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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・35

単純なスイッチ方式の眼から入った明暗情報は、単純な線状の神経に伝達され、単純な反射反応としてあなたのからだを突き動かし、「逃げる」あるいは「食う」などの活動をうながす。

視覚情報は、個体の運動と直結してたのだ、最当初には(勝手な自説なので、今回はすべての語りに「たぶん」が入る)。

しかし、眼の機能と神経との連動が高度に発達しはじめ、それにともなって、遺伝子はもうひとつの大発明をする。

眼から入った情報を、神経細胞のある場所にいったんストックさせたのだ(たぶん)。

神経節におけるこの寄り道のせいで、反射反応は鈍くなるが、それを差っ引いて余りある利が出るために、このタイプの進化系は生き残ることになった。

視覚情報のストック場とも言えるこの中継地は、眼の裏側にささやかなスペースを与えられ、後に生物全体の運命を変えるほどの大進化を促すことになった。

眼が受容した、例えば1ピクセルの視覚情報は、神経を伝ってこの「広場」に電送され、1バイトのファイルとして保存される(ピクセルとバイトの変換値はここではまったくでたらめなので注意)

この場で集積される逐一の情報の相互比較により、あなたは「過去」「現在」という概念を知るに至った。

蓄えられた旧情報は過去の知識として地図化され、随時に更新される新情報は現在進行中の状況を表すのだ。

この神経節の広場にファイリングされた地図と状況こそが、あなたが見る外界の姿(の解釈)であり、これまでくどくどと説明を試みてきた「あなたが脳裏に構築する幻想の世界像」なのだった。

あなたはついに自分の世界を、すなわち、脳を持ったのだ。

かつてゼロ次元、一次元・・・そして二次元だったあなたの世界は、眼の発達によって三次元になり、時間という概念を獲得して四次元の時空構造となった。

眼の構造はさらに進化し、水晶体の発達で視覚情報の鮮明度は100倍加した。

光量子の可視光帯の波長をスペクトルに分解して理解するようになり、世界はカラフルに彩られた。

画素数は激増し、ピントや絞りの機能まで獲得した解像度は素晴らしくクリアになり、そこから送られる情報を預かる脳はますます大きく、深く、濃密なものになっていく。

おまけに神経系を束ねるこの広場には、聴覚情報や味覚、嗅覚、触覚情報まで集まってくる。

記憶のバイトは、キロになり、メガになり、ギガになり、テラになり・・・あなたが築く世界は壮麗かつ細密になっていく。

あなたはすでに、それをコントロールできるという自覚も持っている。

運動神経系まで牛耳りはじめたあなたには、集めた情報を世界における活動として反映させることもできるのだ。

こうして生命の中枢部という立場を与えられた脳は、いよいよ肉体という生命機械を操縦しはじめる。

別の言い方をすれば、脳内に発生したあなたが、いよいよ自由意志を持ったというこだ。

自律的だった活動が、意図的なものになったのだ。

「ゾウリムシって、いえば一本の神経なのよ」とペンローズが書いてるが、情報の受容と反射反応の関係とはそういうことなのだろうと思う。

スイッチ→起動、というシンプルなシステムだ。

そんな神経をやみくもに集めたものが、多細胞生物だ。

そのこんがらがった配線を、進化律が整えた。

そしてあなたは、神経束が集めたおびただしい情報を、脳の一点に集中させた。

さらに、インプット系から情報基地を経てアウトプット系に至るトランジットのタイムラグを利用して、「判断する」という作業を覚えた。

そうして、ついに生物としての真の営みを開始したのだった。

自分で考えることができるって、なんて素晴らしいことだろう。

意識の獲得で過去と現在を生きてきた脳、すなわちあなたは、ついに未来を決定できる高みに至った。


つづく

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