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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・34

この世に初の「お目見え」を果たした目は、光を落っことすピンホールだった。

穴に差し込んだ光が底まで一直線に進む、というところがミソだ。

光が進めるわずかな距離を設けたことよって、捕捉物体の位置が特定できるのだから。

穴の底部には、光か影かを判定するオン・オフスイッチが組み込まれ、その視覚情報は「1ピクセルのモノクロ画」と考えることができる。

原始生物であるあなたが見る世界(例によって、神経系の配線によって築かれるあなたの独自解釈世界)は、白か、黒か、そのうちのどちらかのシンプルなものなのだ。

それでもこの光量子捕獲装置は、肉体組織とダイレクトに連動されることで、個体が生存する確率をぐんと高めてくれる。

何者かが目の前に近づくだけで「逃げろ」の電気サインが出され、危険が自動的に回避されるのだから、相手に触れなければわからなかった(触れてもわからなかったが)これまでとは大違いだ。

この単純お知らせシステムは、あなたが主体的な行為者として覚醒する前段階の、機械的な反射反応と言える。

この全自動式のからくりを進化させ、刺激→反応のみの活動から、状況判断→意図的行動という、主体性を持った個体の営みへと洗練させていきたい。

というわけで、またシミュレーションだ(ところで「め」の字だが、ここまで「見る」という概念を表現してきた「目」から、肉体のパーツ・機能としての「眼」に改めさせてもらう)。

さて、遺伝子の偶発的な変異という暁光に与り、めでたく一つ眼(独眼)を獲得したあなたなのだった。

進化は、この「着眼」のステージが最も困難で、それに比べたらここから先の展開は、出来合いのものを応用し、更新していくだけなので、時間をかけさえすればわりとイージーに進める。

新発明した一つ眼を応用しようという遺伝子は、まずは最も安直に「ひとつをふたつに増やす」ことを思いつき、二つ眼(双眼)を試そうとするに違いない。

こうして、後の世代に進んだあなたは、進化の過程で二つの眼を手に入れる。

あたりまえに思えるこのアイデアだが、効果は劇的だ。

なにしろ、一つ眼だと点でしか確認できなかった外界が、二つ眼になると線で解釈できるようになる。

あなたのゼロ次元だった世界は、一次元になる。

具体的には、二つの眼が持つ2ピクセルが時間差で点滅することで、目の前の相手がどちらからどちらへと移動したかを理解できる。

ピンポイントだった位置情報が、動きを持つことになったのだ。

あなたの神経系(頭脳はまだない)は、「方向」という概念を手に入れたわけだ。

気をよくした遺伝子は、三つ眼を試す。

線だった世界が、いよいよ面になる。

方向しかわからなかったあなたは、広がりという概念を手に入れる。

蛇足だが、オレはこういう話をする際に、小学校の頃に教わった俳句を必ず思い出す。

それは「米洗う 前『に』ホタルが ふたつみつ」という句だった。

先生は、「これはホタルの位置を点で表している」と言うのだ。

これに方向を持たせるには、「米洗う 前『へ』ホタルが ふたつみつ」とすればいい。

さらに広がりを持たせるために、「米洗う 前『を』ホタルが ふたつみつ」とするのだ。

静的空間が、一字を入れ替えるだけで、これほどまでに動的になろうとは!

なんという美しい、そして奥深い日本語表現であろうか・・・

おっとと、閑話休題。

んで、なんだっけ?あなたは三つの眼を持つことで、広がりのある世界を手に入れたのだった。

縦方向と横方向の空間を理解できるようになり、あなたは紙の上を動きまわるマンガの登場人物のように、二次元世界を生きることになったわけだ。

ここから先は、四つ眼が試され、六つ眼が試され、さらなる複数眼が試された。

が、結果は同じことだった。

二次元よりも先へは進めなかったのだ。

ところが、そこを限界とあきらめなかった遺伝子は、着眼点を変え、世界のさらなる更新を求める。

このイノベーションはすごい。

なんと「複数の眼をひとくくりにまとめて片眼とし、それを2セットにして」、あなたに与えたのだ。

すると、あなたの視界に、ついに三次元世界が立ち現れた。

あなたは、奥行きという概念を知り、世界を立体像として構築したのだった。


つづく

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