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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・29

ひとの内面に、自我はいつ芽生えるのでしょうか?

深夜に布団にくるまって考えているうちに、ぼくは赤ちゃんになっていたのでした。

そのときの不思議なイメージ体験(思索)が、ぼくの死生観、タマシイ観のベースになりました。

ここでは、そのときのシミュレーションを「あなた」に追体験してもらいます。

お父ちゃんとお母ちゃんの遺伝子が減数分裂でひとつに結ばれ、胚となりました。

つまり、お母ちゃんのおなかの中に、もうひとつの命が・・・あなたの初期細胞が発生したのです。

とは言え、あなたはまだお母ちゃんの一部です。

細胞分裂によって日に日に大きくなっていきますが、ぬくぬくとした閉鎖系の羊水の中で栄養を与えられ、へその緒でお母ちゃんの臓器につながれていて酸素の供給も行き届き、一個体として独立できてはいません。

おなかの中にいる赤ちゃんは夢を見ている、とよく言われますが、少々疑問です。

ただの細胞の固まりであるあなたはまだ、ただひとつの体験もしていないので(あるいは、閉所に固定されていることしか体験していない、とも言えますが)、夢を見るとしても、その内容は暗闇オンリーでしょう。

体内にめぐらされつつある運動神経に通電すれば、若干動くことが許されますが、その活動は主体的なものではなく、外界からの刺激に対しての無意識な反射反応です。

さて、機が熟し、あなたはお母ちゃんの体内から、空の下の環境へと生み落とされます。

あなたは「おぎゃー」と言いますが、それはうれしいからでも苦しいからでもなく、はじめて気体を吸い込んだために起きたカウンター反応です。

こうしてあなたは、新しい環境に対する反応のみ(つまり、無意識)で、生という営みを開始します。

そこに、自我はありません。

「自分」という概念をまだ持ち合わせていないので、これは当然のことです。

生まれる瞬間(どのフェイズであなたが完成したのかはわかりませんが)に魂が込められた、ということもないでしょう。

この時点での脳はデフォルト(初期設定)と言っていい状態で、あなたは「あなたの質」をこれからつくり上げる機能のみを備えた、あなたとはまだ言えないあなたです。

この状態の人類は、どの個体もフルフラットな状態で、誰も何者でもないのではないか、とぼくは考えます。

二度同じことを書いて恐縮なのですが、この時点で赤ちゃんは、あなたなのだけれど、あなたになりきってはいない「初期生命装置」です。

さて、近い未来に本当のあなたになるあなたは、ぼんやりとしか見えない世界に可愛らしい瞳をめぐらし、(たぶん)産科の病室という小宇宙を見つけます。

そしてそこに、やけになれなれしい生物の個体(やがてママと認識する)を発見します。

が、そのうごめく塊はまだ「モノ」であり、小宇宙の一パーツにすぎません。

その光景を取り込み、あなたの脳はまず1ページ目を記します。

あなたのまっさらな内部に、新世界が立ち上げられたわけです。

さて、生み落とされたその小宇宙時空で、あなたはどう振る舞おうと考えるでしょうか?

あなたには生まれた実感がなく、「生きる」の概念もまだ持たないので、「生きていこう」とすら考えることができません。

ただ、あなたが生とともに持ち合わせた遺伝子に最初に刻まれているべき事項がありまして、それは「死なないようにせよ」という命令です。

生み落とされたばかりの無防備な生命は、太古の昔から練り上げられた適者生存の法則を正しく守り、傷つかないように、壊れないように、息の根が止まらないように、危うさを察知して回避する反応に徹するのです。

というわけで、あなたは潜在的な本能を発動させ、不快なことから逃れようとします。

痛ければ、泣いていやがってみる。

寒ければ、泣いていやがってみる。

体内の栄養が尽きたら(おなかが減ったら)、泣いていやがってみる。

不潔な分泌物にまみれたら(うんちが出たら)、泣いていやがってみる。

泣いていやがるの一辺倒。

こうして消極的な営み(ディフェンス)をつづけて長らえるうちに、ついにあなたは新たな生理的発見をすることになります。

それは、数億年という日々を送って数々の実験を経た遺伝子が組み込んでくれた、報酬系ホルモンの分泌です。

つまり、生命を発展させようというポジティブな活動にはごほうびが付与される、という体内メカニズムです。

ご飯を食べると、おいしい!

それをすると、からだが大きくなる!

うんちをすると、気持ちいい!

それをすると、体内が浄化される!

手足を動かすと、心地いい!

それをすると、からだが強くなる!

こうした体験を積むことで、あなたの脳内のニューロンは伸びに伸び、シナプスの接続部は激増し、たんぽぽの綿毛が放散して野原一面をお花畑にするように、あなたの脳内は経験と知識で一杯になっていきます。

そうしてついにあなたは、脳内世界に特殊な形で存在する「わたくし」という概念を見つけるのです。


つづく

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