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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・18

さて、そんな物質生成プロセスが、転がりに転がって、現在の宇宙の大構造に展開したわけなのでした。

色彩鮮やかで変化に富む、豊潤極まる多様世界に、です。

・・・なんだか不思議ですよね。

なぜなら、最も単純で確率の高い(つまりナチュラルな)宇宙の進展は、一様な確度で素粒子たちが生成され、ビッグバン以降に拡大をつづける空間に完全な均衡を保った状態(どこを切り取っても一律)でひろがっていく、という形のはずです。

なのに、宇宙にはガスが偏っているし、そこには銀河もあればブラックホールもあり、あまつさえ生命体などという複雑系が存在しています。

整理整頓が行き届いた要素を解体し、エネルギーゼロの果てしない「無の平面」にならすのがエントロピーの役割なら、単独では使いものになりそうにない素粒子たちを、特異点から飛び出した勢いそのままに、散らかったまま交わらせず、各々まっすぐに進ませればよかったのです。

それだけで、エントロピーはなんの障害もなく増大しつづけ、たちまち目指す荒野に落ち着くはずでした。

その点において、現実の宇宙の秩序立った入れ子細工と有機的な連動は、意図的と言っていいほどの不自然さがあります。

ここに、ちょっとした生命の謎のヒント的な・・・生命体の誕生と宇宙の大構造展開のプロセスに類似点を嗅ぎ取るのは、こじつけでしょうか?

と、このアイデアはしばらく横に置いておいて、宇宙構築のプロセスを突き詰めます。

ビッグバンが生み落とした、素粒子とは名ばかりの量子ときたらとんだやんちゃもので、ここにいるのに同時にあそこにもいるという「もつれ」に、いながらにしていないという「重ね合わせ」ときては、その振る舞いは予測不可能です。

波の姿で空間にひろがっているのに、観測者の存在で収縮して粒子になる、などという変幻癖はまだまだ序の口。

量子の存在を表す関数の「いるかいないか50%の確率」とは、「いるといないの両方」ということであり、「いるけどいない」と「いないけどいる」が半々ずつ、という理解を超えた内容を含んでいるのです。

表現が難しいのですが、量子にとって50とは、1か100か50か、ということではなく、1か100か「1と100の両方」なのです。

意味がわからないでしょ?

放射性物質の半減期、も奇天烈です。

一個の放射性同位体は、半減期の間、崩壊前と崩壊後の両方の状態を同時に取っているというのですよ。

半減期を終えて観測をして、はじめてそれが崩壊を終えたかどうかがわかるのです。

このコペンハーゲン解釈に、アインシュタインさんは大反発をしましたが、すべての実験結果がその現実を示唆しているので、最終的には納得せざるを得ないのでした。

量子とはそんなあやふやなものですから、おびただしい素粒子がビッグバンから一直線に飛び出すというよりは、宇宙空間でモグラ叩きのように現れては消える、とした方がより正確な表現となります。

この性質を踏まえて、以前の章で雑に描写した宇宙成長の様子を細密ぎみに加筆すると、次のようになります。

ビッグバンは、物質の種であるクォークと同時に、世界に「力の素粒子」を与えることも忘れませんでした。

重力の量子場から発生する重力子=グラビトンは、質量を持つもの同士の引き合いを媒介する、例の「万有引力」の因子で(この「質量を与える」のがヒッグス場のヒッグス粒子で、重力子は相対性理論によれば「時空間をゆがめる」役割のものですが、ここでは「物質は引きつけ合う」というニュートン力学の表現を採ります)、物質を寄せ集めてひとつに丸め込み、練り上げて天体をつくります。

一方でグルーオンの核力=強い力は、核融合や超新星爆発で、天体の破壊に努めます。

重力子が、閉じた系をつくってコツコツとエントロピーの減少を試みるのに対し、グルーオンの強い力は、収支計算でマイナス分を補うにあまりあるエントロピーの増大に努めるというカウンターバランスでせめぎ合って宇宙を耕し、その仕事からこぼれ出た元素に、光子の媒介する電磁気力が働きかけます。

われわれの物質世界を、事実上構築しているのは電磁気力で、それの及ぼす化学反応(元素間の電子のやり取り)が、さまざまな性質を持つ分子構造をつくり上げてくれるわけです。

かくて、ぼくらが生きるこの複雑極まるわりに組織立った世界は、精妙につくり込まれていきます。

ビッグバンからこっち、世界は一直線にエントロピーの最大値を目指すのではなく、量子の振る舞いが許す遊びしろをつかって回り道をし、束の間(というにはあまりにも長い間)、こんなにも秩序よろしく整頓が行き届いた構造を許されたのでした。


つづく

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