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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・31

前章は「です・ます」調で、ちょっと詐欺宗教的なまじない感やスピリチュアルトーンな違和感が漂ってたんで(だまして引きずり込もうとしてる感じ?)、より噛み砕いてカジュアルにするために、この章ではタメ口を使わせてもらう。

つわけでここまで、あなたには赤ちゃんになって「主体的体験が及ぼす思考形態の発達プロセスと自我の形成」のシミュレーションを追体験してもらったのだった。

それを踏まえてここでは、もう少し抽象的な形で構造理解を進めたい(というか、オレの考えを説明したい)。

またあなたには、赤ちゃんに戻ってもらうことになるが。

さて、赤ちゃんとは要するに、ハードウェアが初期状態の生命装置なのだった。

空っぽの容器とも言えるそいつが、あらかじめセットされた遺伝子というソフトウェアによって起動し、メカニズムが自律的に活動を開始する。

が、そこに意図や目的は(まだ)ない。

ただ「死なないようにしろ」という本能の命令に従い、防衛行動に突き動かされるのみだ。

そうしてあなたは、体験をし、周囲の反応を見、情報を得て、経験値の集積装置である脳を発達させる。

脳裏(頭の内側)には、あなた独自の望洋とした世界が徐々に立ち上げられていく。

さて、情報は主に目から入ってくる。

この目というやつだが、われわれ生物は、実は目で世界を見てはいない。

分子生物学と量子力学によれば、目は外環境(真実の世界)を行き交う任意の素粒子を抽出してすくい取るための、ただの捕獲装置だ。

目とは、ザルなのだ。

言い換えれば、可視光というせまい波長帯を泳ぐ波を濾して取り込み、増幅させて脳に送り込むだけのユニットなのだ。

この「すき間の粗い不完全なレーダーアンテナ」に受信された情報が、脳の奥で分析され、脳裏をスクリーンとして映像化される。

さらに、この映像の中で重要と判断されたものはしかるべきファイルに保管(記憶)され、無駄なものは廃棄(忘却)される。

こうして、脳内の引き出しである大脳新皮質(脳裏=頭骨の裏側の部位)に情報は蓄積されていく。

ちなみに、この新皮質に保管された情報は非常に具体的で、例えばある人物の新皮質には、「ジェニファー・アニストン(ブラピの元妻)」専用のファイルがあると判明してるほどだ。

これは、脳のその一点をつつけば、ジェニファーなにがしの情報が物理的に取り出せる、という意味だ。

さらに、そのジェニファーファイルにつながる込み入った脳内の配線があり、別のファイル(「ブラピ」や「離婚」というワードとか)に寄り道したり遠回りをして絡まったりする線を通電する情報のルート模様によって、ジェニファーなにがしの性格づけ(クオリア形成)が行われる。

その絡まり合って通電する配線のエリアこそが、「あなたのジェニファー・アニストンのイメージ」ということになる。

こうして情報は「肉体化」され、あなた独自の観念が形成されていくわけだ。

さて、今とても重要なことを書いてみたのだけど、カッコしといたから気づいた?

そう、記憶や体験や印象とは、心や魂やその他の神秘的な現象に還元されるわけではなく、シンプルに「肉」の問題なのだ!

脳内の神経接続の通電ルートこそがあなたの観念の姿(すなわち物理的な形)なので、心とは、リアルにタンパク質と電子と化学物質の活動に分解できると言っていい。

そこに霊的なものの介入はない。

話を進めるが、こうして情報集積作業を進めるうちに、赤ちゃんは脳の内部に世界を創造していく。

最初には空箱だった脳裏に肉付けがなされ、体験によるフィードバックで、当初は謎に思えた物体や現象に辻褄の合う説明書きが付け足されていくわけだ。

通電する配線のエリアが編み重ねられて層構造になることで、イメージが細密かつ肉厚に育ち、世界がより鮮明で説得力を持ったものになっていく。

「目→脳システム」が風景を描き出す過程を要約すれば、こうだ。

目というアンテナが外環境から視覚情報(素粒子の配置や、速度と運動の方向など)を収集し、神経経由で脳内に電送する。

脳内では情報の解析(人類の限界である三次元解釈をするための分解・再構成)が行われ、外環境における素粒子の配置図(記号情報と言える)を、具体的な映像に構築し直す。

視覚野の奥で立ち上がったその映像は、脳の感受性の分野が試聴することになる。

いわば、外環境の素材と、新皮質に蓄積された印象が結びつき、あなたのその時点での心模様が構成されるのだ。

砕けた表現で言えば、脳裏をスクリーンとして放映される「あなたの世界」という映像を、脳内にいるあなたが視聴するということだ。(「脳内にいるあなた」の概念については、次章で説明する)

これがくどくどと述べ立てているところの、あなたは目で世界を見てるのではなくて、脳で世界をつくってる、の意味だ。

こうして脳内の絡み合う配線を使い、あなたは「外環境由来の情報素材を元にした世界」を立ち上げたわけだが、ある日ふと、その外環境に向けた主体的な活動が可能であることを知ることになる。

映像が垂れ流しになっているスクリーンの脇に、コントローラーが転がっていたのだ。

それを操ると、なんとあなたが大好きだった映像の中のキャラに向けて、「ママ」と発声できることがわかった。

すると、そのキャラがこちらに向け、さらに好ましい態度を取ってくれるではないか。

すばらしい。

あなたは、外環境への働きかけの能力を得たのと同時に、「わたし」という未知の概念に触れたのだった。

それはさらに、映像の内容との双方向なやり取りの実現可能性を示唆する!


つづく

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