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科学コラム  作者: もりを
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生命の誕生、その思考実験・3

卵が先か、ニワトリが先か、という結論の出ない問答がある。

生命体における自己複製とは、突き詰めて言えば、タンパク質を各種合成して適切な箇所に配置する、という作業だ。

ここで問題になるのが、タンパク質が先か、それをつくる機械が先か、という点だ。

機械(生命のメカニズム)は、多種のタンパク質が組み上がってできている。

そのタンパク質は、機械によって生み出されている。

その機械はタンパク質からできており、そのタンパク質は機械からできていて・・・と、一体どちらが先だったのか?

いずれにしても、双方とも「あるときポンと」できるのは難しそうだ。

なんと難しい問題が、この最初の段階で出てくるのだろう。

あまつさえ、最初の生命体である「彼」がつくらなければなないのは、ただのタンパク質の構成体としての自分(の肉体)ではなく、「自分をもう一体つくることのできる自分」でなければならないのだ。

話が理解できているだろうか?

ここで、ある想像上の機械をつくることを考えてみる。

「自立式かつ自己完結式に自己複製ができる機械」を。

・・・よくわかるまいから、思考実験でそいつを実際につくってみよう。

その機械は、外からなんの干渉も受けずに、自ら動いてすべてをやってのける賢いものでなければならない。

その最終目的は、「自分のコピーをつくる」ことだ。

さて、まずは機械にエネルギー機構を取りつけ、自立的に動けるように配線をする(生命の獲得だ)。

そのエネルギーを使って工作活動ができるように、手、足をつけ、自在に動かせるようにする(運動能力の獲得)。

さらに、故障しても、機械自身が壊れた箇所を直せるような自己判断能力と修復機能を取りつける(機械は新陳代謝が可能になった)。

機械が自分を修理するには材料がいるので、それを外界から取り込み、部品として加工する機能も取りつける(補食と消化機能も手に入れたぞ)。

この「新材料獲得機能」は重要だ。

なにせ、機械が自分をもう一体つくる際には、材料がふんだんに必要になるのだから。

さあ、いよいよ機械に、もう一体の自分をつくらせる機能を盛り込まなければならない。

自分を複製するのだから、機械は自身の設計図をつくれなければならない。

この設計図が、やたらと複雑になってくる。

機械は設計図に、自分を構成する部品とその配置という「ハード」面を記した上に、自分に詰め込まれた上記の・・・つまり、運動機能、新陳代謝機能、補食と消化機能などの性能と、その使い方という「ソフト」面をすべて書き込まなければならない。

機械は、われわれがした作業をそっくりそのまま、自分で再現することを要求されるわけだ。

こうして機械は自分の複製をつくるが、もうひとつ、機械にさせるべき仕事で忘れてはならないものがある。

それは、複製にも次の複製をつくらせる、という伝言作業だ。

機械は、われわれがしたことをそっくり真似し、そして次の世代にそっくり真似させなくてはならないのだ。

こうしてはじめて、機械は未来永劫、自分のコピーを増やし続けることができる。

なんという複雑さだろう!

もうおわかりだろうが、機械に例えたこの一連の工程は、驚くべきことに、最初期の生命体が・・・鉱物に毛の生えたような(毛が生えるのはまだまだ先の話だが)原形質のごとき単純な物体が発明し、獲得した、生命として最も基本的な営みなのだ。

これらをコードスクリプト化して伝えていくことこそが、自己複製、つまり生物の増殖のコアの部分なのだが、本当にあの細菌や一個の細胞にも劣る心細い装備しか持ちえなかった原初の生命体が、こんな作業をやり遂げたというのか?

きみはできるだろうか?自分の姿かたちと体内の構造、それをどう使ってどう振る舞い、どう生きていくか、なんてことまでを事細かに言語化してメモに書き起こし、子供に正確に伝える、なんてことが。

ところが、そいつをやり遂げたのだ。

たった一個の、最初のご先祖さまは。


つづく

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