原子・4
水素原子は、原子核に陽子がひとつ、外周の軌道上に電子がひとつ、という最もシンプルなユニットだ。
甲子園球場のグラウンドの中央にあずき大に集中した電荷+1のエネルギーがあり、球場のワンブロック全体に電荷-1の霧が立ち込めてる、という描像をイメージしよう。
原子とはこうまでスカスカの空っぽで、いわゆる物質的な手応えがどこにもない。
では、ぼくらが感じる触感というのはどこからくるのか?
球場もの大きさの原子モデルは扱いづらいので、手の平にのるほどのカプセル大に縮小しよう。
この野球ボール大の透明なカプセルにした水素原子を、ふたつ用意する。
複数の原子を寄せて、分子をつくるんだ。
基本的に原子内の電荷は±が相殺されて中性の体を取ってるけど、ふたつのカプセルを近づけると、まずは外縁に配された-電荷同士(電子×2)が反発して弾き合う。
ところが原子核の+電荷は、自分の電子と同時に、相手の電子の-電荷も引き寄せる。
つまり双方の原子核は、双方の電子をクロスして引っ張るわけだ。
こちらの原子核があちらの電子を引き寄せ、あちらの原子核がこちらの電子を引き寄せて、ふたつの水素原子は、電子にひょうたんの軌道を描かせる形で混じり合う。
が、原子核同士は同電荷で反発し合うから、お互いの中心部分が触れ合うことは決してない(触れ合えば核融合爆発が起きる)。
これが共有結合、すなわち水素分子「H2」の構造だ。
さて、ここで思い出すべきなのが、水素原子とはスカスカの空っぽの手応えゼロの実体なしオバケだった、という事実だ。
それが、ふたつのカプセルをくっつけ、左右から思いきりプレスすると、ふたつの原子核同士は電磁気力で反発し合う。
このときはじめて「そこにものがあるような」抵抗が得られる。
感触が。
なにもないところに、なんと実体に触れてるような手応えが発生したぞ!
つづく




