豆知識 ニュートン
科学が現象を明らかにする際に用いる、「記述」と「説明」という言い回しがある。
ケプラーは天体の振る舞いを数式に落とし込んだわけだけど、それは運動のデッサンに過ぎず、根底にある原動力を組み込めていないため、「記述した」と言う。
一方でニュートンは、ケプラーの法則に「なぜ」を加えて運動の意味とメカニズムを明らかにし、すなわち「説明」をした。
ニュートンは、天体の軌道が楕円を描く他に、ところどころで不規則に振れるのが気になっていた。
そこで、その点までを網羅した根本理論を築こうと、まず慣性の法則を念頭に置いた。
ガリレオの、例の「動きはじめた物体はまっすぐに動きつづける」「ただし他から力を加えられないかぎり」というやつだ。
天体は、天上界を動きつづけているが、まっすぐにではなく、ゆがんだ軌道を巡っている。
そこで彼は、天体の運動には目に見えない力が干渉している、と考えたわけだ。
それは地上ではおなじみの、地球の中心方向への垂直ベクトルだとひらめいたが、ニュートンはもう一歩、思考実験を進めた。
地上で、大砲をあまりにも強く(つまり速く)水平方向に撃ち込めば、弾は慣性に従い、発射地点から見る水平方向を差したまま、宇宙空間へと飛び出していくだろう。
が、実際には弾の軌道は目に見えない力で地面方向に曲げられ、地球の丸みに沿って飛びつづける。
そしてついには地球を一周し、大砲の射手を後方から撃ち抜くにちがいない。
だったら、月も同様に「何者かが巨大な大砲で撃ち込んだ球体にすぎない」と仮定すれば?
月の直線運動もまた、地球の中心に向かうなんらかの力、言わば「地球引力」から干渉を受け、地球をぐるぐると巡ることになるはずだ。
今、まさに空で起きている現象のように。
しかしこれだけでは、天体の不規則軌道という事実にフィットしない。
ニュートンがたどり着いた結論は、「万有引力」だ。
つまり、地球もまた「月引力」からの干渉を受け、月に向かって落ちている、という。
ただ地球があまりに大きいため、小さな月が地球を巡って見えるのだ。
その正円とは言えない回転軌道の軸は、なんてことはない、地球の中心ではなく、地球と月とを結んだ間にあったのだ。
さらにその運動は、太陽や他の惑星の引力からも干渉を受けている。
これでついに、天体の不規則軌道に「説明」がつく。
天体同士は、お互いに引っ張り合っていたのだ。
一件落着だ!
・・・ところが、のちに現れるアインシュタインのせいで、ニュートンのこの説明もまた「記述」に格落ちしてしまう。
なぜなら、ニュートンは「なぜ天体同士が引っ張り合うのか」についての説明をしていないからだ。
なんてことだ、相対性理論編にさらにつづくなんて。




