、その切れ味は少し離れていても聞こえるほどの空を切り裂く音でよく分かる。
一方、雷刃の方もその迫力では負けていない。
バチバチ鳴り響く音は実際の雷と比べれば可愛いものではあるが、その凶悪性は武器としては十分すぎるほどだ。
こちらも風刃同様、片手剣のような形に変化させた雷属性の魔力だと思われる。
それにしても器用なものだ。
一見魔力の塊を生み出しているだけでただの魔法のように見えるが、実際はかなり高度なものだ。
私が使える魔法というのは、ただ属性付きの魔力を生み出して固めるだけ。だがこの二人は魔力の形を変え、そして研ぎ澄ませ、実戦で使えるまでの武器として瞬時に作り出して見せたのだ。私のそれとは次元が違う。
極めつけは、質量をもたない風や雷を用いて一つの武器として完成させている、ということだ。
いくら剣の形を作れたとて、それを掴み、振るうことが出来なければ剣とは呼べない。それは剣の形をしたただの魔力だ。
魔力はとてつもなく大雑把に言えば水や空気のようなものだ。本来触れることは出来ず、触れることが出来るようにするにはかなり複雑な構築式を組まなければならないそうだ。
正直魔術に関しては専門外であるのでそれ以上詳しいことは分からないが。とにかく一つ言えることは、あの二人が相当な実力者である、ということだ。
「……ふんっ…!」
「……せいっ…!」
「………ほぉ……!」
なんと、剣術もさることながら、なかなかの脚力、そして一撃の威力。
七体いた犬型の骨は的確に首元を切断され、一瞬にしてその生命活動を停止させた。
「……エル、最後の一匹……私がやりたかった」
「いいじゃないロヴィ……どうせ、これからもっと出てくる……」
これが、本格的な冒険者の戦闘か……………
(あぁ、これほどワクワクする人生は他にはないだろう……!)
早く私も戦いたい……!もう剣を振るのが待ちきれない………!
二人が起こした一瞬の出来事を眺めた後、私の気分は相当昂っていた。
黒髪の方がロヴィエ、茶髪の方がエルトです。
二人は双子の姉妹で、エルトの方が姉です。
風刃は「魔力を用いて作った刀身の風の刃がチェーンソーのようになっている片手剣サイズの武器」とでも思ってください。
雷刃は形状は風刃と大差ありませんが、別に刃は回転していません。ただ雷を固めた剣のようなものといった感じです。




