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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
転生村娘編

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#23 蒼洞窟、終戦

 その直後、激しい水飛沫が上がった。私の渾身の一撃は竜の水の体にへと直撃したが、そのせいで一瞬視界を奪われてしまう。


(チッ……! この状態で攻撃されたらまずいな……)


 だが今更引くなどという選択肢もない。私はその場での回転斬りで周りの水を無理やり吹き飛ばし、自らの視界をクリアにする。


 そうして見えた光景は、良くも悪くも私の思い描いた通りと言えるものだった。


 竜に残っているばっくりと割れた斬撃の痕。しかし先ほどのようにすぐに再生してしまうこともなく、数秒、そして十秒経過しても元に戻っていない。確実にダメージは竜の体に刻まれている。


 だが、言ってしまえばそこまで。

 言い方を変えれば、私のありったけを乗せた一振りは、竜にとどめを刺すには至らなかったということだ。


(…………)


 この場に、束の間の静寂が今訪れていた。

 竜はこちらに向かい吠えることもなくただじっと見つめる。だがその目には、先ほどまで嫌というほどに感じていた殺気は感じられない。ただただ私を見つめている様子。そしてその瞳に、もう戦う意志は宿っているとは思えない。


 そうして次の瞬間には――――私の身体中を、無数の小さな水の槍が貫いていた。


(グウゥッ……‼︎ いつだ⁉︎ いつやられた⁉︎)


 突如走る激痛、今まで感じたことのないようなタイプの痛み。体全体を一度に刺されるこの感覚は、転生後十五年間生きてきた中で最も鋭く、そして耐え難い痛みだった。

 

「………っだぁ……ガッ………ッ!? ……消えた……?」


 竜が消えたのではない。突如として襲ってきた激痛が一瞬にして消えてしまったのだ。あまりにもころころと変わる感覚に頭が追い付けなくなりそうだ。


 自分の体をよく見れば、何も刺さっていない。それどころか、何かが刺さっていた痕すらない。出血はおろか、痣のようなものも存在していない。そしてそれは、「刺されたような痛みではあったが、本当は高出力の何かをぶつけられていた」といったことでもないことを意味している。


 竜は変わらず私をただ見つめていた。その落ち着いた様子は何が起きたのか分かっていない私を嘲笑うかのようで、同時に一切の隙も見せていない。


 見てくれはとどめを刺す好機であるというのに、今一歩でも動けば本当に全身を刺されかねない……そんな気持ちにさせるそれは、まるで放たれない殺気のようであった。


 内に秘めたそれを決して自分以外には見せない。それは奴のプライドであるのだろうか、あるいは…………


「……そういうことか。あまり私を舐めるなと、そう言いたいのだな……竜よ」


 先ほどのあれは、おそらく竜に見せられたイメージ。たかが傷一本つけただけで図に乗るなと、それで私に勝った気でいるのではなかろうなと、そう訴えているのだろう。

 

 ならばなぜ、竜は今この瞬間に攻撃してこないのだろうか?

 私に屈したはずでは毛頭ないはずであろうし、力を使い果たしたわけでもないはずだ。


(……いや、その気になれば、今すぐにでも今の私程度殺せるはずだ。事実、初めの方は本気で私を仕留めにかかっていた……)


 初手で私を殺すつもりだった。だがしぶとい私は中々地に伏すことはなく、竜と戦った。長引く戦闘時間の中で、竜は一体何を思ったのだろうか。


 そんなことを考えていた時だった。瑠璃色の竜は、私から目を逸らす。いや、そのまま背を向け、何もない壁にへと歩き始めた。


(一体何を?)

 

 その行動の意味が分からなかった私だったが、なぜか背に斬りかかるという考えが浮かばなかった。その選択は、何か駄目な気がしたのだ。


 そうして水の竜は、どこからか現れた水のヴェールに身を包み、やがてそれと同化したのちに、音もなく私の前から姿を消した―――――






「……過去に類を見ない強敵だった」


 数分してから、私はとうとう我に返る。竜がいなくなったからか空気中の魔力は薄くなり、普通にしていても身体に異常は出ないような環境にへと化した。


 前世と今世。併せて百年近くこの世界で生きてきたが、あそこまでの力を有する存在がいたとは。世界もまだまだ私が思っているより広い、ということだろうか。


「しかも、あの竜………おそらく全然本気じゃなかった……」


 人間が羽虫を殺すくらいの気概。ほおっておいても特に害はないが、近くにいられると苛立つ、だから始末する。そんな感じだろう。あの竜から見た私は。


「………? なんだあれは?」


 しばらくして、竜が去っていった場所に何かが落ちていることに気づいた。

 歩み寄って見てみれば、美しく輝く瑠璃色の小さな(ぎょく)。直径三センチほどのそれは、どこまでも吸い込まれそうな美しさと存在感を放っていた。


 そして拾い上げようとして、玉に触れた瞬間―――


「うぁぁああっ!?」


 見た目から想像できない膨大な魔力を感じる。それらはこの小さな玉の中で激しく渦巻いており、それは先ほどまで戦っていた竜を彷彿とさせるものだった。


「これは……何ともとんでもない置き土産だな…………竜よ、今回は引き分けだ……次は負けんぞ……!」


 次に戦えるのはいつになるだろうか。一年後、十年後………もしかすれば、再戦する前に私が二度目の寿命を迎えてしまうかもしれない。


 だが、自然とそう近くない将来に再び相まみえることになるだろうと、私の中では信憑性のない確信があった―――――

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