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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・17

あなたは運命を信じますか?

昔、運命は信じてよいものでした。

ニュートンさん(あるいは、ラプラスさん)の計算式の時代までは。

ところが、相対性理論がニュートン力学を論破し、量子力学が幅を利かせるようになると、運命は「ゆらぎ」と「もつれ」と「波動関数」に揉まれて無数に枝分かれするものとなり、「あなたのゆく末を定めることはできない」と結論づけられることになりました。

すべての結果は、原因から発生します。

ある時点における宇宙のすべての状態が物理的・力学的に確定的なら、未来における宇宙の全運動(すなわち、将来の出来事)は確定的に思えます。

ある位置に置かれたビリヤードの白玉を突くとして、その力と方向が完全に確定すれば、その玉の飛ぶ方向は確定的であり、さらにその先に配されたどの玉とどの玉にぶつかってどれがどのポケットに入るか、というところまで確定できるわけです。

それを宇宙に置きかえれば、ビッグバン時の初期値がその後の宇宙の物質の振る舞い一切を決定した、となります。

つまり、ビッグバンが素粒子を散らした時点で、将来に起こる事件はすべて運命づけられていたのだ、と。

ところが、そうではなかったのです。

おびただしいツブツブ(素粒子)に力と方向が確定的に与えられた、と考えられていたこのオープニングイベントは、ビリヤードのように単純なドミノ倒しをしてくれるものではありませんでした。

ビッグバンが開いた空間にひろがったのは、物質としてのツブツブではなく、茫洋とした量子場だったのです。

要するに、波が立ったのです(・・・だろうね、と熱心な読者は感じていることでしょう)。

今「量子場」と書きましたが、これはビッグバンによって生まれた空間いっぱいにひろがる「波の立った次元」です。

ビッグバンは、波打つ次元を何層にも重ねた空間を生み出したのです。

そして、この波の高い部分に「確率的に」素粒子が生成されまして、それらが相互作用することにより、力も発生します。

非常に難しく、直感に反したメカニズムですが、説明を試みてみます。

例えば、開いた量子場のひとつに、クォークの場があります。

この波打つ場の頂点に、一個のクォーク・・・すなわち、本当の意味での素粒子が出現します(反物質として電荷が逆の反クォークも対生成されますが、ここでは省略)。

隣の波の山でも、その隣でも、クォークが出現しまして、合計三個ができました。

その波に重なって、グルーオン場という量子場もありまして、波の高いところ(これが「量」です)でグルーオンという素粒子が生成されます。

このグルーオンは、核力(強い力)を媒介する素粒子でして、クォーク間に働いて三つをくっつけてしまい、一個の陽子を構築する役割をします。

つまり、こうして水素原子核ができたわけです。

ここにさらに重なって、電子を生成する場、光(フォトン=光子)を生成する場が存在していまして、今さっきできた水素原子核(クォーク三つ+グルーオン)と電子が、光が媒介する電磁気力で引き合って、一個の水素原子を構成する、というプロセスを踏みます。

物質はこうした量子場の相互作用によってできているのです。

要するに場とは、素粒子を生んだり消したりする波打つ次元です。

そして、この波が高くなったところに、高確率で素粒子が出現するわけですね。

その生成は、ただただ可能性のパーセンテージで示せるのみであって、シュレディンガーさんの波動関数の計算式によると、絶対に確定ができません。

さらに素粒子は、ハイゼンベルクさんの不確定性原理によって位置と運動量があやふやなシロモノとされているので、絶対にシッポをつかませてくれないのですよ。

要するに素粒子は、ここにいるのかそこにいるのかわからない、いついていついなくなったのかもわからない、という、ツブらしからぬ振る舞いをするのです。

しかも、「力」って、素粒子だったのですよ!

重さも、電気も、ベータ崩壊も、素粒子なのです。

逆に言えば、人間って、波なのですよ。

こんなやつらを、ビッグバンは宇宙中にばらまいたのですから、運命ときたらたまりません。

はてさて、どっちに転ぶやら・・・ですわ。

しかし、いつか書いた「宇宙マイクロ波背景放射」が、宇宙空間に完全に均一に・・・いや、ほんの少しだけ揺らいで漂っていることから、場が完全に均衡している(素粒子が当初、完全な等間隔で配されていた)ことは間違いありません。

たった今、「ゆらぎ」という言葉を使いましたが、素粒子の曖昧な性格のせいで、初期値にわずかな遊びしろが発生し、それが増幅されていったわけなのですね。

そのせいで、あなたの運命も定まらない、ということになります。


つづく

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