原子・3
再び原子の大きな外観に戻る。
甲子園球場のグラウンドの真ん中にちょんと置かれたあずき大の原子核に対して、けし粒のような電子が球場の外周ほどもの広さで取り巻いてるのが、原子の姿なんだった
軽い電子は、2000倍も重い陽子に電磁気力で捉えられてる。※1
電磁気力もまた引力(または斥力)なんだけど、電子は凄まじい運動量による遠心力で原子核から遠ざかろうとする。
つなぎとめられながら、逃げ去ろうとする結果、これがうまい具合いに釣り合う。
電荷−1の電子に対し、原子核内の陽子の電荷は+1と、なぜか力関係が逆向きにピッタシなんだ(ちなみに中性子は±0)。
これには、原子核内の核子に三つずつ収まるクォークの電荷が関係してる。
クォークには2種類あり、アップクォーク(U)とダウンクォーク(D)という。
Uの電荷は+2/3で、Dの電荷は−1/3だ。
陽子はUUDというユニットで構成されてて、電荷を足すとちょうど「1」、中性子はUDDの構成で、差し引きするとちょうど「0」になるんだ。
まったく、自然にはなんて精妙な計算が働いてるんだろう。
こうして電子は、2000倍もの質量差がありながら相性どんぴしゃな陽子に寄り添うように、球場外周の軌道をぴたりと取る。
だけど、たまに−1の電子が、引力に吸い寄せられて+1の陽子に捕獲されることがある。
この際には、陽子の電荷が相殺されて±0になり、中性子に変容する。
これがいわゆる「崩壊」だ。
まったく面白い関係だよ、原子を構成する三人ときたら。
つづく
※1 これらを構成する素粒子には実体がないと言ったけど、特殊相対性理論のE=mc2により、そのエネルギー量は質量に換算できる。素粒子はつぶじゃなく、純粋なエネルギーと認識しておいた方がいい。




